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HAPPY END(4)◆ANI2to4ndE ◇ ドモン・カッシュが逃走し辿った方角は、西だった。 あれだけ豪胆に挑発してきたのだから、単純な逃走ではないのだろう。 おそらくは、仲間を逃がすための時間稼ぎか。 ヴィラルは冷えてきた頭で、次なる対戦者を探し求めた。 「ヴィラルさん……やっぱり、あそこで全員しとめておくべきだったんじゃ?」 「言うなシャマル。おまえを愛するオレだからこそわかる。奴らがどんな想いで、最後の戦いに臨んでいるのかが」 「……彼らもまた、大切なもののために戦っている……」 「だが、淘汰しなければオレたちに明日はない。いいかシャマル。この戦い、勝者はオレたち二人だけだ!」 「ええ! あなたとなら、どこまでだって上っていける!」 泰然と歩を進めるグレンラガン。その操縦者たる男女は、頭部と胸部の各コクピットから愛を確かめ合う。 人としての愛を知ったヴィラル、八神家での自分を重ねたシャマル、二人揃って、スカーやガッシュの奮戦に感銘を受けた。 ねねねの悲痛の姿にも、思うところはあった。だからといって、ヴィラルとシャマルの天を突く愛が歪むことはない。 完全な形での愛の成就。 天元突破した二人だからこそ、目指す舞台は天井を突き抜けた遥か宇宙の果て。 敗北はない。ただ確かな勝利の感触を追い求め、戦う。 それが、愛し合う二人の選び取った道だ。 だが――その愛は、あまりに独り善がりだった。 他を蔑ろにし、愛する者のことだけを考え、愚直に吼える。 そんなものはヒトの愛ではない、獣の生殖本能だ。 幸福な未来を目指すならば、本当の愛を知れ、と――その男は語りかけたかったのだろう。 「いたわヴィラルさん! あの建物の傍に……」 「やはり、待ち構えていたか。あえて誘いに乗ってやったかいがあるというもの」 そう、言葉ではなく態度で示す。 とある施設の門前に仁王立ち、逃げず。 明確な闘争心と敵愾心を肌に表し、空気に流す。 ヴィラルはほくそ笑み、またシャマルに恐れはなかった。 彼となら、彼女となら、どんな強敵にだって負けはしない。 絶対の自信が、闘争意欲を駆り立て――対立する。 ◇ 赤い鉢巻きが風に靡く。 着古したマントを風に流し、眼前の巨躯に視線をやった。 眼光鋭く、射抜くように。臆せず、正面から。 習癖として、固めた拳を開いてはまた固める。 掌に滴る汗は、武者震いの表れとも見えた。 「待っていたぞヴィラル、そしてシャマル。改めて名乗ろう……俺の名前はドモン・カッシュ。キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュだ」 馳せ参じた好敵手、グレンラガン駆るヴィラルとシャマルに、自身が真名と称号を告げる。 傷だらけの強張った顔つきは、まっすぐに。格闘家としての本命を自覚しているかのようだった。 「仲間を逃がすための時間稼ぎか? どの道、オレたちの道を阻む者は容赦なく捻じ伏せる。誰であってもだ!」 「フッ……その時間稼ぎに、真正面からつきあってくれたのはどこのどいつだ。そういう奴は嫌いじゃないがな」 一騎打ちの誘いに賛同してくれた敵に、ドモンは微笑みと賛辞を与える。 ヴィラルとシャマルが真に外道ならば、逃げるドモンを捨て置いて、足の遅いねねねとジンを先に葬る手もあった。 だがそれをしなかったのは、罪悪感の名残――ではなく、ヴィラルにわずかながらでも戦士としての性が残っていたからだろう。 (ならば俺は、ガンダムファイターとしてそれに応えるまで!) 強大な力を得た彼らは、虐殺ではなく闘争を選択した。 その時点で、悪魔に魂を売り渡した外道とは違う。 宿敵ではなく、好敵手たりえる存在なのだと――ドモンは身震いした。 「戦う前になんだが……ここで今一度問いたい。おまえたちの唱える愛は、はたして本物か?」 戦意は固まった。体も温まっている。しかし今一度、言葉での確認が欲しかった。 「ふん、今さらなにを言うのやら……まあいい。何度だって言ってやる。オレは! シャマルを愛している!!」 「私も……私だって、ヴィラルさんを愛しているッ!!」 羞恥を超越した想いの猛りが、ドモンへと突き刺さる。 が、 「俺はレインが好きだぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!」 一蹴。 ヴィラルとシャマルの愛の言霊を、ドモンは倍ほどの声量でもって掻き消した。 叫びの中心にはレイン・ミカムラという生涯の伴侶への想いを乗せて。 ここにはいない愛する女性、彼女の待つ家、そのための勝利を願って。 「おまえたち同様、俺にもかけがえのない人がいる! その人のためにも、この地で出会った戦友のためにも、負けるわけにはいかん!」 誰かのために戦っているのは、ヴィラルとシャマルだけではない。 スカーも、ガッシュも、決して自己満足のためだけに殉じたのではないのだ。 ねねねやジン、スパイクに舞衣にゆたかとて、ひとつの目標の上に助け合っている。 愛を知る先達として、仲間を重んじる一員として、ドモン・カッシュは改めて告げる。 「ヴィラルとシャマル……おまえたち二人に、ガンダムファイトを申し込むッ!!」 突きつけた人差し指に、グレンラガンの巨躯がわずかたじろいだ。 しかし、すぐに体勢を整える。操縦者は、牙を向き出しにして笑っていた。 「……おもしろいッ!」 ドモンの熱意に感化され、かなぐり捨てたはずの獣性、戦士としての誇りを一時だけ取り戻す。 「……私たちは、勝ってみせる!」 シャマルは戦士でこそないが、ドモンには負けたくない、と心の底から思った。 「……いくぞ!」 その場に、一陣の風が吹く。 吹き荒ぶ嵐は決戦の予兆として、何度もこの地を訪れていた合図。 これで終いとするためにも、全力全開での衝突を―― 「俺のこの手が真っ赤に燃えるゥ! 勝利を掴めと……轟き叫ぶゥ!!」 ドモンの右手の甲が、赤く燃える。 火線が刻むのは、トランプの刻印。 愛情表現の形として多用される印。 格闘家が至高たる王のエンブレム。 ドモンの激情に同調してそれは、赤く、赤く、どこまでも紅く、炎のように輝いた。 塩を摘むような指先が、天蓋を突かん勢いで頭上高く持ち上がる。 「出ろおおおお! アルティメット……ガンダァァァァム!!」 パチンッ、と。 先んじてこの地で進めていた下準備、例のシステムを起動させる。 弾かれた指の奏でる音と、なによりもドモンの叫びが、神の像起動の条件と化す。 ドモンの後方にある博物館が、音を立てて倒壊した。 その中から、元の建物を遥かに凌駕する大きさの物体が一つ、弾かれるように顕現する。 隠し財宝として死蔵されるかと思われた機体の、出番が回ってきたのだ。 悪魔の機体と外観を同じくする、しかし破壊の権化とは正反対の意味を持つそれ。 グレンラガンと同等の体躯を持ち、人型。蠢く脚部がわずかばかり人外を模している。 かつてはこの機体を怨敵と定め、人生を狂わされもしたが、今となっては切り札同然だ。 ヴィラルとシャマルに愛を叩き込み、勝利するためには――『ガンダム』の力を借りなければならない。 「お、音声認識による遠隔操作!? あんなものが隠されていたなんて……!」 「うろたえるなシャマル! 愛の試練には相応しい相手だ。二人で乗り越えるぞ!!」 立ち塞がる強敵を前にして、ヴィラルとシャマルはなおも臨戦。 そうでなくては、とドモンは大地を蹴り、ガンダムのコクピット目掛けて跳んだ。 操縦席に入り、モビルトレースシステムを作動。ガンダムを最強たる武闘家の手足とする。 今ここに、決戦の準備が整った。 一対一、正真正銘のガンダムファイトの条件が適合され、そして。 ガンダムファイターの頂点に君臨する男――キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュが宣言する。 「行くぞぉっ! ガンダムファイト、レディィィィィゴォォォォォ!」 操る機体は、愛機ではない。 クライマックスを想定して用意された決戦兵器――人呼んで、究極。 ドモンの父、ライゾウ・カッシュが追い求めた完成形……アルティメットガンダム。 ◇ それは、うらぶれたコンクリートに転がる二つの首輪に起因する。 「どういうこった、こりゃ?」 廃ビルに響いた疑問の声は、スパイク・スピーゲルの口から出たものだった。 だが、その疑問はスパイク・スピーゲルだけのものではなく、すぐ傍にいた小早川ゆたかと鴇羽舞衣も同じ疑問を抱いていた。 つい先刻、本当に唐突に、ゆたかとスパイクの首からカチリという音が聞こえたかと思うと、彼らの首輪が地面に転がり落ちたのだ。 すでに首輪が外れている舞衣はさておき、他の者たちにとって最大の問題だと思われた首輪の解除だったが、あまりにもあっけない幕切れだった。 それは、天元突破覚醒者が出現したことによる影響であるのだが、そんなことは彼らには知る由もない。 だが、何か動いていると、彼らにそう思わせるには、十分な兆候だった。 「ま、いいさ考えたってしょうがねえ。 爆発したってんならともかく外れたってんなら文句はねぇだろ」 スパイクはひとまず素直にこれを受け入れることにした。 原因はどうあれ、首輪が解除されたことは喜ばしいことに違いないのだから。 事態はきっと好転しているのだろう。 「それよりも、だ」 厳しい表情で壁際で外の様子を窺いながら、切り替えるような声でスパイクは言う。 外では未だ激しい戦いが続いている。 果たして今戦っている皆はどうなっているのか。 戦いにの詳細がわからぬ彼らにはそれを知るすべもなく、無事を祈るほかにない。 だが、スパイクの視線はその激戦とはまた別の方向へと向けられていた。 「どうしたんですか、スパイクさん?」 その視線の先に何があるのか、疑問に思ったゆたかは小さな声で問いかけた。 その問いに、スパイクは外へ向けた視線を外さずに答える。 「お客さんが来たみたいだぜ。 ……あんまり歓迎できるお客さんじゃなさそうだけどな」 そう言われ、そっと窓からスパイクの視線の先を追ったゆたかはこちらに迫り来る奇妙な物体を見た。 その身を隠すように木々の間をすり抜けながら、這いずり回る無数の足。 背に描かれた巨大な顔面。そこから伸びる長い触角。 進むその姿は昆虫のようだった。 それは、まるでこちらの居場所を端から知っているかのような迷いのなさで、彼等の潜むビルに向かって接近していた。 「ゆたか、舞衣。下がってろ」 そう言いながら、スパイクは懐のジェリコ941改のグリップを握り締める。 接近するそれが何であるかをスパイクは知らない。 だが、知らないということが知れていれば、判断するには十分だった。 すでに生き残ってる面子は全て把握している。 知らない輩が現れたということはつまり、それは螺旋王の手のモノに他ならない。 「待ってスパイクさん、私も戦うわ」 言って、一歩前へと踏み出た舞衣の両手足に、勾玉を配した宝輪のエレメントが具現化する。 ガンメンのような巨大兵器に対抗するには、片手を失ったスパイクでは荷が重い。 いやむしろ、ああいった手合いを相手取るのは、最強のチャイルド、カグツチを操る舞衣の方が適任だろう。 口にこそしないものの、舞衣はそれを理解していた。 そして同時に、いざとなれば自らが戦う覚悟も完了している。 「……わかった、援護を頼むぞ舞衣。 ただし無理はするなよ、いざとなったらゆたかを連れて逃げろ、わかったな?」 言わずともその覚悟が理解できたのか、スパイクは無茶はしないよう釘を刺しながらも舞衣に背中を預けることを良しとした。 その間にも敵は廃ビルの目前まで迫っていた。 進みくる虫型。 だが、それは森を抜けた先、ビルの入り口付近に差し掛かったところでその移動を止めた。 何事かと様子を窺う三人の前で、動きを止めた虫型が変形する。 虫型から人型へ。 おそらくはそれがその相手の戦闘形態なのだろう。 それを確認したスパイクは身を窓から乗り出し、愛銃を懐から取り出す。 対峙する一名と一機。 一触即発の緊張が走る。 おそらく次にどちらかが動いた瞬間、それが戦闘開始の合図となるだろう。 「ほっほっ、そう慌てるでない。 こちらに戦闘の意思はない」 だが、目の前のヒト型から響いたのは休戦の声。 と同時にコクピットが開かれ、その内部が露になる。 その行動を訝しみながらも、スパイクは黙って開かれたコクピットに銃口を向ける。 照準越しに覗くコクピットから現れたのは、甲羅を背負ったアルマジロ。 現れた獣人はキセルを咥えた口元を吊り上げ、舐めるような目付きで舞衣とゆたかを見つめた。 「誰だ、お前」 その視線を遮るようにスパイクはジェリコ941改の銃口を音を鳴らして突きつける。 対する獣人は慌てるでもなく、飄々とした態度でスパイク視線を受け流す。 「名乗りが遅れたか? こりゃあすまんの。 儂は、螺旋王四天王の一人、不動のグアーム」 「四天王、だと…………!?」 それは間違いなく、スパイクたちとは相成れないモノの名だった。 先に投入された怒涛のチミルフと同じ称号。 螺旋王の側近中の側近の称号である。 その名を聞いて明らかに警戒心を強めたスパイクたちの様子を見て、グアームは大きくため息をつく。 「これこれ、そうあからさまに警戒するでない。 わざわざゲンバーから降りて、姿を現してやったんじゃ話くらいは聞け」 そういってグアームはパチンと指を鳴らす。 それを合図に、スパイクたちのいるビルに向かってゲンバーの触角が伸びた。 攻撃かとスパイクたちは身構えるが、触覚は彼らにではなくビルの壁に突き刺さる。 彼らがあっけにとられている間に、グアームは堂々とした態度でそれを渡り、彼らのいるビルへと移動した。 それを見て、我に返ったスパイクはジェリコ941改をグアームのこめかみに突きつける。 「動くなよ。次に妙な動きしたら撃つぞ」 「なんじゃ、物騒な話じゃのぅ。 先ほども言ったが、儂にはもう貴様らと敵対する意思はない。 いや、それどころかむしろ、儂はお前さんたちを救いにきたんじゃからな」 「……………………ぁん?」 グアームの口から飛び出した、あまりにも予想外なフレーズに、スパイクは思わず間の抜けた声を上げた。 「すくうってのぁ……そらいったいどういう意味だ?」 「どうもこうもありゃせんよ。そのまま意味じゃ。 この儂がお前さんたちを、この会場から救い出し、元の世界に戻してやろうといっておるのじゃよ。 わかったんならその物騒なものを下げてくれんか?」 そう言ってグアームはチョンチョンと短い指でスパイクの突きつけるジェリコ941改を指す。 「何考えてやがる。なにが狙いだ」 だが当然スパイクはその要求にこたえず、更に厳しい表情をグアームに向け事の真意を追求する。 無償の厚意ほど疑わしいものはない。 まして、それがこれまで敵対関係にあったものの言葉であればなおさらだろう。 「疑わしいか? まぁ当然の反応じゃな。 ならば仕方あるまい、信用してもらうためにも、こちらも手の内を明かすとするかの」 そう言って、グアームはキセルを吸い、煙を吐き出した。 もったいぶるようなその態度にイラつきながらも、一先ずスパイクはこちらに近づいた裏を知るためグアームの言葉に耳を傾ける。 「我ら四天王は螺旋王とは手を切った。既に儂らに奴に従う意思はない」 そう告げるグアーム。 正確には手を切ったのは螺旋王の方であるのだが、それはいい。 グアームの意図としては、螺旋王との繋がりが切れたことが提示できればそれでいい。 「それで? それとこれとどう関係があるってんだ?」 確かにそれはスパイクにとってそれは意外な事実であったが、螺旋王に対する裏切りと、参加者を助けることはイコールではない。 裏切りのついでに螺旋王の思惑を滅茶苦茶にしてやろうというのならこの行為は正しいだろうが。 たかが腹いせのためにワザワザ戦場に出向いて自らの身を危険にさらすのはリスクが高すぎる。 彼らの立場からすれば螺旋王と共に参加者たちも見捨てるのが普通だろう。 「まぁそう焦るでない。 あくまでこの実験はロージェノムの悲願であり儂らの悲願ではない。 ロージェノムと手を切った時点でここに執着する理由もないのでな。 儂らは奴とともにこの実験に見切りをつけて、早々にこの会場を脱出することにした」 (…………脱出?) その言い回しに多少ひっかっかるモノを感じながらもスパイクはそれには触れず、言葉の続きに耳を傾ける。 「したんじゃが……一つ問題があってのう」 そこにきてグアームは言葉を濁すように言い澱む。 ワザとらしい態度ではあったが、それゆえに、それがグアームが接触してきた理由なのだろうと、スパイクは直感する。 「それで、その問題ってのは何なんだ?」 「それがの、脱出の手はずは整っているのじゃが。 用意した脱出艦――カテドラル・テラ――の転移装置を動かすための、エネルギーが足りんのじゃよ」 「…………エネルギー?」 エネルギー不足。 相手の目的を口の中で反復して、スパイクは思い至った。 グアームが危険を犯してまでこちらに接触した、その理由に。 「まさか、テメェ。”俺達”を使うつもりだな?」 スパイクの出した回答にグアームは口の端を三日月のように吊り上げ答えた。 「その通りじゃ、まぁ正確にはお前さん以外の螺旋力に覚醒したそこの小娘二人じゃがな」 螺旋界認識転移システムの起動に必要な動力は当然ながら螺旋力である。 だが、アンチ=スパイラルに感知されぬよう螺旋力をもたぬよう創られた獣人にはそれがない。 故に、完全なる逃避のためにはその螺旋力を補えるだけのモノを用意する必要があった。 グアームが目をつけたのは、この地で初めて螺旋力に覚醒した少女、小早川ゆたか及び、愛の進化により真っ先に首輪の呪縛から解き放たれた鴇羽舞衣の二人である。 この二人の螺旋力を利用すれば、十分にシステムの起動は可能であるとグアームは考える。 「心配せずとも何も取って食おうというわけではない、役目を果たせば元の世界に送り届けることを約束しよう。 儂がほしいのはその二人だけなんじゃが。そうじゃの、スパイク・スピーゲルなんなら、お前さんもついでに助けてやってもいいぞ?」 そういいながら、グアームはいやらしい笑みを浮かべる。 スパイクたちは脱出を望んでおり。 グアームの脱出計画に彼女達は必要不可欠な要素だ。 利害は完璧なまでに一致している。 取引において利害の一致ほど信用できるものないだろう。 この手の取引に慣れているがゆえか、スパイクにはそれがわかってしまった。 返す言葉もなくスパイクは押し黙る。 「……それじゃあ、いま戦ってる人たちはどうなるの?」 押し黙るスパイクを継ぐように、後方から問いを投げたのは舞衣だった。 もし仮に自分達がその計画に乗ったとして、今、未来をつかむためにこの地で必死に戦っている彼らはどうなるのかと。 彼女はそう獣人に問いかけた。 その質問を聞いた、グアームはふむと考えるように頷きながらも内心でほくそ笑む。 なぜなら、脱出に伴う不具合を危惧するその問い自体が、彼女達の頭に脱出を示唆する可能性が出てきた証拠なのだから。 「悪いが儂が連れて行けるのはここに居るモノだけじゃ。 向こうで派手に戦ってるやつらはいわば囮じゃな、奴らが目を引き付けてる間に儂らはこの会場を脱出する」 「そんな…………!」 それは舞衣たちにとって受け入れがたい事実だ。 彼女達が望むのは完全無欠のハッピーエンド。 誰かを見捨てて得られる幸福など受け入れられるはずがない。 「なんじゃ、仲間を見捨てては置けぬか? 数千年連れ添った同志を見捨てる奴もおるというのに、なんとも感動的な話じゃのう」 だが、その価値観をあざ笑うように、あるいはどこか羨むようにグアームは呟く。 「じゃがな、考えてもみろ。 仲間といっても、お前等のつながりなど所詮ここで生まれた一時的なモノに過ぎん。 そんなモノにしがみ付いて命を落としてもしかたあるまい? わかっておるのか、死んでしまえば元の日常には帰れぬのだぞ? 元の世界に戻って本当の仲間と再会したくはないのか? 長年連れ添った友人に会いたくはないのか? 帰りを待つ家族の元へ戻りたいとは思わんのか?」 畳み掛けるようにグアームは問いかける。 その問いには誰も答えられない。 当然だろう。帰りたくないはずがない。 会いたいに決まっている。 だけど、 「答えられぬか、まぁよい。 なんにせよ、儂の話に乗ればお前さんたちは助かるし儂も助かる。 どうじゃ、互いにとって悪い話ではなかろう?」 グアームは三人の答えを待たず矢継ぎ早に話を進める。 深く考えさせず、思考を誘導するように。 「……ああ、そうだな悪い話じゃない。 ただし、その話が本当だってんならな」 スパイクの返答に、心外だといわんばかりの態度でグアームは肩をすくめた。 「まだ、信用できぬと?」 「当たり前だろ、その話が罠じゃないって保障は何処にもないしな」 「ほぉ。ならば逆に問うが、このまま放っておけば確実に死ぬお前たちを、なぜワザワザ罠にかける必要があるというんじゃ?」 「死にゃしねえさ。 ドモンたちはあの野郎に勝つし、俺たちも螺旋王なんかに負けはしねえよ」 スパイクの言葉にグアームは呆れたようにかぶりを振った。 根拠のない希望を語ることにではない。 語る内容のあまりの無知さにだ。 「……わかっておらんのぅ」 深い絶望と畏怖を込めて誰にでもなくグアームは呟く。 ロージェノムなど、ましてあのヴィラルなど問題ではない。 この会場を去ったロージェノムを除き、唯一アンチ=スパイラルと対峙したことがあるグアームは知っている。 アンチ=スパイラルが動き出したが最後、そこにはもう希望などもう欠片も残らないことを。 会場は破壊され、参加者たちは皆殺しにされ、それを管理するルルーシュたちも死ぬ。 例外はない。全て滅ぶ。全滅だ。 故に、生き延びたくば奴らが本格的に動き出す前にこの場を脱しなければならない。 「ならばどうする。 ワシを信用できぬというのならこの話は無かったことにするまでじゃが……?」 断れるはずがないと確信しながら意地悪くグアームは嘯く。 なにせ、本当にグアームはカテドラル・テラでの脱出以外にこの実験に関わった者の生き残る道はないと確信しているのだ。 会場の内側で蠢く彼らに、それ以上の脱出方法など用意できるはずもない。 地獄の底で生き延びたくば、例えそれがか細い蜘蛛の糸であろうとも、彼らは縋りつくしかないのだ。 そんなグアームの思惑通り、乗るべきではない取引であるとわかっていても、スパイクはこの提案を簡単に切り捨てることができなかった。 絶望的状況で、それを弱さと断ずるのは酷というものだろう。 たとえそれがどれだけ疑わしくても、乗れば確実に脱出できるグアームの提案が魅力的であることは事実だ。 だが、この地で命を賭して戦う仲間達を残しておくこともできない、それも本当だ。 そして、乗らないにしても、グアームへの対処を考えねばならない。 脱出への足がかりとして奴を利用しない手はないだろう。 ただ、もしも。 もしこの話が本当だとしたならば、せめてゆたかや舞衣だけでも無事帰還してもらいたい、そう思うのがスパイクの本音だ。 (……どうしたもんかね、ホント) スパイクは一人心中で思い悩む。 煙草でも吸いたい気分だった。 それぞれの思惑を抱え対峙する四人。 そこに、ふと足音が響いた。 足音は下階から、彼らのいるフロアへと続く階段から響いていた。 おそらくはヴィラルと対峙し、逃げ帰ってきた誰かだろうとグアームは思い至る。 生き残ったのは菫川ねねねか、ガッシュ・ベルかはたまたスカーか。 いずれにせよ螺旋覚醒者であるならば、脱出計画の後押しになるのは間違いない。 何より仲間の安否を気遣う彼らの説得も容易になるだろう。 誰にしてもグアームにとっては僥倖だった。 足音の主が姿を現す。 だが、そこにあったのは、そこに存在するはずのない金色の輝きだった。 「楽しそうだな雑種ども。何の相談だ?」 放つ輝きは金色。 宝石のような紅蓮の相貌。 絶対的な存在感を身にまとう、彼の王の名は―――― 「――――英雄王、ギルガメッシュ…………なぜ、ここに」 この男の出現はそれほど意外だったのか、グアームは思わず疑問を声に出してしまった。 その呟きにギルガメッシュはグアームの眼前まで歩を進めると、見下すような視線とともに答えた。 「なぜここに? わからぬか下郎。 この下らん実験の”結果”が出たのだ。 捕らえるなり殺すなり結果に対して、なんらかの動きがあると考えるのは当然であろう? そう思い、警戒してみればこの通りよ。貴様らは現れ、我はそれを発見した。それだけの話だ」 さも当然のようにギルガメッシュは言ってのける。 その内容は、奇しくも天元突破覚醒者を餌としてアンチ=スパイラルを釣り上げようとしたルルーシュと同系の策であった。 もっとも、餌は同じでも狙う獲物に大きく差異があるのだが。 釣り人が釣られたのでは笑い話にもならない。 ――――つけられていたのか。 グアームは動揺を悟られぬよう振る舞いながらも、心内で大きく舌を打つ。 彼の言が本当ならば、チミルフ、東方不敗と共に会場に現れたあの時点で彼らはギルガメッシュに発見されていたということになる。 果たして東方不敗とチミルフはその事実に気づいていたのだろうか? 少なくともグアームは気づくことができなかった。 だが、まだ疑問は残る。 「しかし、それなら、なぜ覚醒者の元に向かわなかったのだ?」 あの場に現れた三人は、それぞれ別々の場所に向かったはずだ。 そして、天元突破覚醒者の元へと向かうのならば、グアームではなくチミルフを追うのが道理だろう。 だというのになぜギルガメッシュはここにいるのか。 「ふん。あの程度の些事に、この我が態々足を運ぶ必要はあるまい? あんなものは、他の雑種どもに任せておけばよい」 ギルガメッシュがアンチ=スパイラルともルルーシュたちとも違う点はそこだ。 彼は真の覚醒者になどに、一切の興味がない。 あくまで餌は餌としてしか考えておらず、魚を釣り上げた以上もはやそこに微塵の興味も湧きはなしない。 だが、仮にギルガメッシュの目的が主催側の人間との接触だったとして、あの中の誰でもよかったというのなら、偶然に自分が選ばれたその不運をグアームは嘆かずにはいられない。 そんな、納得できないといった様子のグアームを、ギルガメッシュは鼻で笑った。 「ふん。まだわからぬか? 生き残りが群がっている拠点はそう多くはないが、その中でも、ここは一番重要度が低い。 にもかかわらず、貴様は結果に目もくれず、迷わずここに向かっていった。 この状況でこんなところに向かう理由が、悪巧みのほかに何かあるか?」 つまりはそういうことだった。 ギルガメッシュが求めていたのは主催側の人間との接触ではなく、主催に反旗を翻そうとしている造反者との接触。 それゆえ、グアームがギルガメッシュの眼鏡に適ったのは必然だったといえる。 「…………さすがじゃのぅ英雄王。 よもやこの儂が読みで遅れをとろうとは。 ここまで生き残ったのも頷ける強さじゃ」 行動を読みきられ、最悪に掴まったグアームは開き直ったように語りかける。 はっきり言って、グアームにとって螺旋力に覚醒していないギルガメッシュは、邪魔者以外の何者でもない。 ありえないイレギュラー、完全なる計算外だ。 だが、チミルフならいざ知らず、生身のグアームではこの男を排除するのは不可能だ。 ゲンバーに乗り込むことができれば勝機もあろうが、それを許す相手でもないだろう。 ならばどうするか。 「――――――どうじゃ、お主のような存在こそ、生き残るべきだと思わんかね?」 そう、排除できないのならば、この男を取り込むまでだ。 計画に不要であれ、グアームは英雄王を脱出計画に誘い込むことに決めた。 説得は不可能ではないはずだ。 なぜなら、自ら以外を望まぬ唯我独尊の男であるからこそ、自身の生存を望むのは当然であり、他者を切り捨てることにも躊躇もないはずなのだから。 「ほぅ、それで?」 グアームの言葉に気分を良くしたのか、ギルガメッシュは話の先を促した。 その反応を良しと受け取り、グアームは脱出計画の全貌を語り始める。 「この会場は直に消滅する。施された仕掛けによってではなく外敵によってな。 そうなれば会場におるものは全滅するじゃろう。 じゃが心配はいらん、脱出の手はずはすでに儂が整えておる。 転移装置の起動に多少の問題はあったが、それも直に解決するところじゃ。なんの問題はない。 それどころか転移装置を使えば多次元宇宙の航行も可能となり、お主程の器ならば延いては渡り行く星々を支配するのも夢ではない。 お主はここで消えていい存在ではない。お主の道は儂が作り出そう、儂とともに行こうではないか、英雄王!」 芝居がかったグアームの演説が終わる。 それを黙して聴いていたギルガメッシュはその口元に微笑を浮かべた。 その心中で何を考えているのか、全くといっていいほど推し量れない。 吟味するような沈黙の後、ギルガメッシュは口を開く。 「――――なるほど。 確かに、導き手たるこの我が消えては世が迷うというもの。 その点においては貴様の言い分は十分に正しかろう」 英雄王の口より語られたのはかのような言葉だった。 その言葉を肯定と受け取ったのか、グアームは安堵し歓喜した。 「だがな」 一転。 血のように赤い眼が見開かれ、穏やかなその笑みが、凄惨なモノに変化した。 反応する暇もなかった。 その表情の変化にグアームが気づくよりも早く、金色の甲冑に身を包んだ右腕がグアームの喉に喰らい付いた。 「な、なにぉ…………ぐ、ガ………………ッ!」 首を絞められ体ごと吊り上げられる。 グアームは必死に小さな体をバタつかせ抵抗を試みるが、ロックされた首元はビクともしない。 それどころか、ミシミシと音を立てて指が喉元に食い込んでゆく。 「この我と共に行く? この我が進む道を作るだと? はっ、畜生風情が何を言うか。思い上がりも大概にせよ」 そういって、英雄王は右腕でグアームを持ち上げたまま、左腕を虚空へと向けて突き出した。 突き出された左腕の先端が消える。否。消えたのではない、その左腕は空間を超える門の中に差し入れられている。 そして、空間より引き出された左腕には、ゆっくりと互い違いの方向に回転する円柱の剣――乖離剣エア――が握られていた。 「グッ……ガ……ガァ……アア………ッ!」 その剣を見て、これから起こる事態を察してグアームが絶望と恐怖に目を見開く。 英雄王はその期待に応えるように笑い。 吊り下げたグアームに向けて、手にした乖離剣を突き入れた。 「ァ………ァア…………ガッ………!」 突き出されたエアの先端は、たいした抵抗もなく鱗甲板を突き破った。 突き刺さった刃の回転は、グアームの内腑においてなおも止まらず、捩れた刃が臓腑を侵す。 生きたまま内臓を侵される感覚。 腹の中で臓腑が刻まれ混ざり合う感覚。 刃がミキサーのように臓物をグチャグチャに掻き回してゆく。 それは千を越える人生において、なお味わったことのない未知の激痛だった。 そして、それよりも激しい不快感と嫌悪感。 自らの腹の内をゆっくりとかき回される感覚は発狂しそうなほど怖ましい。 地獄の苦しみに叫びを漏らそうにも、喉元を万力のように締め付けられ喘ぎのような声しか出せない。 気道が完全にふさがれており呼吸はおろか、競り上がる血液を吐き出すことすら叶わなかった。 「我の行く道は我が決める。 身の程を知れ雑種――――ッ!」 ゴキリという何かが外れる鈍い音。 窒息か、頚椎破壊による影響か、はたまた激痛によるショック死か、もはやその死因すら定かではない。 だらんと手足を垂れ下げたグアームはビクビクと痙攣し、そのまま永遠に動かなくなった。 「ふん」 つまらなさ気にギルガメッシュは片手に垂れ下がるグアームの死体をゴミ屑のように投げ捨てた。 投げ出された肉の塊は冷たい地面を転がり、中心に空いた穴からペースト状の臓物を零れ流した。 「…………うっ」 ゆたかと舞衣は思わずその無残な亡骸から思わず目を背けた。 息絶えたグアームの残骸は、口から泡を噴出し、あれほど雄弁だったその様は見る影もない。 「ギルガメッシュ……テメェ」 「どうした、何か不服でもあるのか? まさかこのような畜生の戯言に乗せられたとは言うまいな?」 睨み付けるスパイクの視線を涼風のように受け流しギルガメッシュは言ってのける。 あれは乗るべきではない取引だったことくらいはスパイクだってわかる。 だが、グアームの脱出案が希望の一つであったことに違いはない。 あるいは、奴の脱出方法に従い、生き延びられるモノがいたかもしれない。 あるいは、奴の脱出方法を奪い取って全員で逃げ出せたかもしれない。 だが、それもこれもグアームが消えてしまっては意味がない。 そこにたどり着く糸は完全に断ち切られてしまった。 更に絶望的な状況でまた一つ希望の灯火が消えたことに、スパイクは歯噛みする。 そんな打ちひしがれるスパイクには興味がないのか、ギルガメッシュは一人つまらなさ気に息を漏らす。 「しかし、獅子身中の虫を求めてくれば、現れたのは逃げることしか頭にない羽虫であったとは、とんだ無駄足だったか」 やれやれと言った風に呟いて、ギルガメッシュは踵を返した。 「何処に行くってんだ」 「貴様に告げる必要はない。我は我のやりたいように動くまでだ」 ギルガメシュは傲岸不遜。 散々場をかき乱しておきながら、何一つ省みることをしない。 この期に及んでもその態度に一切の妥協を見せない。 ギルガメッシュは何の憂いもなく出口へ向けて歩き始めた。 「おい、」 スパイクは去り行く背を引きとめようとして、その途中で言葉をとめた。 何処までも自分勝手に振舞うギルガメッシュ。 そんな奴に頼らねばならない自分、同時にあんな取引に一瞬でも傾きかけた自分に腹が立った。 「くそ…………ッ!」 スパイクが苛立ちに地面を蹴る。 乾いた音が廃ビルに響き渡った。 時系列順に読む Back HAPPY END(3) Next HAPPY END(5) 投下順に読む Back HAPPY END(3) Next HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) ヴィラル 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) シャマル 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) 菫川ねねね 285 HAPPY END(5) 282 愛に時間をⅣ スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(5) 282 愛に時間をⅣ 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(5) 282 愛に時間をⅣ 小早川ゆたか 285 HAPPY END(5) 282 愛に時間をⅣ ギルガメッシュ 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) ジン 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) 東方不敗 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) チミルフ 285 HAPPY END(5) 285 HAPPY END(3) 不動のグアーム 285 HAPPY END(5)
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HAPPY END(5)◆ANI2to4ndE ◇ 睨み合う鉄身の巨人、二体。 顔一つの機械闘士の姿は、ドモンに教えられたガンダムの名を呼び起こす。 顔二つの合体ロボは自身と縁の深いガンメン、搭乗経験もあるグレンラガンだった。 雄々しく木霊するガンダムファイトの宣誓は、先の邪魔者、ギルガメッシュの声とは似て非なるもの。 落としかけた命を顧みない善意で繋ぎ止めて見せた友、ドモン・カッシュのものである。 ヴィラルとシャマルが駆るグレンラガンと、ドモンが駆るガンダム。二体が戦闘を始めようとしていた。 巨人の衝突を生身のまま、遠方から見上げることしかできないグレンラガン本来のオーナーは、歯噛みする。 「ちくしょう……! 俺とシモンのグレンラガンを好き勝手乗り回しやがってッ!!」 疲労困憊の様相で虚空にしかめっ面を浴びせ、カミナは乱暴に吐き捨てた。 如何な罵詈雑言も、地上からでは届きはしない。 兵器と兵器の対立を前にしては、喧嘩殺法しか能のないジーハ村の戦士では力不足だった。 「金ぴかヤローもどっか行っちまいやがったし、ガッシュたちも見当たらねぇ。 グレンラガンとクロミラは奪われっ放し……ふざけんなよ。このままにゃしておけねぇ。 なにがなんでも取り戻してやる。今からそっち行くから首洗って待ってろ、ヴィラルッ!!」 近づくことも困難な死地へと、カミナは単身、機動兵器の助力を受けずに飛び込もうと勇む。 達人級のガンダムファイターならばそれも可能であろうが、明鏡止水を会得しようとカミナはただの人間だ。 ギルガメッシュとの喧嘩でただでさえ疲労が蓄積されている今、彼の行動は愚挙と罵るほかなかった。 ――しかし、心意気は買おう。だからこそ罵倒で一蹴するのではなく、諭す。 そのような意図が見え隠れする〝声〟が、駆け出さんとするカミナに落とされた。 「――ガンダム対ガンメン。なんとも心躍るカードではないか」 ピタリ、とカミナの足が止まる。 無謀の足を場に繋ぐ接合剤として、声はカミナの意識を攫う。 耳に届く不快な音質に、カミナは聞き覚えがあることを否定せず、振り向く。 「片や究極、片や愛の巣。さて、軍配はどちらに挙がるかのう――?」 カミナの背後、紫色際立つ道着を着こなすのは、怨嗟の宿敵にして好敵手。 修行という名目でカミナに流派東方不敗の心得を叩き込み、その成長に一躍買った師。 先の放送で訃報を知らされた――螺旋王も認める脱落者であるはずの老人が、仁王立ちしていた。 「テメェ……東方不敗のジジイ! 死んだはずじゃ……」 「これは異なことを。無理を通して道理を蹴っ飛ばす……はて、これは誰の言葉だったか」 カミナを嘲弄する老人、東方不敗マスターアジアは見た目にも健全だ。 真新しい道着は、過去二度の対決のときよりも小奇麗に思える。 コンテナの爆発やショッピングモールの倒壊から逃れたと仮定しても、螺旋王が死亡確認をしたのは事実。 死んだはずの男がこの場に立っているのは、どういう理屈か――無理を通して道理を蹴っ飛ばす、では納得できないカミナだった。 「なにを黙りこくっておる。貴様という男は、考えるのが得意なほうではあるまい。 事実として、儂は生きておる。その事実のみを受け取り、貴様はなにを為すのだ?」 東方不敗がカミナに向けるのは、詰問の言葉。挑発するような戦意ではなく、ましてや殺気とも程遠い。 死人との対面にカミナは緘口し、すぐには答えを返すことができなかった。 「グレンラガン、そしてアルティメットガンダムとはな。フフフ……正に夢の対決ではないか。 しかし双方が持ちうる武力は、人間を遥かに凌駕する。この儂とて、生身でやり合うのは厳しい。 そんな闘争の渦を前に、貴様はなにを為す? 死んだはずの儂を前にして、目を向けるはどちらの方角だ?」 言霊に促されるようにして、カミナは足を向けんとしていた目的地を再び見やる。 グレンラガンとアルティメットガンダムは互いににじり寄り、掴み合いを始めていた。 その足元、博物館周囲の町は地響きを立てて崩れ、二体の巨人に蹂躙されている。 もし、あの場に人間がいたとして……巻き込まれるのは必至、闘争に加わるなど夢のまた夢だろう。 生唾を飲み込み、目指さんとする地の危険度を再認識する。 再認識して、しかし目は背けない。 体が震えを訴えようとも、カミナは眼差しを固定したまま、シモンとの絆を正面に据えた。 「そうだ、それでよい。貴様は明鏡止水を会得し、儂の期待に応えてみせた……ならば見るべきは一点のみ」 「言われるまでもねぇ。悪いがなジジイ。テメェが甦ろうがなんだろうが、今は構ってる暇なんてねぇのさ」 背後の東方不敗には一瞥もくれず、カミナは再度、足を前に踏み出す。 全てはシモンのラガンと、自身のグレンと、相棒たるクロスミラージュを取り戻すため。 男の意地でここまで突き抜けてきたのだ。それを今さら、ギルガメッシュや東方不敗といった邪魔者に否定されてたまるものか。 確固たる意志が、カミナの追い風となって――直後、後方から身震いするような〝殺し〟の気配を感じた。 「だぁぁぁから貴様は阿呆なのだぁぁぁぁぁ!!」 かつての敵対者でありながら守護霊のような温かさを秘めていた老人が一変、厳格なる格闘家として居直る。 東方不敗は一喝の後、腰に巻いていた帯を鞭のように放った。 容赦なし、明確な殺意に染まったマスタークロスの一撃が、阿呆を穿たんと伸びる。 罵られたカミナは、咄嗟に飛び退いてこれを回避した。 「てん……っめ! おうおうおう! いきなりなにしやがんだこのクソジジイ!?」 「ふん。この地は常在戦場。定石常道に縛られず、不測邪道への対処を磐石にするが、真なる強者というものよ」 獲物を捉え損ねたマスタークロスは、東方不敗の手で宙をうねり、再び腰に巻かれる。 不意の攻撃、咄嗟の回避に体勢を崩されたカミナは、〝殺し〟の気配を潜めた相変わらずの宿敵に、顔を顰めた。 「問うぞカミナよ! 貴様、闘争の渦に勇み駆け込み、なにを為さんとする!?」 「ああ!? 決まってんだろ、オレとシモンのグレンラガン、それにクロミラを取り戻すんだよッ!!」 「馬鹿も休み休み言え! ガンメンとガンダムによる闘争を、貴様ごときが御せるとでも思うかァ!?」 「馬鹿でもやるんだよ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それがオレの、オレたち大グレン団のやり方だ!」 「だぁぁぁぁぁから貴様は阿呆だと言っているのだぁあああああ!!」 二度目の一喝。 東方不敗はその場で跳び、右脚を矛としてカミナに放つ。 正面からの飛び蹴りにカミナは両腕を構え、受け止めようと試みた。 しかし、モビルファイターの装甲すら粉砕する東方不敗の蹴りは、カミナの体を防御ごと吹き飛ばす。 「……こ……っの!」 三回半ほど地面を転がり、さらなる怒気を纏って起き上がると、東方不敗は怒りの形相で言い放った。 「貴様の語る『無理を通して道理を蹴っ飛ばす』とは、無為無策で命を投げ出すことを指すのか!? 天元突破……儂はこの地に残った誰よりも貴様が近しいと思っていたが、買い被りすぎていたようだわ!」 恫喝する東方不敗の姿は、弟子に教えを叩き込む師匠の内面を表出していた。 カミナは起き上がり様、駄犬のような目つきで忌々しげに見据え、東方不敗の金言を聞く。 「仲間を思い、己を信じ、命を投げ打ってでも事を成す。リーダーを名乗るに相応しい器よ。 しかしなぜ、己に力がないことを自覚しない!? なぜ力を得ずに、無謀を貫かんとする!? できることとできないことの区別もつけられずただ泣き喚く……今の貴様は、まるで小童よ!」 思うところが、ないわけではない。 カミナが現地に辿り着いたとして、はたしてなにを成せるというのか。 グレンラガンとアルティメットガンダムの戦いを止める、ヴィラルとシャマルを引き摺り下ろす、クロスミラージュを取り戻す――どうやって? せめて同等の力、ガンメンかガンダムかがカミナの手元にもあれば、憂いはなくなるのだろう。 だがカミナにとって――問題の焦点はそこにはないのだ。 「事を優先するあまり、己が見えていない! それで己を信じるなどできようものか! 今の貴様なんぞ、悪運と周りの人間に支えられて生き延びたようなもの……恥を知れッ!」 カミナ自身、それを一番よく理解していた。 そして東方不敗は、それを理解せず師匠気取り。 そう思えば途端に滑稽な様相に見えてきて、カミナは笑う。 ――静かに。 ――ただ、静かに。 ――心の底から、爆笑する。 「…………ハッ、老いぼれジジイがギャーギャー騒がしいこった」 一切、声には出さずして。 したり顔だけで笑みを表現し、東方不敗を嘲弄する。 なにも理解していないボケ老人を、若きリーダーは哀れに思った。 「テメェはまるでわかっちゃいねぇ……いいか。理屈じゃねぇ。気合なんだよ。オレに足りないのは、気合なんだ」 開いた悟りは、決して他人に教授され、与えられた美学ではない。 ジーハ村で燻っていた頃の個が築き上げ、舎弟と共に磨き上げてきた、意地と誇りだ。 昔から、なにひとつ変わってはいなかった。 シモンが死んだ今となっても、 東方不敗に阿呆と罵られる今となっても、 ガンメンとガンダムを前に無謀を覚える今となっても、 カミナは天井を見上げ、いつか岩盤をぶち抜きたいと願っていた。 あの頃から、ずっと。 「結局テメェの言ってることは下手な理屈さ。無理を通して道理を蹴っ飛ばすってのはな、命投げ出すことじゃねぇ。 命投げ出す覚悟で、やってやるって気概を見せつけて、気合全開で吼えて、オレが信じるオレを信じて、それで事を成す! 結果なんざ後からついてくるのさ。無理なもん前にして無理って言っちまうような奴にゃ、絶対に真似できねぇだろうけどなぁ!」 カミナが二の足を踏んでいた理由を、平易に言い換えよう。 話相手の不在、だ。 彼の狂言回しは聞き手を得ることで調子を上げ、行動を促す。 あるときはシモンが。あるときはクロスミラージュが。あるときはガッシュが。あるときはニアが。 そして今は、東方不敗マスターアジアという〝耄碌ジジイ〟相手に、自己の尊厳を主張し、わからせる。 言ってわからぬ輩の耳をかっぽじり、わかるまで訴え続ける、それこそがカミナ流。 音吐朗々とした言辞が、質感を伴い東方不敗を威嚇した。 「ふん、吼えおったな……ならば唱えよ、カミナ! 流派、東方不敗は――」 「――知ったことかぁあああああ!!」 反論を許さず、叫び声でもって東方不敗を逆に一喝する。 「もしとか、たらとか、ればとか、そんなもんに惑わされるか! オレの信じるオレの道が、オレの宇宙の真実だ!!」 人差し指を空に、突き破れない天井などこの世にはないと、挙措で示す。 誰もが注目せざるをえない不思議な存在感が、カミナの全身に纏わりつく。 東方不敗ですら、意識せず視線を奪われ、釘付けとなった。 「ジーハ村に悪名轟くグレン団! 男の魂背中に背負い、不撓不屈の鬼リーダー! カミナ様が、そう簡単に信念曲げてたまるかよぉ!!」 天に向けていた指先を、東方不敗に突きつける。 たじろぐ東方不敗を確認し、次に拳を固めた。 ニヤリ、と口元で笑み、カミナは勝ち誇る。 「ジジイも金ぴかも、ダチ公取り戻した後で好きなだけ相手してやらぁ。だから大人しく待ってな」 それだけを告げ、カミナは振り返る。 視線を傾けるのは、再び闘争の地。 ガンダム対ガンメンの果し合いに、臆せず飛び込むつもりだった。 「今いくぜぇ、ダチ公!!」 誰に邪魔をされようと、カミナは揺るがない。 当初の予定、同意である本能のままに、体を突き動かす。 その破天荒な生き様を、捨て置かれた東方不敗は―― ――したり顔で、見送った。 ◇ カミナの背中が遠く彼方に消え、東方不敗は取り残されたその地で、ある落とし物を眺めていた。 舗装されたアスファルトの上に転がる、銀色の輪。それは開錠され、轡のような形状になっていた。 手に取り確認してみると、そこには『Kamina』の名前が。本人、首の枷が外れたことにまるで気づいていない様子だった。 「磁場を歪める砂嵐とは、よく言ったものよ。グアームの見解は正しかったようだが……さて、となるとルルーシュはどう動くか」 居城に残してきた同志の出方を推測し、しかしすぐに中断する。 ルルーシュがこの事態を想定していたにせよしていなかったにせよ、首輪の有無などもはや瑣末なことだろう。 東方不敗にとっても同じだ。首輪が外れようが、闘争に殉じる者は殉じ、その宿命からは逃れられない。 「天元突破の功労者に、馬鹿弟子二人。そして……奴も舞台に上ったか」 遠方、グレンラガンとアルティメットガンダムがぶつかり合うその場に、重厚な足音を立てて近づく機体があった。 全身を白で統一し、シャープなフォルムを刻みながらも形相は鬼のように険しい、怒涛のガンメン。 チミルフの駆るビャコウが、ヴィラルの駆るグレンラガンに近づこうとしていた。 ガンメン二体、ガンダム一体、そしてカミナ――混戦必至の台上は、はたしてどんな色で彩られるのか。 螺旋力が放つ碧の輝きか、愛の証たる淡いピンクか、キング・オブ・ハートの燃えるような赤か、それとも血の色か。 想像するだけで、心が躍った。全身はぶるぶると震え、上下の歯がかち合って音を出し、眼差しは子供のように無垢に。 恋慕や愛情にも似た、欲求。 自身が熟成へと導いた、強者。 治まるはずのない闘争心が、伝染。 東方不敗は喜悦をその身に宿し、武者震いを続けた。 「もうすぐ……もうすぐだ。もう間もなく、この地に絶対の存在が降臨する。儂やルルーシュの目論見通りにだ……だが!」 試練、もしくは師匠としての役割を担い、実験参加者を天元突破へと至らせる。 当初の任はヴィラルが早々に天元突破したことでお役御免となったが、東方不敗はなおも目論む。 アンチ=スパイラルとの接触――その鍵となるのは、愛に飢えた獣二人ではない。 流派東方不敗の志を継承する愛弟子、ドモン・カッシュ――そして。 この地で見定め、大いに期待を寄せた若者――カミナ。 東方不敗マスターアジアが資格ありと認める男二人、そのどちらかが降臨の儀を推し進める鍵となることを、東方不敗は望んでいた。 ヴィラルとシャマルの愛の力を否定するわけではないが、東方不敗はドモンとカミナの二人に、それ以上のものを期待しているのだ。 それこそ、アンチ=スパイラルが慌て飛び込んでくるほどの螺旋の躍動を、師は弟子二人から引き出そうとしている。 「ヴィラル、そしてシャマルといったか。おぬしら二人、所詮は前座にすぎん。せいぜい好敵手として奮闘してもらおうか」 ルルーシュが考案した神算鬼謀の策に乗じるのが、アンチ=スパイラルとの接触を果たすなによりの近道なのは事実。 だとしても、東方不敗はヴィラルとシャマルではなく、ドモンとカミナに可能性を感じ、試練役を自ら買って出た。 計画の上では不要な干渉となるであろう行為だということも、十分に理解している。 理解しながら、この道を選択したのだ。 武を極めんとする者として――仕上がりつつある決闘場に、自らの闘争本能を委ねたいと願ってしまったがゆえに。 「ふふふ……血湧く、血湧くぞ! こんな熱い衝動は久しぶりよ。ドモン、カミナ、ヴィラル、シャマル、そしてチミルフ――待っておるがいい」 純真無垢でありながら、邪鬼のようなおぞましさを兼ね備える東方不敗の笑みには、底知れぬ愉悦が。 これより先に臨む闘い、勝利の果てに待つ悲願の道しるべ、人類抹殺の終着点までは見えず―― 「喜んで参じようではないか。この儂、東方不敗マスターアジアと愛機マスターガンダム……最終決戦の舞台へとな!」 東方不敗が不気味に呵呵大笑する、その頃。 七人の同志、その尖兵として躍り出たチミルフは―― ◇ 熱い熱い、どうしようもない血の滾りにヴィラルは全身が沸騰するような感覚を覚えていた。 「うおおおおおおおおおおおお!」 「はああああああああああああ!」 真正面からぶつかり合った拳が互いに粉々に砕け散る。 ヴィラルが駆り、愛妻たるシャマルがサポートを担当するグレンラガンの拳に補助武器として備えられた二本のドリル。 強力無比な力であるはずのそれらでさえ、アドバンテージにはなり得ない。 二人の感情に呼応するかのように怒濤の勢いで生み出すことができる必殺のドリルを以てしても、対峙する巨体が相手では相討ちがせいぜいらしい。 そう、巨体である。要塞型や戦艦型には及ばずともヴィラルの操るガンメンのサイズも相当なもの。小山程はあると言って良いだろう。 しかし、グレンラガンを小山と言うならば敵は正に山そのものだ。 ヴィラルとシャマルの道行きをまた別の愛のために阻まんとするあの男、ドモン・カッシュが呼び出した究極の名を持つガンメンは――ドでかいのだ。 『中々良いパンチをするようになったじゃないか。もっとも、ドリルなどという仰々しい武器に頼っているようではまだまだだがな』 しゅるしゅると触手が寄り合わさるような生物的な動きで失った腕を再生させながら、ドモンの挑発とも賞賛ともつかない言葉を飛ばす。 『抜かせ。でかさを頼りに攻めることしかできん木偶の坊が』 一歩も引かず、ヴィラルは鋭い口調で切り捨てた。言いながら、こちらも腕を再生させる。機械的なガキガキという音を立てて再生する様は、アルティメットガンダムとは対照的だ。 機体だけ見ればその能力差は歴然としていた。加えて対するドモン・カッシュはあの東方不敗なる化物に真正面から相対した男だ。操縦者としての腕前も油断はできない。 戦士としての器量は言わずもがなである。 しかし、そのような様々な悪条件を前にしてさえ、ヴィラルは己が負けるとは欠片も思っていなかった。 いや、敗北だけではない。願って止まないはずの勝利の二文字でさえ、今のヴィラルがどれだけ強く意識しているかは分からなかった。 (ヴィラルさん……今のヴィラルさん、とても楽しそう) グレンの操縦席の中、操縦桿を通して流れ込んでくる熱い想いをシャマルは確かに感じていた。 今の彼が望んでいるのはただの勝利ではない。認めるに足る者と正々堂々とぶつかり合い全霊を賭す。願うのはその先の勝利だ。 瞬く間に二人の人間を屠った圧倒的な暴力はやはり今のヴィラルには向かなかったのだろう。 人間はケダモノ同然の生き物などではないということを、確固たる信念を持つ強敵だと言うことを、彼は既に知ってしまっている。 あるいは別の形で相まみえられていれば、と内心で思っていただろうことは想像に難くない。 シャマルの愛したヴィラルとはそういう男だ。 それだけに自分と同じ武人の気質と全力でぶつかることのできる強さを併せ持つドモンとの戦い、相手の言い方に合わせればファイトに自然と喜びを見出だしてしまうのは無理からぬことなのだろう。 男の人って。そう思わないでもない。生死を賭けた、それ以上に二人の未来を賭けた戦いを楽しむ余裕なんて。 シャマルなど、少し手合わせをしただけで異形の巨大兵器のスペックに震えてしまいそうになっているのに。 昆虫を思わせる下半身に人形の上半身を合わせた奇形的な外見がシャマルにプレッシャーを与える。この人外のどこに究極を名乗る資格があるのか。 が、その威圧感さえ男にとっては興奮を煽る材料の一つでしかないのだろう。 『すまんシャマル。俺はやはりどうしようもないバカだったらしい……』 昂りに彩られたヴィラルの声が専用回線を通してシャマルに届く。 『勝てるかどうかも分からなくなったというのに俺はそれを楽しんでいる……理解してもらえるとは思わんがな』 『……いいの、あなたの思う通りに行動して。ヴィラルさん。私はそれについていきます』 『……感謝する』 通信が終わり、仮初めの静寂が戻った。 シャマルの言葉に嘘はない。理解できなくとも、戦いが鬱屈ばかり溜め込んできたヴィラルを満たすというならシャマルに異論のあろうはずがない。 自分が共感できない領域に彼がいることが少しだけ悔しいが、我慢できる。 要は勝てば良いのだ。勝ちさえすれば後に待つのは幸せな未来であると今は願おう。 シャマルは信じた。ヴィラルが後悔しないようにあらゆる面からサポートすることが今自分の為すべきことであると。 『どうした、お前達の愛とやらはそんな程度で終わるものなのか』 『行きましょう、ヴィラルさん!』 『ああ!くぅらええええええ!!』 余裕の呈で重ねられた挑発をゴングに再び両者が激突する。 交わされたのは今度は拳ではない。武士の如く顔を引き締めたグレンラガンの膝から真っ直ぐに突き出されたドリルが無表情に揺れるアルティメットガンダムの顔面を穿たんと迫る。 「甘いっ!」 「ぐわああ!」 「きゃああ!」 だが通じない。軽くいなされるどころかカウンターとして強烈な肘打ちをもらい、軽快にふっ飛ばされたグレンラガンがゴロンゴロンと転がりながらビル街を蹂躙する。 身を引きちぎられんばかりの衝撃にシャマルは必死に耐えた。 まるで子供扱いだと、弱い考えに傾きそうになるときに支えてくれるのはやはりこの声。 「ひるむなシャマル!少しずつだが奴との戦い方が分かってきた……俺を信じてくれ!」 「は、はい!」 機体を勢い良く反転させながらの激励に心が軽くなるのを感じた。 この人ならばなんとかしてくれると、そう信じることができる。 シャマルは操縦桿を握り直した。痛い程に奥歯を噛み締め、改めて自分に渇を入れる。 ところが、再度の攻撃を仕掛けるべくグレンラガンが構えを取ったとき、それに水を差すようにざざ、という雑音が割り込んできた。 「別方向からの通信……?一体誰が?」 いち早くそれに気付いたシャマルは反射的に回線を開いた。音声が繋がり同時に通信相手の画像も届けられた。 「こ、これは……!」 「あなたは……!」 そしてシャマルとヴィラルは同時に驚愕した。 映し出された映像は、二人の世界には存在していないもの。 『苦戦しておるようだな、ヴィラルよ』 死んだはずのヴィラルの上官、怒濤のチミルフの声は生前と同じ厳めしさを持って響いた。 ◇ 『チ、チミルフ様ッ!? な……何故あなたが……戦死なされたはずでは!?』 通信用スピーカーから吐き出されたのは違う世界では部下だったらしい男の驚きに満ちた声だった。 その反応にチミルフは自身の唇がにんまりと不自然な形に引き攣る感覚を覚える。 まさに、想像通りの反応だった。 ヴィラルの中では「チミルフは戦死した」ことになっているのだ。 彼の主である螺旋王ルルーシュ・ランペルージの策略により、六回目の放送には虚偽が混ぜ込まれていた。 故に、ヴィラルはチミルフの死を露とも疑ってはいなかったはずなのだ。 なぜならば彼は八十二人の参加者とほぼ同等の条件であの戦場へと赴き、同等の扱いを受けたのである。 この会場のシステムをヴィラルが正しく認識している以上、放送の内容に疑問を持つとは考え難い。 が、その思考に絡み付いた鎖もチミルフの一言で屑鉄へと変えることが出来る。 「よく聞け、ヴィラルよ。先程行われた六回目の放送だけは、幾つか事実とは異なる内容を含んでおるのだ。 詳しくは話せぬが……俺以外にも、数名〝王〟の意志に賛同するものが我々の側に付いた」 『なっ……!? 螺旋王様の下に他の参加者が……!?』 「そうだ」 王という言葉を殊更強調してチミルフは言った。 が、チミルフとヴィラルが心に描く〝王〟の姿は全く異なったモノだ。 しかし、その構図の中に捩れも歪みも存在しない。 ――ギアス。 永久の時を生きる魔女C.C.との契約によってブリタニアの少年、ルルーシュ・ランペルージが獲得した絶対遵守の力。 特殊な光情報の波長を瞳から放つことにより、視覚細胞を通して対象を従わせることの出来る能力だ。 チミルフに掛けられたのは『お前の主君は螺旋王ではない、この私だ』という、主従書き換えのギアスである。 それはとある未来、コーネリア・リ・ブリタニアの騎士であるギルバート・G・P・ギルフォードに使用されたモノとほぼ同等の性質を帯びていた。 故に二匹、いや二人の獣人にとっての王はまるで別の人物を差すのだ。 ヴィラルにとっての王であるロージェノムと、チミルフにとっての王であるルルーシュ。 この宇宙では部下と上司という関係さえも偽りである彼らを唯一、引き繋いでいたのが崇め奉る王の存在だった。 しかし、そんな硝子の連環さえ既に形は失われた。 もはや両者の袂は完全に分かたれたのである。 たとえ――真実を暗部へと密閉することで、 幻想の関係を継続させようとチミルフが考えていたとしても、だ。 「俺もお前が置かれている状況は理解しているつもりだ。手短に用件だけを伝える。よく耳を澄ませろ、一度しか言わんぞ」 返事は、ない。 ようやく繋がった電波が奏でるノイズとガンメンの駆動音だけが唯一の音波となってチミルフの周囲に在るだけだった。 本当にヴィラルが通信装置に必死に耳をそばだてている光景が目に浮かぶようだ。 馬鹿正直で呆れるほど愚直なこの男にとって、彼の言葉は何よりの特効薬と成り得る。 たとえそれが〝愛〟という感情によって、天元突破を果たした者だとしても―― 「〝真なる螺旋覚醒を果たした戦士ヴィラル、褒美としてその伴侶シャマルと共にこの舞台より脱出する権利を与える〟」 一字一句、主が彼に伝えた通り正確に。 本来、ルルーシュはチミルフが状況に合わせた勧誘の文句を考えることを想像していただろう。 なぜならば、このメッセージはあくまで、彼らを勾わかすためだけのまやかしに過ぎない。 天元突破を果たしたヴィラルを回収する――その目的さえ達成出来れば、手段は問われない。 『ッ――!』 『だ、脱出……でありますか!?』 無線機を通じて返って来る勘繰るような呻き。 そして、ヴィラルと共にグレンラガンを動かしているシャマルの息を呑む声が小さく響いた。 モニターに何かが爆発する音と振動とがない交ぜになった雑音が時々飛び込んでくる。 どうやらヴィラルがチミルフと通信を行っている間のグレンラガンの操縦は彼女が行っているようだった。 が、となると状況は更なる劣勢へと陥る。 単純な実力差ではアルティメットガンダムとそのパイロットの方が断然上を行く。 グレンとラガン。 二つの機体と二人のパイロットが力を合わせない限り、グレンラガンには勝機はないのだ。 「ヴィラルよ、お前の多大なる螺旋力の発揮に王は上機嫌だ。これまでの失態は全て水に流してくださるとのことだ。 加えて、獣人としても我々四天王とほぼ同等に近い地位をお前に授けると仰られていた」 『お、俺が……チミルフ様やアディーネ様と同じ位に……ですか?』 「そうだ。さぁヴィラルよ。これ以上の戦闘は無意味だ。一時戦いを中断し、俺と共に――」 チミルフはヴィラルとの会話によって、明確な手応えを感じていた。 モニター、そしてスピーカーを通じて伝わって来るありとあらゆる情報が、二人の狼狽振りを表していたからだ。 二人は未だ既に「実験」が最終段階に近い地点まで進んでいることに気付いていない。 天元突破を果たした螺旋の中心人物でありながら、未だに「バトルロワイアル」のルールに捉われたままなのだ。 最後の〝二人〟として生き残る――それだけが活路であると、一筋の光明であると信じているのだ。 願ってもない、機会のはずだ。 本来ならば不可能だったはずの「二人でいたい」という望みが現実のモノとなる。 このままドモン・カッシュの操るアルティメットガンダムと拳を交える意味は完全に消滅するのだ。 『ッ……シャマル、俺は、』 『分かっています、ヴィラルさん。あなたの言いたいことは全部。私は……あなたの決定に従います。 ああ、でも……ふふっ、多分もう私、ヴィラルさんが何を言いたいのか分かっちゃってるかもしれません』 『……すまないッ』 「ヴィラル……?」 だから、 『申し訳ありません! チミルフ様、俺は……いや、俺達は、あなたの言葉には従えません……!』 「なに……ッ?」 ――ヴィラルがその命令に背くなどと、チミルフは想像だにしていなかった。 「……馬鹿か、貴様は。既にこの場に留まり、戦いを続ける意味はないのだ。 ニンゲンどもを殲滅する役割は他の者が引き継ぐ。貴様には他にやるべき仕事が……!」 ドクン、と心臓が大きな音で一度鼓動を奏でたような気がした。 チミルフは口早にヴィラルを説得しようと試みた。 だが、彼自身は己がグアームのように弁の立つ獣人であるとは露ほどにも思っていない。 予想外の展開、慣れない役どころ。 歴戦の戦士として〝怒涛〟の二つ名を持つ漢であっても、動揺を完全に押し隠すことは不可能だった。 『チミルフ様、俺はあなたの言うように――バカです。大バカなのです。 獣人としての任務を忘れ、奴と……ドモン・カッシュとの戦いをあろうことか〝楽しい〟とさえ感じている。 それどころか、今のチミルフ様の言葉を聞いて、あなたが本当にチミルフ様なのかどうかを疑ってしまった。 確かにここでチミルフ様の言葉に頷けば、俺達の願いは叶うでしょう。 ですが、それでは、あまりにも…………口惜しいッ!』 そこまで言うと、ヴィラルは悔しげな表情を浮かべ拳を強く握り締めた。 だが、その螺旋の輝きを放つ瞳は口下手な男の意志を舌先以上に雄弁に語っていた。 戦いたい。 武人として、 獣人として、 男として―― それが散々苦渋を舐めさせられてきた雪辱を晴らす、という意味なのか。 もしくはヴィラル自身が導き出した「愛」という理想なのか。 金色の髪の男と女は互いの意志を再度確認し合うかのように、朗らかに笑った。 両者の間に結ばれた想いを、輝きを、チミルフは理解し得ることが出来ない。 『ここで……俺が、チミルフ様に背中を押して貰いたかったと……考えるのは贅沢なのでしょうか。 戦士として、全力で目の前の敵を殲滅せよと――仰って頂きたかったのは俺の我がままなのでしょうか』 真摯な視線と歪のないハッキリとした語調でヴィラルは言った。 画面に小さなノイズが走る。 波のように揺れるモニターの向こうで、ヴィラルの瞳は真っ直ぐにチミルフを見つめていた。 それは戦いの中に自身の居場所を求め、戦場の空気を心の止まり木にする者の言葉だった。 誇り高き戦士といえど、戦場に一度足を踏み入れれば、胸は高鳴る。 単なる命のやり取りや生きるための手段ではない。 そこに矜持を、活路を、愉悦を――綺羅星のような光り輝く栄光を渇望する者の心からの叫びだった。 ヴィラルは、何を、言っているのだろう。 東方不敗・マスターアジアはルルーシュの下僕にされたチミルフを「駄犬」と称した。 もはや今の彼はかつて覚えた戦士としての高揚感など微塵も感じさせない木偶であると、大きな失望を寄せた。 自らの武でもってその信念を誇示しようとした姿は過去のモノ。 背中で語るべき同胞も、部下も、愛する人も既に彼の眼には映らない。 ヴィラルが尊敬して止まない「怒涛のチミルフ」は彼であって彼ではない。 同じ存在でありながら、それは異なった多元宇宙に存在する何十何百何千何万何億何兆という分岐の中の一つの可能性に過ぎないのだ。 だが、彼は本来ならば何の縁もない男の前でも尊厳な戦士として振舞おうと心掛けた。 期待に、応えようとした――しかし、 『もちろん螺旋王の意志に背くつもりはこのヴィラル、毛頭ございません! ですが……今しばらくの猶予を頂きたい。 決着を付けたい相手が……いえ、付けなければならない相手がまだこの場には居るのです! 王の下に参るのは敵を駆逐したあと、必ずッ!』 結局、気が付けば今のチミルフは、ヴィラルの尊敬する「怒涛のチミルフ」の足元にも及ばない存在へと成り果てていた。 感覚的に、ヴィラルも彼へと違和感を覚えていたのだろう。 ルルーシュの「絶対遵守」のギアスは、対象にありとあらゆる命令を遂行させる能力を持つ。 それがたとえどんなに強固な信念を備えた人物であっても、完全な抵抗など不可能だ。 だが、本人は自身の変化に気付く事が出来ない。 主従書き換えのギアスは「武人」や「騎士」といった一人の人物に仕える人間のアイデンティティそのものを崩落させる。 たった一人の相手に己の全てを捧げるからこそ――彼らは尊く、気高い存在を保持出来るからだ。 『ヴィラルさんっ! もう……私ひとりじゃ……!』 『すまないっ、シャマル!! チミルフ様ッ、身勝手をお許しください』 「な、ヴィラ――!!」 ブヅッ、という太い糸が切れるような音と共に通信回線が途切れた。 再度、チミルフが回線を開こうとしてもあちらに応じる気配はない。 俺が、変わった? ぼんやりと、チミルフは何も映さなくなったモニターを眺めた。 「くっ……」 直接、ヴィラル達の戦いに参戦し彼を説得すべきだろうか。 それとも、肩を並べてアルティメットガンダムとの戦いを援護でもすればいいのだろうか。 「……俺は何をすればいい」 煌々と光輝く天は星屑。 物悲しく鳴いている青白い月の光が心に軋轢をもたらす。 チミルフは血のように赤く染まった瞳を見開き、かぶりを振った。 間違ってなど、いない。 螺旋王ルルーシュの意志を叶えること――それが今の彼にとっての全てなのだから。 それでも、いつの間にか道を踏み外してしまったような気がするのはどうしてなのだろう。 答えてくれる相手はどこにもいなかった。 背後に控えた部下も、側で微笑んでくれる愛すべき人も、共に酒を飲み交わすような友も、気が付けば全て失っていた。 残されたものは王への忠義。もっとも大切で、重要な心。 何を、すればいい。何を、何を……! 疑念の鎖が心を縛り付ければ付けるほど――戒めの「絶対遵守」は彼に王への忠信を強制する。 眼球の〝赤〟が更に色合いを増し、チミルフの心は塗り替えられる。 ――――――お前の主君は螺旋王ではない、この私だ―――――― 脳裏を縛り付ける強制の言葉。ラグナレクとの邂逅。 〝C〟という集合意識に囚われた者達と同等の運命の剣がチミルフの喉元には突き付けられていた。 そこに彼の意思が介在する余地はなく。 忠義が転じて、忠犬と成り果てた抜け殻がそこにあるだけ。 「イエス、ユア・マジェスティ(仰せのままに、我が王よ)」 己を確認するように、チミルフは忠誠の言葉を呟く。 頭の奥から囁くようなその声に、抗うことなど出来るはずもなくて。 武人は、いや武人〝だった〟男は心の中で膝を折るのみ。 星と月だけが嗤う世界で、彼は己が失ったものの大きさに気付けずにいた。 時系列順に読む Back HAPPY END(4) Next HAPPY END(6) 投下順に読む Back HAPPY END(4) Next HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) ヴィラル 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) シャマル 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) 菫川ねねね 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) ジン 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(6) 282 愛に時間をⅣ カミナ 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) 東方不敗 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) チミルフ 285 HAPPY END(6) 285 HAPPY END(4) 不動のグアーム 285 HAPPY END(6)
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BIGBANG室蘭(BBむろらん校) 最寄り駅 JR東室蘭駅 アクセス JR東室蘭駅からタクシーで約5分 道南バス「東町ターミナル」から(52)柏木、(64)室蘭養護学校行きで「仲通」下車後すぐ目の前だが(6)(72)室工大循環線、(55)石川町げんき館、(59)鈴かけニュータウン行きの「仲通」下車なら徒歩1分。 JR東室蘭駅からもバス接続可能。道南バス「東室蘭西口」から(6)(72)を除く上記の系統でいずれも「仲通」下車。 尚、道南バス「高速室蘭サッカー号」中央バス「高速むろらん号(室工大経由)」も「仲通」には停まるがこちらは室蘭行きが夕方、札幌行きが早朝の各1本ずつのみ。 車は道央道「登別室蘭IC」から国道36、37号線経由で約15~20分。 営業時間・稼動台数等 平日 10 00~24 00 土日 09 00~24 00(年中無休・時期によって延長営業有。) 6台/おしぼり有/禁煙 備考 月1大会の常連。 ホームページ http //www.big-bang.jp/muroran/
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HAPPY END(18)◆ANI2to4ndE ◇ 「まだ生きてやがったか……ジジィ!」 そう、瓦礫を押しのけて現れたのは半壊のマスターガンダム。 左腕が千切れ、片目は潰れ、東方不敗の姿が目視出来るほどにボディは損壊していた。 だがその全身から溢れる闘気と殺気は衰えることなく、クロスミラージュの作り物の肌を粟立たせる。 その姿はまさに妄執の化け物と呼ぶに相応しい姿だった。 何故、究極の一撃を受けた東方不敗が生きているのか? その理由は、彼の周囲に散らばる白い破片。 ドモンとカミナの魂の一撃が炸裂する直前、風雲再起の駆るモビルホースがマスターガンダムを庇ったのだ。 放たれた究極の拳は、風雲再起の命を代価として、致命にまで届かなかったのだ。 「ワシはまだ死なん……目的を達するまでは!!」 「テメェの……目的だと!?」 カミナとて目の前の老人が何らかの思惑で動いていることは察している。 だが彼にはその目的が分からない。 最初会った時はこっちを本気で殺そうとし、次に会ってからは手加減して鍛えようとしやがった…… カミナにはその真意が分からない。彼には――さっぱりわからない。 そんな青年に対し、東方不敗はニヤリと笑い、 「ワシの目的は自然を、ひいては美しい地球を救うことにほかならん!」 『それとこれとが、どう繋がる! 人同士を殺し合いに導き、戦わせ、それがどうして自然を守ることと同じ意味を持つ!』 ディスタントクラッシャーを受け止めながら、クロスミラージュは理解できぬものに問いかける。 モニタ越しに問いかけた相手を目視した東方不敗は驚きに目を見張る。 ラガンに乗っていたのは、死亡したはずの女と同じであったからだ。 しかもその口から発せられたのは明らかに作り物の声であった。 「貴様……何者!?」 『私の名はクロスミラージュ……貴方とは何度もお会いしたことがある、ご老人』 名乗りを上げる少女に二重の驚きを重ねる東方不敗。 彼もまたルルーシュから齎された情報によって、クロスミラージュの正体を知っているのだ。 だが、今更そんな事は些事だと思い直す。 人の味方をするのならば、また貴様もこの東方不敗の敵に他ならないのだから。 東方不敗はその顔に感情の色を乗せ、言葉を叩きつける。 その感情の名は――怒り。 「よかろう……ならば貴様にも聞かせてやろう! ワシの目的はなぁ……人類抹殺による自然の救済ぞ!」 『なっ!?』 「んだとぉ! そりゃ、どういう意味だっ!」 「まだ分からんのかこの馬鹿弟子がぁああっ! 貴様の天元を突破させ、この場にアンチ=スパイラルを降臨させる! そしてその力を用いて、全ての世界、全てにおいて人が犯してきた罪を償うのだ!!」 東方不敗は知っている。 さまざまな世界で地球が悲鳴を上げていることを。 多くの世界で環境問題は日々悪化し、ある世界では地球を見捨てて逃げだしさえした事を。 罪深きもの、ああ、汝の名は――人類。 「そしてドモンが死んだ今、ワシ自らの手で貴様らを押し上げるまでよ……! 食らえぃっ!! 十二王方牌大・車・輪!!」 マスターガンダムから発せられた気が、小型の分身となってグレンラガンに襲い掛かる。 『う……おおおおおっ!?』 「ぐ……ああああああああああっ!」 直撃を食らったグレンラガンが吹き飛ばされる。 瓦礫を砕きながら、唯一残った鉄塔へと叩きつけられる。 崩れ去る鉄塔の中で、クロミラは目の前の悪魔を睨みつけ、そして理解する。 最大最強にして最悪の"壁"が現れたという、その事実を。 ◇ 3人のロボット越しの会話はスパイクたちの位置からではほとんど聞き取ることが出来なかった。 だが一瞬だけ聞きとることができたその声は、 「あのお爺さん……!」 舞衣にとって忘れようもない声だった。 あの時、自分にソルテッカマンを渡した老人。 一度敵として向き合ったことがあるが、相手にすらならなかった。 人形のようだったチミルフとは違う。 チャイルドを召喚しても勝てるイメージが一つも浮かばない。 「舞衣ちゃん!」 「ええ、わかってるわ、ゆたか!」 だが、彼らが天を貫けないと全てが終わるのだ。だから命を懸けて足止めをしてみせる。 決意の命ずるまま目を閉じ、脳裏に浮かぶ龍のイメージを現実へと呼び起こす。 「やめよ女。奴らの邪魔をすれば、その瞬間に頭蓋を叩き割るぞ」 だが、ギルガメッシュの怜悧な声がそれを停止させた。 「何で……なんで邪魔するのよ!」 「フン……やつらは愚かにもこの我に向かって、天を突くという大言を吐いたのだ。 あの程度の壁……突き崩せずして天を突き破るなど片腹痛い」 「でも! でもっ!」 『マイ、ユタカ、私からもお願いしたい』 それでも反論しようとするゆたかを止めたその声は足元から。 マッハキャリバーが、明滅を繰り返しながら、おそらくは生まれて初めての我侭を告げる。 『クロスミラージュの……私の友人の生き様を記憶回路に焼き付けさせて欲しい』 『私も同じだ。そして、クロスミラージュは、負けはしない。 機動六課の、我らの仲間は、決して』 「キュイ!」 ストラーダとフリードリヒもそれに同調する。 「ってことは……」 「まぁ、そういうことだ」 葉巻に火をつけながら、スパイクも右に倣う。 その視線の先でグレンラガンの巨体が三度、宙を舞う。 ギルガメッシュも、スパイクも、フリードリヒも、まるで魅入られたようにその光景を見ている。 あの2人なら、どんな絶望の中でも何かをやらかすはずだと信じているかのように。 「あー、揃いも揃って男ってヤツは……馬鹿ばっかか!」 だがそう呟くねねねの口の端は上がっている。 ああ、確かにそうだよな王ドロボウ。 (ここで手を出すのは……"粋"じゃないってことなんだろ……ジン) 今度は衝撃で数キロ吹っ飛ばされるグレンラガン。 バスケットボールのように地面をバウンドする。 その装甲は前にも増して傷だらけ。 状況は不利どころではない。誰が見ても勝利すら難しい。 だが未だ、誰1人として絶望はしていなかった。 ◇ 瞼が、重い。 さっきから瞬きをするたびに気が遠くなる。 足が、冷たい。 鼻に付く鉄の匂いが、それは流れ落ちた血のせいだと教えてくれる。 抗いようの無い睡魔が、カミナの脳に意識を手放すように訴える。 甘美な誘惑に駆られるまま目と瞑り、全ての意識を放り出そうとして、 ――カツン 何かが胸を叩く感触に、目を覚ます。 ぼんやりと見上げたそこにはひび割れた夜空と真白い月。 それでやっと自分が倒れているのだと気づく。 しかもどうやら度重なる攻撃でコックピットを包む装甲がやられたらしい。 そしてその割れた部分から、何かが落ちてきたようだ。 何が胸を叩いたのか……何ともなしに目を下へと向けて 「――!」 それが何であるか認識した時、カミナの意識は覚醒した。 むき出しの胸を叩いたのは、髑髏を模した髪飾り。 カミナはそれに見覚えがある。 いつの間にか自分の胸の辺りに位置していた。 あいつの赤い髪の毛によく似合っていた、それ。 ぼんやりとカミナは呟く。 「……ああ、これで、全員そろったな」 右手はニアが、左手はガッシュが、背中はシモンが、そして前はヨーコが支えてくれる。 あとは俺が立つだけだ。この、2本の足で。 『貴様さえ、貴様さえ唆さねば、あの馬鹿弟子は……!!』 螺旋力のぶつかり合いか、それとも拳のぶつかり合いの成果か。 打撃を受けるたびに東方不敗の悲痛な叫びが聞こえてくる。 その中で聞こえたのは――愛弟子を失った、哀れな師匠の叫び。 「へっ、やっと人間らしい本音が出たじゃねえか。 だがよ……」 手に力が戻る。 そして、力いっぱい右手のレバーを握り締め、 「勝手なこと……抜かしてんじゃねえパーンチ!!」 振りぬかれた右手は防御を捨てていたマスターガンダムにたやすく当たりその巨体を吹き飛ばす。 そしてカミナの意志に答えるように、グレンラガンは何度でも立ち上がる。 「小せえ小せえ! てめぇはどこまで小さくなりゃ気が済むんだ東方のジジィ!!」 「なんだと……!」 「何でもかんでも人のせいにして、いざとなったら何とかスパナとかいう他人頼り! はっ、他人任せで何が出来るってんだ! おまえの弟子のドモンはもっとデカかったぜ!!」 『――ええ、まったく同意だ。 今の貴方は駄々をこねているようにしか見えない』 モニターの向こうでクロスミラージュも頭から血を流しながら、その目に闘志を燃やす。 『……それに、貴方の論理は破綻している。 何故ならば東方不敗、貴方自身も人類だからだ。 人類抹殺で罪を償うなど、楽な方へ逃げているに過ぎない。 ……本当にそう思うのならば本当のバカだ、貴方は!』 「さぁて――決着をつけようぜ、ジジィ! ドモンの代わりに俺たちが目を覚まさせてやる!」 『覚悟してください、私たちの拳は見た目より重い。だから――』 「『――歯ぁ、食いしばれ!!』」 そう宣言し、グレンラガンは指を突きつける。 言葉と共に叩きつけられたその闘気はあまりにも巨大。 そこで東方不敗は初めて気づく。 己が、マスターガンダムが数歩、後退していたことに。 そして腕が、わずかに震えていることに。 (バカな、怯えているだと……!? このワシが、この東方不敗マスターアジアが!?) 腕の震えは広がり、全身を震わせる。 だがしかし、 「なめるなよ小僧どもがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 されど、東方不敗とて螺旋力に目覚めたもの。 わずかに感じた恐怖を怒りへと転化させ、 更には魂の叫びを通じて緑色の光へと昇華させる。 そしてその身に染み付いた無窮の武練は自然と必殺の拳の型をとらせていた。 そのエネルギーは過去最大。 さきほどドモンとカミナの友情に押し負けたエネルギーとは比べものにならない。 そのことは対峙する彼らは文字通り肌で感じ取っていた。 だがそれだけのエネルギーを前にしても、微塵も恐怖は湧かなかった。 「おい、クロミラ……まだいけるか?」 『無論です。貴方の相棒はタフでないと務まりませんよ』 「へっ、違いねえや。クロミラ、だったらよ……アレを使うぜ」 『アレですね……ええ、いいでしょう!』 以心伝心。 込められた螺旋力により両手のドリルが変化し、一対の武器となる。 その武器にはグリップがあった。トリガーがあった。 白亜の銃身とその中心に位置する紅の×十字。 "それ"の名を知る者がいたらこう呼ぶだろう――クロスミラージュと。 赤い武者鎧に白い銃、その姿から放たれるは東方不敗がかつて敗北を喫した必殺の技。 来たるべき力のぶつかり合いを予感した大気が恐怖に慄き、限界を告げる大地が苦痛に身をよじる。 そして、その時は――きた。 「流派東方不敗が最終奥義ぃ!! ダァァァァァクネス、フィンガァァァァ、石・破・天・驚・拳ッ!!!」 『「必殺!! ギガ、ドリィィル……クロスファイヤァァァッ! シュウトオオオオオオオオッ!!」』 2つの叫びは世界の終焉を告げる天上の喇叭。 光と、轟音と、風を巻き込みながら、2つの螺旋エネルギーは真っ向からぶつかり合った。 ◇ 轟音が耳を劈き、震える空気が肌を叩く。 巻き起こる暴風に吹き飛ばされないよう必死で足を踏ん張る。 彼らの全てを見届けるために。 『――俺達全員が助かるには、この方法しかなかった!』 だがそのとき、風に紛れ、誰かの声がゆたかの耳に届く。 落ち着いたビブラートのかかった声は―― 「ス、スパイクさん、何か言いました?」 「あ? いや、俺は何も――」 「おい、なんだありゃあ!?」 ねねねの言葉に視線を上げれば、そこには異常な光景が繰り広げられていた。 2つのエネルギーがぶつかり合う、丁度中間地点。 そこが罅割れ、映画のスクリーンのごとく明らかに別の風景が映っているのだ。 そこに映るのは男がいた。女がいた。 老人がいた。赤ん坊がいた。 強者がいた。弱者がいた。 ただ、一つだけ共通していたのは彼らが、互いに殺し合っているということだけ。 螺旋の向こう側で、凄惨な光景が繰り広げられていた。 その現象にデバイスも含めた全員が驚愕する中、ギルガメッシュだけがつまらなげに鼻を鳴らす。 「フン……老いぼれの怨念に引き寄せられたか」 『King! あれは一体』 「克目するがよい雑種ども。あれこそが"多元世界"よ」 2つの螺旋のぶつかり合いは時間軸、空間軸それらすべてを含む因果律を歪め、 本来なら触れ合うはずの無い異世界の姿を引き寄せていた。 まるで東方不敗の絶望に引き寄せられるように、悪夢のような光景を。 その中に、彼女たちの知る絶望があったとしても。 ――『ご褒美をちょうだい』! 役に立つ物を! そこには、罪に手を染めた雪の少女がいる。 ――ああ―――裏切るとも そこには、少女を殺した正義の味方の成れの果てがいる。 ――壊すんだ、全部、みんな……! そこには、罪悪感で壊れそうな精神を歪んでしまった正義で守る少女がいる。 「そんな……イリヤ……さん」 「衛宮……!」 『スバル……』 悪意は悪意を呼び、無限の悲劇を引き寄せる。 それはグレンラガンの中にいる2人にしても同じこと。 彼らは聞く。 死の間際、最悪の形で義理の妹との再会を果たした少年の叫びを。 彼らは見る。 無害な羊の皮をかぶり殺戮を繰り返した冥王の姿を。 彼らは感じる。 血まみれのメロンパンを前に慟哭する少女の痛みを。 ……そこには、悪意があった。 優れた智謀によって多くの参加者に悲劇を招いた悪魔のような少女がいた。 弱者であることを武器に集団に紛れ込み、ひっそりと殺人を繰り返す少年の姿があった。 自分の愛する少女にあまりに身勝手な愛を与えるために、誤解と殺戮をばら撒く女の姿があった。 ……そこには悲劇があった。 己の存在意義を真っ向から否定され、絶望にくれる獣の姿があった。 愛する男のために、どれだけ致命傷を受けても相手をただ殺そうとした少女の姿があった。 妹のことを思って行動した少年は、畜生となり数奇な運命を経て解体された。 ……そこには絶望があった。 もう一度歌を歌いたかっただけの少女は、大きな悪意によって凄惨な最後を迎えた。 狂気の果てに、なりきることで娘の生存を信じようとした哀れな母親の姿があった。 神を自称し暴虐を振るった少女が、恋心を踏みにじられ絶望の中で死んでいく光景があった。 それらはすべて、殺し合いによって生まれたものたち。 蟲毒から生まれた怨嗟と絶望のエンドレスリピート。 そして螺旋の中心にいる彼らは誰よりも「この世全ての悪」にも似た「多元世界全ての絶望」に晒される。 ――帰ってきた現実のほうが、よっぽど地獄じゃねえか! 誰かが言ったその言葉が何よりも心を抉る。 まるでそれは散り行くものの怨嗟の声。 それは、どれほどの絶望か。 それは、いかほどの災禍か。 それは人の業、それは人の醜さ、それは人の悪意。 その全てを間近に受けて、 『――それが、どうした』 それでも、彼は膝を突いてはいなかった。 効果が無いわけではない。 今までだってクロスミラージュの心は折れそうになっている。 彼が螺旋の向こうから突きつけられたのは、信じたくない光景の数々だった。 それは、若き日の高町なのはが無慈悲な目で仲間であるはずの少女の傷口を焼く光景であり、 それは、年若いフェイト・T・ハラオウンが怒りのままに少女を肉片一つ残さず消滅させる光景であり、 それは、烈火の将や鉄槌の騎士が主の復活を願うまま、凶行を繰り返す光景であり、 それは、疑心暗鬼におびえ、破壊の力を振るったマスターの親友の姿だった。 どれもクロスミラージュの知る彼女らからは考えられない姿。 人は容易く狂気に飲み込まれるということへの証左とでも言うように。 「何故だ……何故これを見ても人の愚かさがわからん!」 光の向こうから聞こえるのは東方不敗の叫びにも似た声。 もしかしたら彼もかつて自分が突きつけられた絶望を改めて見せられているのかもしれない。 だが、だからこそ思う。 『貴方こそ何故認めようとしないのだ、人の――素晴らしさを』 彼は、忘れない。 機械であるがゆえに、苦しいことも、そして楽しいこともずっと覚えている。 だから聞こえる。彼らのあの声が。 闇に吸い込まれてもなお輝き続けるあの声が。 ――行くわよ、クロスミラージュ! 六課で過ごしてきた輝ける日々。 ――行くぜ、クロミラぁ! そしてグレン団の仲間の笑い声。 深いところに記憶されたそれは、決して忘れることは無いメモリー。 あの日、彼女たちがくれた言葉は今でもこの胸に届いているのだから。 素晴らしい過去はまるで星のよう。 決して手は届かず、だが確かにそこにあり続ける。 そして人は星の光を頼りに、見果てぬ闇を突き進むことが出来る。 努力を重ねながら、間違いつつも、きっと前に進むことが出来る。 迷ったことも、抗ったことも、そのすべてを誰もが持つ螺旋のうちに飲み込んで。 その証拠に、螺旋の向こうに見えるのは絶望だけではない。 ――これが、あたしたちの全力全開!! 異形の右拳に赤い少女の魂が重なる光景がある。 ――私は笑顔でいます。元気です。 親友の喪失という痛みを乗り越えた、運命の名を持つ少女の姿がある。 もっと深くを見通せば、かつて敵対した少女が新しく出来た"弟"を守るため、仮面の魔人相手に立ち向かう姿があった。 先ほど"高町なのは"を殺した少女が、目に確固たる正義の意志を浮かべ、別の女の凶行を止めようとしていた。 剣の丘で嘆く男の吸血鬼に立ち向かう背中が、仲間に見守られながら古びたドアを潜る少年の背中に重なる。 多くの人の人生を踏みにじった罪深い男は、少女を信用させようとついた嘘からついには本物の正義の味方になった。 かつて命を弄んだ男は、反逆を旨とするトリーズナーに出会い、真っ向から弱い自分に反逆した。 闇より生まれたはずの王子は、師を得て、友を得て正義の系譜を継いで行く。 一瞬見えた光景には、マスターとは別の少女の手に握られた自分の姿すらある。 そのすべては確かに多元世界のどこかであったこと。 ぶつかり合う螺旋の先には無限の闇があり、それと同時、無限の光があった。 宇宙という無明の闇に、確かに輝く星々があるように。 そう、天の光はすべて星。 そのどれもがクロスミラージュという存在を惹きつけてやまない、"希望"という名の星々(スターズ)なのだ。 『私は……その光を信じる、そうだとも……人を信じる自分を信じる! それが私の答えだッ! 誰にも文句は言わせるものか!!』 それがクロスミラージュの出した答え。 人と機械の狭間を生きる彼が出した、たった一つの真実。 「へ……へへっ、言うじゃねえかクロミラ」 そして、この男も折れはしない。 「そうだ……俺にゃあ難しいことはわかんねえ。 ジジィの言うことだってあながち間違いだけってわけじゃねえ。 だがよ……ぉっ!」 カミナは曲がらない。 その背中に、何かを背負っている限り。 炎のように燃えるグレン団の魂を背負う限り、折れることも曲がることも無い。 今にも折れそうな心は相棒が支えてくれる。 だから愚直なまでにまっすぐに突き進むことができるのだ。 「そうだ、俺の信じた俺は……俺の信じたダチどもが、グレン団が!! こんなちっぽけであってたまるかよおおおおおおっ!!」 ――墓穴を掘っても掘り抜けて、突き抜けたなら俺の勝ちだ! ……どこからか、とても懐かしい声が聞こえる。 そうだ、間違っててもいい。 間違ってても、信じて貫けばそれはきっと本物になれる。 誰が何と言おうと、それが――俺の宇宙の真実だ。 その時、カミナは右手に感じたのは微かな痛みと燃えるような灼熱。 右手の甲に輝くのは王者の証。太古から連綿と続いてきた人類の守護者の紋章。 今、ここに生まれたのは歴代で最も未熟で、だがしかし、最も真っ直ぐなキング・オブ・ハート! 「バ、ばかなっ!! 貴様などがキング・オブ・ハートに!」 「馬鹿はテメェだ……クソジジイ!」 そう、あいつも味方してくれるのだ。 アイツだけじゃない。声は聞こえない、だがそれでも確かにみんなを感じるのだ。 だったらよ、 「行こうぜ、みんなでよぉっ!」 カミナの叫びに応えるように、グレンラガンの右手が金色に光り輝く。 同時、右手に握られた巨大クロスミラージュが再分解され、構成される。 その姿はドリル。グレンラガンよりも巨大な光の螺旋。 「俺のこの手が唸りを上げるッ!」 ドリル。それはカミナが信じた想いの象徴。 どんな固い岩盤をも貫く男の武器。 『螺旋となって、全てを砕く!』 ドリル。それはクロスミラージュが信じた人の姿。 一回転するたびに、少しずつ前へと進む進化の具現。 「友との絆が天へと響きぃっ!」 光の螺旋の中、二対の目が睨むのは天上に輝く月。 この世界に残された最後の壁。 『無限の地獄を貫き通す!!』 グレンラガンの全身が金色と碧色に染まり、極彩の輝きを放つ。 「それが、俺たちの!」 『私たちの!』 「「「「「「「俺達、グレン団の!!」」」」」」」 その声は一つではない。 螺旋の向こう側、多元世界を貫いて、無限の声がシンクロする。 「「「「「『みんなの! ドリルだぁあああああああああああああああああああっっ!!!』」」」」」」 そして重なり合う声の中で、グレンラガンは光のドリルと一体化する。 極光のドリルは2機の中間で燻っていたエネルギーすら螺旋のうちに取り込みながら天を目指す。 その道は誰にも止められない。 ――例え、その間にどんな障害があろうとも。 「う……おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」 圧倒的な光の嵐の中に、最強の武闘家の姿が消えていく。 クロスミラージュたちから最早その姿は見えず、声も聞こえない。 だからその最後は苦難に満ちたものだったのか、それとも安らかなものであったのか。 それは本人にしかわからない。 ただ一つ確かなのは光の螺旋に巻き込まれ、今度こそ、野望に生きた男はその苦難の生を終えたということだけだ。 『……ぐっ!?』 だが、天を目指し突き進んでいたグレンラガンに異変が起こる。 あまりに強大なその力に、グレンラガン自身が崩壊を始めたのだ。 しかもそのスピードは――あまりにも早い。 『このままでは……月に届く前に……!』 燃え尽きてしまう。 クロスミラージュの冷静な頭脳は残酷な事実を弾き出す。 ここまで来て、届かないのか。 クロスミラージュは悔しさに歯噛みする。 だが、その瞬間、ラガンのコックピットに衝撃が走る。 彼が目を上げれば大きな手のひらに視界が多い尽くされていた。 そう、唯一残ったグレンラガンの手が、グレンラガンの頭部を――ラガンを掴んでいた。 「いっけええええええ、クロミラアアアアアアッ!!」 乾坤一擲。 そしてそのまま天の歪、月に向けて思いきり投げ飛ばした。 青い流星の如く、ラガンは天に向かって舞い上がる。 だがその代償として、グレンはその反動で四肢をばらばらに砕け散らせながら、地上へと落ちていく。 そのコックピットから、カミナは天へと上っていく弾丸を見つめる。 目に映るのは金色の月へと飛び立つラガン。 だが次第にそのシルエットは滲み、輪郭を失っていく。 代わりに見えるのは背中だ。 偉大な父親の、信頼する弟分の、そしてもう一人の相棒の背中が。 ――そう、いつだってオレは背中を見てきた。 親父の背中を追って、シモンの背中を守って、そして今、アイツの背中を押した。 そうだ、今度こそ押すことができたんだ。 親父の時は遅すぎて、シモンの時は遠すぎた。 それでも、今度は間に合った。 あの背中を、俺は……押せたんだ。 最後の最後に取りこぼさずにすんだんだ。 それだけで――満足だ。 『アニキ!』 『カミナ!』 聞き覚えのある声に振り返れば、懐かしい顔が勢揃いしてやがる。 丁度良いところに来てくれたな。 なぁ、お前ら……見えるか。あいつの背中が。 不滅不朽のグレン団の炎のマークが。 『ああ、見えるのだ!』 『ええ、クロミラさんの背中に、しっかりと!』 そっか、じゃあ幻なんかじゃねえよな…… それにあとはアイツらが何とかしてくれるだろ。 『ああ、舞衣も、スパイクも、ねねねも、ゆたかも――あの傲慢な男もきっと負けはせん』 へっ……やっぱお前もそう思うか。 だったら、やるこたやったし……俺はそろそろ行くとすっか。 行く先は光の向こう……だが、その先に何があるか俺は知ってる気がする。 だから不安は無い。だが最後にもう一度振り返り、あいつの背中を目に焼き付ける。 これは多分永遠の別れってやつじゃねぇ。 また、いつか何処かで会えると俺は知っている。 だからその時まで…… 「あばよ……ダチ公」 ◇ スピーカーから僅かに聞こえた声にクロスミラージュは瞼を閉じる。 声が小さすぎて何を言ったのかはわからないが、それが命の消える"音"なのだと理解したからだ。 そもそもここまで持ったことこそ奇跡なのだ。 あの時、カミナは確かに死んでいた。 とっさに『生命力を魔力に変換できるのなら、その逆も可能ではないか』と考えて、 その体に"気合"と称し、叩き込んだのだ。 ――いや、それも後付の理由だ。 カミナはこんなところで終わる男ではないと、そう思った瞬間右手を振り上げていただけのこと。 そして彼は成し遂げた。 期待を背負い、それに確かに応えて。 そして自分はどうだろう。 彼の期待に応えられただろうか。 相棒として、男として、自分の命はそれに応えられただろうか。 そう、命だ。 自分の手元を見れば、まるでガラスのように両手と両足が透けていく。 過剰な螺旋力に急造の肉体では耐え切れなかったのだろう。 それが意味するのは確実な死。 だというのに、 『……なぜ、笑っているのでしょうかね、私は』 口の端が持ち上がっているのがわかる。 死ぬのは、消えるのは怖い。 融合した螺旋生命体の本能もそう告げている。 だが、答えを得た今、それを上回るほどの喜びが全身を満たしているのだ。 人が素晴らしいと思える――その答えを。 ああ……人は素晴らしい存在ですね、ティアナ。 こんな絶望しかない世界でも希望を持って進む強さがあるのだから。 そして今、彼らと同じ存在になれたことが、どうしようもなく嬉しいのです。 大声で泣きたいぐらいに、大声で笑い出したいぐらいに。 だから、もしも生まれ変わったのならば私は人になりたい。 魂を持つ存在になりたい。 Mr.明智のような冷静さと優しさを併せ持つ人間に。 ニアのような優しさを持つ人間に。 ガッシュのような高貴さを持つ人間に。 ビクトリームのような誰かを楽しませる人間に。 ドモンのような誰かを守れる強さを持つ人間に。 貴女のような、弱さを強さに変えることの出来る人間に。 そして――『彼』のような真っ直ぐな人間に。 『彼』は不思議な男だった。 粗暴で、愚直で、決して頭の回る男ではなかった。 だが不思議と、魅力のある男だった。 只の機械である自分に対して、対等に接してきた。 真っ直ぐな視線で、ただ一個の存在として私を扱ってくれた。 自分もまたそれに引きずられるように、彼と対等に接してきた。 それはマスターとの間にあった絆とはまた違う、奇妙な信頼の形。 交わされた言葉、共に歩んだ光景、そして――彼のまっすぐな生き様。 そのどれもが掛け替えのないメモリーとして記録されている。 この記憶は、例え生まれ変わったとしても、きっと忘れることはないだろう。 それにしても『生まれ変わり』、か。 ミッドチルダの科学技術でもいまだ証明されたことの無いそれは何と非科学的な答えだろう。 以前の自分なら、きっと否定していたに違いない。 だが……今なら言える。 『……それが、どうしたというのです』 そう、それがどうした。 存在しなければ存在させればいい。道が無ければ創ればいい。 可能性がないのなら、可能性を作るために足掻くまで。 できるできない、ではなくやるかやらないか――結局はただそれだけのことなのだ。 ねぇ、そうでしょう、カミナ。 無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが私たち、グレン団のやり方なのでしょう? 気づけば結界の要石たる月が目の前に迫ってきている。 これならば目を閉じても当たるだろう。 そう確信してゆっくりとまぶたを閉じる。 初めて閉じた瞼の裏に、浮かんでくるのは大切な仲間たちの顔。 みんな、いつかどこかで、またお会いしましょう。 だから、その時まで―― 『――See you again, my friends(またな、ダチ公)』 ◇ 轟音と共に偽りの月が砕かれる。 砕かれた月から生まれたのは閃光、そして衝撃。 振動と共に放たれたそれはまさに世界の終焉。 全ての決着を見守っていた彼らにも、崩壊の序章として暴力のような風が襲い掛かる。 「きゃ……!」 「ゆたか!」 「チッ……もっと固まれ! 手を離すなよ!」 「雑種風情が我に命令するか。身の程を――」 「いいから、お前もこっちに来い!」 「クェ!」 『衝撃波到達まで残り5秒』 『――来ます!』 そして続けざまに来た衝撃波と閃光の中に、 弱くて強い少女が、火の舞姫が、片腕の賞金稼ぎが、最古の英雄王が、物語を綴った小説家が、 デバイスと小さな竜と共に消えていく。 ――何もかもが光の中へと消えていく。 丘の上で全てを見守っていた少年の体も、運命に翻弄された兄弟の亡骸も、 争いに巻き込まれ成す術無く死んでいった儚きものたちも、 殺戮の繰り広げられた船も、英雄豪傑たちの戦いの跡も、一世一代のバカ騒ぎの傷痕も。 愛も、殺意も、友情も、打算も、希望も、絶望も、信頼も、裏切りも、 笑顔も、涙も、協調も、排他も、幸運も、不幸も、信念も、欲望も、 夢も、野望も、快楽も、苦痛も、栄光も、屈辱も、憧憬も、侮蔑も、 正義も、悪も、理性も、狂気も、誤解も、理解も、悲嘆も、憤怒も、 すべては白い闇の中へと溶けていく。 そして――何かがパリンと壊れる音が響き、 実験開始から36時間後……ついに、螺旋王の作り出した箱庭は崩壊した。 ◇ ――そこは、ひどく穏やかな場所だった。 その世界を構成するのは、たったの二色。 天を覆い尽くす蒼穹のブルー、大地を埋め尽くす新緑のグリーン。 二色で塗り分けられた世界は、しかしモノトーンとは違った深さを持って彼の視覚を刺激する。 その光景が刺激するのは視覚だけではない。 触覚が捉えるのは緑の絨毯を撫でる風。 味覚が知るのは舌に残る果物の蜜の味。 聴覚が捕らえるのは草同士が触れ合い響くシャラシャラという鈴のような音。 そして彼の嗅覚を刺激するのは、太陽と、緑の匂いだ。 獣人であるヴィラルは五感のすべてを持って知る。 ここには何も無く、またそしてすべてがあるのだと。 誰かが求めた豊かな自然の中で、彼は飽きることなくその光景を眺めていた。 そしてその視界に僅かな変化が現れる。 地平線の彼方まで続く草原の中を、一房の麦穂が駆けていく。 それは、流れるような金の髪を持った1人の少女だった。 「――パパ!!」 金髪の少女が大声で叫び、満面の笑みをヴィラルに向ける。 「あのね、あっちの方に何か動く物が見えたの! 見に行ってきてもいい!?」 好奇心に目を輝かせる愛娘を目の前にして、ヴィラルはしばし考える。 実を言えばあまりよくない。 お転婆なこの少女は、目を放してしまえば大怪我しかねない危なっかしさがある。 正直に言えば、目の届く範囲でずっと見守っていたいのだが…… 「……あまり遠くには行くなよ」 「うん、わかってる!!」 その言葉も聞こえていないようで、まっすぐに走り出す。 止めたところで無駄なのなら、気持ちよく送り出すしかあるまい。 遠ざかってく小さな背中に、思わずため息をつく。 「ふふ、ヴィラルさんは本当にあの子には弱いんですね」 隣でそう笑うのは少女に何処か似た面影を持つ女。 彼女の母であり、そして――彼が何よりも愛する一人の女だ。 「……まったく、誰に似たのか知らないが、妙に頑固なところがあるからな」 「そうですか? ヴィラルさんに似てるところもけっこうありますよ」 ……あまえんぼさんな所とか」 いたずらっぽく微笑む女に何も言い返せず、無駄と知りつつも沈黙でささやかな抵抗を試みる。 だがそれすらも予想のうちだったようでシャマルの笑みは深くなるばかり。 ……まったく、何時までたっても男は女というものに勝てない気がする。 その時、風が吹いた。 風は大草原を浚い、新たな草の音色と匂いを運ぶ。 そして頭上に輝く太陽はただ静かに俺たちを照らし続けている。 ――穏やかだ。まるで今の俺の心の中のように。 愛しいものと過ごす日々は黄金のよう。 常に新鮮な驚きと暖かな安らぎに満ちていた。 ああ、これ以上、何を望めというのか。 嵐のような戦いは遥か遠く、凪のような日々が過ぎ去っていく。 輝かしい武勲も、血湧き肉踊る戦いの興奮も、この安らぎの前には色褪せてしまう。 ただ生きる――それだけのことが、こんなにも嬉しいだなどと何故知らなかったのだろう。 「ねぇ、ヴィラルさん。何、考えてるんですか?」 そっとこちらの顔を覗き込む愛しい女。 答えの代わりに、そっと肩を抱き寄せる。 「ん……」 シャマルもそれに応える様に体重をこちらに預けてくる。 胸に伝わる温もりと花のような香りを感じ、目を閉じる。 「ヴィラルさん……ずっと、一緒ですよ」 「当然だ。二度と……この手を離しはしない」 そしてしっかりと手を握り締める。 どんな暗闇の中でも離さないように。 二度と離れ離れにならないように。 繋がれた右手を通して、シャマルのぬくもりと鼓動を感じ続ける。 ああ、俺は幸せだ。 世界中で誰よりも。 言葉で、ぬくもりで、全身を使って―― ただ、それだけを愛しい女に伝えたかった。 時系列順に読む Back HAPPY END(17) Next HAPPY END(19) 投下順に読む Back HAPPY END(17) Next HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ヴィラル 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) シャマル 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 菫川ねねね 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ジン 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) カミナ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 東方不敗 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) チミルフ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 不動のグアーム 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(19) 285 HAPPY END(17) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(19)
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HAPPY END(19)◆ANI2to4ndE ◇ 終わったのかと思った。これで全部終わりにできるのか、と。 腐ってぐちゃぐちゃになった生ゴミみたいに最悪な場所はどうにかぶっ壊してやったんだ。少しはエンディングが近づいたっていいだろう。 もっともそれはハッピーエンドなんて上等なもんじゃない。いっぱい死んだ。守るって言った子も、守ると言ってくれた人も、みんな。 終わりになんてならないことは分かってる。まだあの蛸ハゲが残ってる。手下だっているかもしれない。 まだまだ。生きるか死ぬかの瀬戸際だってことは変わっていない。 読まずに死ねるか、ってセンセーなら言うんだろうね。 あたしは逆。書くまで死ねるかって、そう思ってる。 ああいや、本当のところを言うと今はちょっと違うかな。 書くだけじゃない。書いて書いて書きまくって、できあがった物を誰かに読ませずに死ねるかって、それが正直な気持ちなんだと思う。 だってそうじゃん。 いっぱい色んな人に読んで欲しいでしょ。こちとら死ぬ気で書いてるんだからさ。 「お目覚めかな、諸君」 頭上から投げかけられた高圧的な声に、薄明かりをさ迷っていたねねねの意識は目を覚ました。 ん、と重たい吐息を漏らしながら覚醒直後の頭を起こす。そうしてから初めて自分が硬質の冷たい床に寝転がっていたことに気付いた。 はっと閃くものがあって慌てて左右を確認する。ゆたか。舞衣。みんないる。まだ目が覚めきってないようだがとりあえずは無事だ。 男二人は既に立ち上がっており、スパイクは声の主を、ギルガメッシュは実につまらなさそうに何もない空間を、それぞれ睨んでいた。 ねねねがつられた視線はスパイクの方だ。子供二人が起きるのを助けてやりながら首を曲げ顔を反らす。 ねねね達がいる場所は、すでに実験の檻の中ではなかった。 幅の異なる同心円が柱状に積み上げられてできた玉座はかすかに見覚えがある形。 そのときの記憶は遠い過去のようであり、それでいて忘れることもできない。 会場を脱出したねねね達が招かれたのは、地獄を告げる始まりの場所だった。 あのときと同じように、玉座に座る者がいる。 今がその再現であるならそこに居る人物も同じであるはずだ。 「ようこそ、初めましてとでも言おうか?それとも見事脱出を果たしたことにまずはおめでとうかな?」 違った。居丈高な口調で喋る声は神経に刷り込まれたものではない。 視界に入った姿もまたうっすらと記憶に残る螺旋王のものではなかった。 どういうこと、と舞衣が呟くのが聞こえた。警戒するようにゆたかを庇っている。同じことをねねねも聞きたかった。 細身の長身を包むぴちりとした紫の衣装。僅かに覗くそれを幅広のマントがすっぽりと覆っている。 幅広の襟に包まれるような頭部を覆うのは特徴的な曲線を描く黒の仮面だ。後頭部にのみ幾つか突起が見られる。 それは、ゼロの衣装という名前でねねねに記憶されているものと寸分も違わなかった。 いったい誰が。混乱のままに吐き出されそうになったねねねの誰何の声は、なるほどねぇというスパイクの溜息のような声によってせき止められた。 「お前、ルルーシュか」 「な、あんた何言って……!」 それはねねねが真っ先に思いつき、そして同時に否定した可能性だ。 この衣装を着るに最も相応しい少年は既に死んでおり、この世にはいない。 そのはずだ。 「私はゼロだ。混沌とした状況に秩序を与え、皆を導く存在だよ」 筒のように長い体を玉座に沈め、頬杖と共に返された答えは否定とも肯定ともつかないものだった。 空いた手はいかにも説明してやってるという呈で気だるげに虚空に差し伸べられている。少しだけ癇に障った。 「……何かおかしいとは思ってた」 スパイクの言葉も直接の返答ではなかった。いつの間にか灯されていた葉巻から深々と紫煙が吐き出される。 続けられた声は、誰に聞かせるでもなく重く響いた。 「ドモンが最後に闘ってた相手、ありゃどう考えても人数外の奴だ。 敵さんのうちの誰か、とも思ったがそれにしちゃ使っていたロボットも動きもドモンに似すぎてる。 他の連中に関してもそうだ。百歩譲ってチミルフが生きていたのは『敵だから』で納得できるにしても、 舞衣が聞いたっていう死に際の妙な言葉、それを踏まえて見るキレの悪いドンパチ。 今考えてみりゃこっちが危険だって考えてた連中が軒並み消えちまったタイミングもできすぎてる。 ……一個一個は見慣れた街を歩いてるときにふと感じる違和感みたいなもんだ。すぐに錯覚ってことで忘れちまう。 今回もそういうもんかと思ったが、どうやら違ったらしいな。 ここまでくりゃ子供にだって分かる。寝返ったんだな、お前ら」 カミナの妙な言い種もこれで納得だと、口を器用に歪めながらスパイクは結んだ。 「ククク、ご明察だよスパイク君、その通りだ。 ルルーシュ・ランペルージ、東方不敗マスターアジア、そしてニコラス・D・ウルフウッドの三名は元々会場に降りていた怒涛のチミルフと共に獣人の元へと下った。 こちらが与えた情報を馬鹿正直に信じる君たちの様子は中々愉快だったよ」 言葉通り、一級の技術で作られた変声機に歪められた声が色を帯びた。 つまり、こいつらは。目の前にいるこいつは。 清麿殺しの犯人であるルルーシュ・ランペルージは生きていたと言うのか。 「ロージェノムに尻尾振って生き残ろうって腹かよ。意外とせこかったんだな」 小馬鹿にするようなスパイクの声には少しどいてもらおう。ねねねは両の手を力一杯握りしめた。 聞かねばならない。この少年が本当にルルーシュであるなら、ねねねには清麿の死の真相を問い質す義務がある。 でも、それはできなかった。 「それに関しては間違いだな。単刀直入に言おう……螺旋王は逃げた」 「……なんだって?」 ねねねが怒りを忘れる程に、もたらされた情報の衝撃は大きかった。 「冗談だろ?」 皮肉に笑っていたスパイクでさえ驚きを、隠しきれていない。 「残念だがこれが真実だよスパイク君! かの愚昧な王は天敵の接近に恐れをなし、無責任にも自らが始めた実験の一切を放棄し、逃亡したのだっ!」 全員の気持ちを代弁するスパイクの言葉を掻き消すように、大袈裟にマントを翻しながらルルーシュが立ち上がった。 堂々とした立ち姿はあたかも演説でもするかのように、いや、それは真実演説だったのだろう。 理解の追い付かないねねね達に構うこともなく、漆黒の先導者は腕を掲げ首を回す。 動きに迷いはなく、矢継ぎ早に飛ばされた声は高らかだった。 「螺旋王が恐れた敵の名こそアンチ=スパイラルッ!あらゆる多元宇宙に住まう全ての螺旋力を持つ者たちの監視者っ! そう、監視だ。奴等は我々の持つ螺旋力を恐れ、警戒している。 お前達も戦いの中で緑色の光を目にしたことはあるだろう……?それによって危機を脱する力を得たこともあるはずだ。 それだよ。その力こそが螺旋力。緑の光は人間に刻まれた二重螺旋の輝きに他ならない。 そもそも、アンチ=スパイラルに対抗しうる程の螺旋力保持者を生み出すことこそがこの実験の、そして螺旋王の悲願だったのだ」 アンチ=スパイラル。悲願。監視。 突き付けられる真実は一つ一つが鉛のように重く、真偽を計る暇もない。 これこそがゼロの仮面の本分と言うかのように、舞台劇のように整った弁舌は振る舞われ続けた。 「奴はそれを『真なる螺旋力』と呼んだ。 だが実際にそれを発現させる者は一向に現れず、焦りと恐怖に駆られたロージェノムは敵のほんの些細な挑発を決起に尻尾を巻いて逃げた…… くく、我々にとってはいい迷惑という他ないな」 「ちょっと待てそれじゃあ……!」 叩きつけられる情報の奔流に溺れそうになって、ねねねは二の句も考えずに声を発した。 何か重大な閃きがあるような気がするのだが言葉にならない。それが焦りとなって顔に汗を浮かべる。 混乱に駆られ右を見た。必死で追い付こうとしている舞衣と、単純に大声に慣れていないのか恐怖に耐える表情のゆたかが居た。 左を見る。苦虫を噛み潰したような顔で、それでもしっかりと立つスパイクが居た。 さらにその後方。ギルガメッシュは。 ──ギルガメッシュはどこに居る? ねねねの言葉は無視された。 「かくして実験は放棄された……しかしそれは決して我々の解放を意味する訳ではない! 役目を終えたモルモットはそのまま死ぬまで捨て置かれるだけだ。野に返してやろうなどと考える物好きはいない……」 玉座に身を沈め頭を垂れる。いかにもな悲しみの表現さえ、大袈裟と感じる余裕はもうない。 ざっとした理解でも現状の窮境は知れる。これが罠でなく全て真実だとすれば、正に万事休すだ。 が、陰鬱に沈み行くかと思われた男はU字を描くように勢いを戻し、再び立ち上がった。 「だからと言って座して死を待てと言うのか!?答えは断じて否!我々は愚かな獣ではない、知性と誇りをもった存在だ! だからこそ選んだのさ、我々自身の手によるアンチ=スパイラルの降臨をな!」 「な……!」 そうして伝えられたのは、凄まじい劇薬の存在だった。 「真なる螺旋力覚醒者を餌にアンチ=スパイラルを召喚し、多元宇宙を渡る技術を獲得する。それこそが我々に残された最後の手段だ」 一転して落ち着いた声音で告げられるが、返す言葉はない。 理解は、理解はできていない。天才作家と言われても、そこまでねねねの頭は良くない。 それでも頭の芯で確かに捉えた真実もあった。 こいつらは。敵を。 「君達も知っての通りヴィラルによって覚醒は果たされた。あの緑に混じる桃色の光こそアンチ=スパイラルをさそう誘蛾灯……だが、肝心の降臨はまだ果たされていない」 螺旋王ロージェノムさえ恐れた敵を、自分達の手で呼び込もうとしている。 「必要なのさ……更なる試練が」 ねねねは反射的に顔を上げた。今の発言は明らかにこれまでと雰囲気が違う。 一方的に投げつけられるだけだった言葉に、何か邪悪な色が混じった気がする。 一作家に過ぎないねねねの第六感は、果たして真実だった。 「覚醒者の力を!驚異を示すことがアンチ=スパイラルを呼び込む唯一の方法だ!一人でも多くの覚醒者の存在が、我々の生存確率を高める!」 「やばいな……!」 直感をいち早く行動に移すことができたのはたのは、やはりスパイクだ。素早く左右を確認し油断なく銃を構える。 ねねねはと言えば残る二人に注意を、それも曖昧な言葉で呼び掛けるくらいしかできない。不安気にこちらを見てくる視線を笑い飛ばせないのがもどかしい。 ルルーシュは宣言した。ねねね達を、言葉でもって蹂躙すると言うように。 「奮起せよ諸君!!」 ルルーシュが両手を大きく広げた。込められた意志の強さの、言葉だけでない全身での表現だ。 翼のように舞った両手に押されたマントが大きくたなびいて、中に隠された細い肢体を露にする。 「極限状態における感情の昂りこそが!真の螺旋力を得るための鍵となる!!」 その姿はいつかの未来、ルルーシュという少年が合衆国の設立を宣言したときと同じ。 変わらぬ誇りと覚悟を持って、ゼロの両手が堂々と力強く天へと突き上げられる。 「さぁ今こそ現れよ、最後にして最強の刺客!ニコラス・D・ウルフウ……!」 突き上げられた両腕の付け根、そこにあったゼロの仮面が中身である人物の脳髄ごとぱぁんと軽快な音を立てて弾けた。 呆然とするねねね達の耳に、かつかつと薄暗い無機質な床に響く足音が届く。 「……恥ずかしい真似は止めてくれへんか、にーちゃん」 暗がりから届けられる低い男の声。ねねねは聞き覚えがない。 ただ、耐えるように前を向いていた。 「出戻った死人はあんたで最後かよ……?」 スパイクは知っているようだ。冷静なようで、声に緊張が見られる。 異様に巨大な十字架。今しがた放たれたばかりの大型の銃。男の姿が露になる。 人生とは絶え間なく連続した問題集と同じだ。 揃って複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まである。 「ニコラス・D・ウルフウッド……!」 ねねね達の世界は、そういう風にできている。 ◇ ひい、ふう、みい、よ。生き残ったのは四人かい。 あんときのモジャモジャが一人、いつやったか落ち込んだ顔しとった女が一人、あとは知らん。最後にしては締まりのない面子や。 茶番なんは、今に始まったことやないけどな。 まぁ、ええわ。 始めよか。 ◇ 【スタンピード】 暴走。あるいはカウボーイに追い回された家畜がパニックを起こす現象。 ◇ デザートイーグルの弾丸が駆け抜ける爆発的な気配を背中に感じ、間一髪玉座の影に滑りこんだスパイクは身を竦ませた。 同じように女三人が身を低くして弾道から隠れているのを確認する。蹴飛ばすように玉座の後ろに放り込んだのだがそのせいで自分が撃たれたのでは間抜けにも程がある。 いつの間にか居なくなっていたギルガメッシュのことは知らない。 「何がどうなってんのよ一体……!」 「知らねぇよ。どうやらあちらさんはやる気満々みてぇだがなっ!」 頭を抱えて伏せるねねねに答えながら、低い姿勢で ジェリコ941改を放つ。手だけを出し、当然だが片手撃ちだ。威嚇にさえなれば良い。 「いいか、絶対に顔を出すな。常に体は低くして、相手との間には何かしら遮蔽物を挟んでおく。 それから腰を低くしていつでも動けるようにしておくんだ」 僅かに顔を出した瞬間狙い撃たれた一撃に冷や汗が流れた。手短なレクチャーを即実践に移せるような超人を仲間に持った覚えはないが、できなければ高い確率で死ぬ。 「無茶言わないでってばっ!」 「む、難しいですっ……」 案の定鳴り響く銃声の間を縫って抗議が飛んできた。ゆたかはそもそもとるべき姿勢をイメージできないらしい。 「無茶くちゃなんだよ、こいつはな……!」 頬を吊り上げて笑ったのは少女達のタフさをではない、馬鹿馬鹿しいまでに不利な状況に対してだ。 今背にしている玉座を除けば後はぼんやりと光を放つ床がただ広がっているだけ。 遮るものが殆どないこの場所で銃撃戦など、ジョークにしたって誰も笑わない。話す前に自分が死ぬからだ。 「せっかく生き返ったってのに味方撃ち殺すのはどういうつもりだよ、あぁ!?」 返事はない。引き続き応戦しながら、ジェリコでは埒があかないとスパイクは荷物からイングラムM10を引っ張り出した。 ジンがまとめてくれた荷物の中にあったもので、まったく王ドロボウさまさまだ。 取り回しの利かない大型銃の弾薬が切れた頃合いを見計らい、一気に勝負を決めようと半身をさらしてイングラムを突き出す。 その瞬間に撃ち込まれたありえない量の弾丸がスパイクを穴だらけにするより先に身を隠せたのは、死んだような顔をした牧師の目が見えたからかも知れない。 「おいっ!何かさっきより激しくなってないか!?」 「あのドでかい十字架撃ち込んできやがったんだよ!バケモンだぜ、まったく……!」 申し訳程度に9mmバラベラム弾をばら蒔くが弾幕の厚みは比較にもならない。 手早くマガジンを入れ換えるが、早回しのような勢いで削られていく玉座に焦りを含んだ舌打ちが出た。 既に技術がどうの経験がどうのという世界ではない。応用の利かない場所で敵の火力が圧倒的に上回る以上、状況はとっくに終わっているのだ。 向こうがその気になればなす術なく殺されるしかない。 「答えろよ大将っ!えらく派手な紹介が耐えられなかったのかい?こっちはルルーシュに聞きたいことが山程あったんだがな!」 耳がいかれそうな弾薬の雨の中でスパイクは声を張り上げた。会話による引き延ばし、というよりは半ばやけくそだ。 当のルルーシュはと言えばあらかた血は流し終えたようで、ぐったりとした体を弾丸が舐めるに任せている。 のんきなもんだぜ、かすかに呟いて視線を戻す。 「ワイがいつあのもやしっ子を殺したっちゅうんや?」 いかにも鬱屈してますと言いたげな重苦しい声ではぐらかされ、またしてもちっと舌を打った。 「こいつの派手な演説、ありゃどこまで本当なんだぁ!」 やはり黒幕は螺旋王で今もどこかに隠れている。 そんな分かりやすいシナリオは、さすがに存在しなかった。 「残念ながら言っとったこと大体ほんまや。ま、ワイがこうしてるんがもやしっ子の言う『試練』のためかって言うと、そないに関係はないんやけどな」 それについては薄々感づいていた。 一瞬垣間見えた真っ黒なウルフウッドの瞳。前を見ている振りして過去のことしか考えていない濁った色だ。 そういう目をした奴は、大抵死んだ人間のことを考えている。 「はっ、死んじまったヴァッシュがそんなに恋しいかよ!」 半分はウルフウッドではない誰かに向けての嘲笑だ。弾倉を入れ換える短い間隔を除いて繰り出され続ける重機関銃の気違いじみた掃射は打開の糸口さえ見つけられない。 自動小銃、アサルトライフル、狙撃銃。後はせいぜいグレネード弾だが追い詰められたこの状況をひっくり返せる程扱いやすい武器ではない。 「おい、銃貸せ。一発ぶちかましてやらんと気が済まん」 だと言うのに、素人が突然おかしなことを言い出した。 「……馬鹿言うな。自分の足撃ち抜いた味方を笑うような趣味はない」 溢れ出す感情に必死で耐えようとする女の顔は、自然と荒ぶった気性を静めさせた。 本気で言ってる訳じゃないのは分かる。ただ、耐えるだけというのが性に合わない人種はいるものだ。 「作家先生の手がこんな物騒なもん振り回すためにあるとは知らなかったな」 「あたしだけ……あたしだけ何もしてないんだよ……!大きいこと言って守られるばっかりで……!我慢、できるか!」 銃声は止まない。ジリ貧なのは確実だろう。 「菫川先生……」 「悪いねゆたか、偉そうに説教までしといてさ」 ゆたかが慌てたように言葉を探し、胸の小竜が悲しげな声で泣いた。 さて、とスパイクは思う。どうしたもんかね。 今どうにか生きていられるのはウルフウッドの倦怠が動くことを止めさせているからだ。突撃でもされればそれだけで全滅する、紙のように薄い守りでしかない。 真なる螺旋力とやらに覚醒して見せれば良いのだろうか。それこそチープ極まる。 ご都合主義のブーイングに耐える自信はスパイクにはないし、吹っ切れてみるにはこれまで過ごしてきた現実は少しだけ苦過ぎた。 アニメのような現実を見せつけられもしたが、お手軽な逆転劇などそれこそ子供騙しのアニメにしか存在しない。 アニメーション。 そこでふと、自分達が銃とはまた別の絶対的な火力を持っていたことに気付く。 小さく、肩を叩かれた。 「スパイク、ここは私が」 決然として立つ舞衣の姿がそこにあった。 「……おっかないねぇ」 戦乙女と言うやつだ。スパイクとしては笑うしかない。 ◇ むせかえりそうな程に濃密な空気だった。 極度に圧縮されたそれは肺に入れた途端内側から体を焼きつくすようである。 しかも、それは精神的な疲労などが引き起こす幻覚などではない。 現実に、物理的な現象として気温が上がっているのだ。 狩りとる寸前の獲物を焦らして楽しむ肉食獣のような嗜虐的な瞳で、ウルフウッドを見下ろす灼熱の化物によって。 「武器を捨てて、投降して」 いかに砂漠の暮らしが過酷だと言っても太陽がここまで間近に迫ったことはなかった。 人間で言えば肩に当たる部位に手を付きながら、竜を呼んだ少女は精一杯の威圧を込めてウルフウッドを見下ろす。 突き付けられたのはガンメンなるロボットに乗っていたチミルフを一方的に破壊しつくした極大の火力である。 原初の炎を前に一介の人間に過ぎないウルフウッドが抗えるはずもない。 「えらいしっかりした顔になったやんか……そんなでっかい子供まで連れて」 頭のどこかでは予想していたのだと思う。当然だ、会場内を我が物顔で蹂躙する化物の姿はウルフウッドも見ている。 それを従えている少女は、ウルフウッドが直に会ったときとは見違えるくらい生の充実に満ちた張りのある姿をしていた。 やっぱ女は強いな、ウルフウッドは思う。あるいは母の強さを形にしたらこういうものになるのだろうか、と。 命を育む力強さがあれば、繰り返される地獄にも耐えることができたのかもしれない。 耐えられなかった男は中途半端な攻め手を選んだあげく、惨めにもこうして追い詰められている。 「もう一度言うわ。武器を捨てて。これ以上戦うのは止めて」 続けられた言葉は先のものと同じく冷たかった。顔を合わせたことなど向こうはとうに忘れているのかも知れない。 それとも、いつまでもぐじぐじと過去を引っ張る己が愚かなのか。 状況的に見てウルフウッドの敗北は明らかだろう。怪獣が相手では人間であるウルフウッドは白旗を振るしかない。 かくして新たな螺旋の輝きを見せることなく戦いは終了し、生けるウルフウッドは死せるヴァッシュ・ザ・スタンピードに勝利した。 「……だからなんやっちゅうねん」 そして、仮初の目標を失くしたウルフウッドから欺瞞が剥がれ落ちる。 自らが定めた条件を満たしたところで満足感など得られるはずもない。 頭蓋を叩き続けていた呪詛はもう聞こえない。聞こえない程に、その意志はウルフウッドのものと一体化している。 ヴァッシュ・ザ・スタンピードはもういない。 馬鹿みたいに大きな志の半ばで死んだ。幾つもいくつも抱いていた目標を何一つ果たせずに死んだ。 死んだ男を笑うことはできない。 意志を通すこともせず、目的もないウルフウッドは不様に生き続けている。 「嬢ちゃんはワイがこうしたらどないするんや?」 ウルフウッドはパニッシャーを構えた。それまで使っていた重機関銃ではなく、逆側の十字架の頭頂部を前に。 透き通った音を立ててロケットランチャーの砲門が開く。 「あ、あなた一体何を考えてるの……」 毅然とした表情を保っていた少女が初めて狼狽の色を見せた。 敵を殺さずに戦いを終えるには覚悟がいる。 傍で見続けたウルフウッドには、誰よりもそれが良く分かる。 「投降する気はない……っちゅうことや。どないする。ワイに殺されてくれるんか」 少女は明らかにどう対応したら良いか困っているようだった。 死ぬと分かっていて抵抗する愚か者など彼女の過ごしてきた世界にはなかったのだろう。 それでも、そういう輩はいる。掃いて捨てる程に。 誰も死なせないためにはそういう連中も相手にする必要がある。 「その辺にしとけよ。その女はヴァッシュじゃない。八つ当たりするほどガキでもないだろ」 防壁代わりの玉座からモジャモジャ頭の男が出てきた。向けられた銃に、空いた手で大口径の銃を突き付ける。 右手にパニッシャー。左手にデザートイーグル。即席の二丁拳銃が産み出した歪な三角形が、僅かな均衡を形作った。 「……やっぱ、ワイはヴァッシュ・ザ・スタンピードが嫌いや」 地獄の果てまで連れ回され、大抵はろくでもないことばかりだった。 「俺は馬鹿野郎は嫌いじゃないぜ。もっとも、アンタみたいなタイプは別だがな」 カウボーイは追い詰められた獣にそう言った。 獣には言葉がない。 そして、一瞬のスタンピードが始まった。 パニッシャーとデザートイーグルが同時に火を吹いた。 ロケットランチャーは白煙を推進力にジグザグな軌道で怪獣の肩口にいる少女へ。 銃弾は横っ飛びに転がった男を捕らえられず、逆に放たれた弾丸はウルフウッドの手から白亜の十字架を奪い取った。 問題はなかった。ロケットランチャーは阻むものもなく化物の元へと到達している。 間髪入れずに爆発が起こり閃光が少女を包み込んだ。 舞衣ちゃん、ひっくり返った声でそう叫びながら子供が玉座の後ろから飛び出した。ウルフウッドはデザートイーグルの照準をそちらに定める。 その手に鈍く重たい衝撃が走った。しかし銃弾が貫いたのは急所ではなく、痛みもまだ追い付いてこない。 男は急に飛び出した子供に気を取られ、僅かに狙いを外したようだ。 次弾が放たれる一瞬の隙に照準の修正は終わった。 撃ち出された弾丸は狙い違わず少女の小さな体を吹っ飛ばし、それと同時に化物が放った反撃の炎がウルフウッドの体を焼いた。 ◇ 人間の体が焦げる、嫌な臭いが鼻をついた。 「今度は、死なせてもらえるんやろうな……」 半身を焼かれ死に体となったウルフウッドに対し、スパイクはジェリコの銃身を向ける。 泣きたくて仕方がないのに泣き方を覚えていない、そんな顔で男は天を見つめていた。 「誰も死なせずにやろうなんて……そうそうできるもんやないで……難しすぎるっちゅうねん」 でき損ないの牧師は死の間際にそんなことを言った。散々に人を殺して回った者の言葉にしては、不思議と真剣味があった。 「俺もそう思う」 静かに同意する。 「面倒なもんに絡んでもうたで……まったく」 「ああ、そうだな」 スパイクはそこで視線を横にずらした。生き残った女達の姿がそこにある。 舞衣は何とか無事のようだ。全身ぼろぼろだが、持ち前の力で防御したらしい。もうタフという言葉ではきかない。 ねねねはまた堪えているようだ。 ウルフウッドの銃弾に曝されなかった唯一の人物のはずなのに、彼女は他の誰よりも傷付いている。 そして、ゆたかは。 ゆたかは泣いていた。幼い顔をぐにゃぐにゃに歪め、溜め込んでいたものが一挙に溢れ出たように大粒の涙を流し続けていた。 恥も外聞もない、生きている者だけが見せる心底からの涙だ。 胸に抱かれた小竜は、もう死んでいた。 命を奪ったのは胸を穿った一発の弾丸だ。蘇生処置をする余地もなかった。 飛び出したゆたかがウルフウッドの殺意に曝された瞬間、彼は飛び出していた。 白銀の小竜は自らその傷付いた羽をはばたかせ、身代わりとなって主の命を繋いだのである。 「悪運の強い連中やで……」 自嘲気味に戦果を笑うウルフウッドをいや、とスパイクは否定した。 「死んだ人間にしてやれることはない。同じように、死んだ人間ができることなんてのもないんだ。 仮に俺達を皆殺しにできたとしても、お前はそうやって惨めに笑ってただろうさ」 「言ってくれるで……好きで死人やってた訳……ちゃうっちゅうねん」 沈黙の中に、ゆたかが泣く声だけが響いた。 生きている男は、死んだ男の声を聞く。 「なぁ……分かるか……二度目の生っちゅうもんが……地獄やった気分が」 「……あぁ、分からんでもない」 あっさりとしたスパイクの肯定をどう受け取ったのか知らないが、特に反応もせずにウルフウッドは続けた。 「最悪、やろ……?」 「いや」 闇を照らすように火花が一つだけ散り、ウルフウッドの体が揺れた。 「泥ん中から這い上がる気があるなら――そういうのも悪くない」 ◇ 皆思っていた。 もっと自分に力があれば、と。 自分がもっとしっかりしていれば悲劇は防げたのではないかと嘆いていた。 涙とともに出されるそれらは意味のない仮定だ。逆風ばかりの現実に対し何の力も持たず、事実は覆らない。 もっとこうだったらとか、仮にああだったらとか、努力もせずに語られるそれらは怠惰と同義だけれど。 ねねねは思った。本当に悲しいときくらいはそれが許されてもいいんじゃないだろうか。 胸の中でゆたかが泣いている。 「ごめんな、あたしがもっとちゃんと守ってれば……」 小柄な体を抱く両腕に力を込める。今にも折れそうな細く柔らかい感触が伝わってきた。 「私が、迂闊だったんです……」 舞衣が言った。暗い。虚ろだ。 ああもう、皆が皆自分が悪いの自分のせいだのと。そんなことを言っても何も前進しないのに。 うじうじするのは好きじゃないのに。 足が、進まない。 「守られるばっかりってのは辛いよな……」 ゆたかの頭に手を置く。抵抗はない。 自分も誰かにこうして欲しいのだろうか。認めたくなかった。 「辛い、です」 嗚咽に紛れて潰れそうになった、か細い声だ。 ゆたかの体はとても小さい。 「それでも、生きていかないといけないんだと、思い、ます」 ねねねは自分が落ち窪んだ泥のような目をしていることを自覚した。 ゆたかの言葉は正しい。そして感動的だ。 なのに言った本人も聞かされたねねね達もちっとも楽にはならず、汗と泥と血で汚れた体はとても汚い。 正しい言葉は正しいだけで優しくはなく。傷だらけの心に冷たくのしかかった。 それでも。 「そうだな」 肯定するのだ。意地というものがある。責任というのもある。 どれだけ醜くなっても、恥をさらしても。 生きてるんだと笑ってやれるしぶとさが必要なのだ。 ねねねはゆたかを立たせてやった。多少ふらついたのを横から舞衣が支える。 「行こう。もうちょっとだ」 はい、と二人は答え、ねねねは声を出して笑った。 顔の筋肉を歪めただけの、ひきつった、少し滑稽な笑みだった。 「これからどうすんの」 いつの間にか見守るように背中に立っていたスパイクにねねねは押し殺した声で聞いた。答えようがないのか、返事はない。 右も左も分からない場所で、案内人が務まりそうな者は皆死んだ。 諦めようとする者がいないのは唯一の救いか。絶望に変わらないといいけど。 ギルガメッシュはと聞いた。さぁねぇ、と軽い調子で返された。 「ルルーシュには聞きたいこともあったんだ。言いたいことだけ言って、死ぬなんてさ……」 語尾が震えてしまった。スパイクが話題の主に視線を向けたのが気遣いのように感じられて少しだけ悔しい。 ねねねも同じ方向を見る。さすがに直視はできないがそれでも遺体の悲惨さは知れた。 物言わぬ身となったルルーシュの細長い体は無慈悲な銃弾の雨に曝され、上質の素材で作られた衣装から皮膚やその更に奥が露出している。 自業自得だと言ってしまえるほど割り切った思考はできない。 頭部は大半が弾け飛んだせいで、末期の表情を知ることもできなかった。 こいつは自分が死んだことを理解できたのだろうか。分からない。 かすかに飛散した毛髪をいくら見ても答えは返ってこなかった。 しかし。 「何だ……?」 妙なものを見つけたと言うように、スパイクが呟いた。 時系列順に読む Back HAPPY END(18) Next HAPPY END(20) 投下順に読む Back HAPPY END(18) Next HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ヴィラル 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) シャマル 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 菫川ねねね 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ジン 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) カミナ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 東方不敗 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) チミルフ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 不動のグアーム 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(20) 285 HAPPY END(18) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(20)
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HAPPY END(20)◆ANI2to4ndE ◇ 愉快だ。 どうしようもなく愉快だった。 まるで、あの山小屋の再現だ。 問題は全てクリアされ、意図した通りに事は動き出す。 笑いが止まらなくなりそうだ。 さぁ。 最後の仕上げを、始めようか。 「では交渉に入らせてもらおう、アンチ=スパイラル――」 ◇ 違和感の正体は分かってみれば簡単だ。髪の色が違う。 「どういうことよ偽者って!」 ルルーシュの髪は間違えようのない黒一色。だがここで寝っ転がる男はそうじゃない。 「どうもこうもあるか。背格好は上手く似せてあるがこいつは別人だ。ルルーシュじゃない」 ねねねが、舞衣が、ゆたかが、それぞれに信じられないという顔をしている。言い様のない不安がそこに共通していた。 「じゃ、じゃあ?」 事実を突き合せてみれば答えは簡単だ。どれだけ不安に駆られようと、続けられるべき言葉は一つしかない。 「どっかで生きてるんだろうよ。ガキがナマやって、こっちまで火傷しなきゃいいんだがな」 ◇ ルルーシュ・ランペルージは制服の襟を直すと、のっぺりと立つ人型の影へと向き直った。 例えば至上の音楽を邪魔する不協和音に人としての意思と形を与えたらこのようなものになるのではないだろうか。 確かに目の前にいるのに、一瞬後には別の場所から現れる妄想を抱かせる不安定な存在感。 人の形を馬鹿にするように一定の振れ幅でぶれる茫漠とした輪郭。 実写映画に混じったアニメキャラクターを見るような強烈な違和感。 口元に走った不細工な切れ込みは、あかんべをする子供にも見える。 (なるほど、文字通り次元が違うという訳か……) ルルーシュは一人思う。 玉座の間ではない。少し離れた所に隠れるように設えられた、名もない殺風景な部屋である。 さっきまで稼動していた転送装置の他には特筆すべきものもない。そもそもが急ごしらえの部屋であるらしかった。 決戦の場として適当かどうかは、まぁそれぞれの判断だろう。 シトマンドラにかけたギアスは有効に機能したようだ。 『ゼロとして振る舞え。貴様が見た、見続けてきたゼロとしてな──』 限界を越えた恐怖の安定剤としてルルーシュへの盲目的な忠誠に走った愚かな畜生だ。隙など、探すまでもない。 最後の瞬間に騙されたことに気づいたような表情を見せた気もするが、知ったことではない。 今はただ、時間を稼ぎこうしてアンチ=スパイラルに接触する機会を与えてくれたことに心から礼を言おう。 (君は餌としては十分に優秀だったようだ。なぁ、ヴィラル) 足元に転がしてある男にルルーシュは心中で笑いかけた。それこそぼろ雑巾のような汚らしい姿に、ルルーシュは愉悦を抑えきれない。 回収に成功したのはフォーグラーの崩落寸前、正に間一髪のタイミングだった。 それ以降であればヴィラルは死に、崩壊する会場に回収装置も機能を失っていただろう。 半開きになった口がだらしない。いやいや、所詮獣に節度を求めるのが酷なのか。 重ねて言おう。親友の仇のどん底に落ちた惨状を見るのがルルーシュには楽しくてたまらない。 ヴィラルは気絶しているのかピクリとも動かない。瀕死の重傷のはずだが、容態は奇妙に安定していた。 死体同然でも天元突破を果たしたという事実は残っている。それがあれば十分だ。 むしろ、ルルーシュにとっては利用価値を保ったまま嗜虐心を満たせる今の状態こそがベストと言えた。 「既にお見通しかも知れないが要求を伝える。使用可能かつ安全に多元世界を移動する術を我々に与えること、以上だ。 見返りとしてこちらからは天元突破者であるこの獣人ヴィラルを差し出そう」 アンチ=スパイラルは音もなく現れた。ふらりと、ルルーシュが具体的な召喚方法に頭を悩ませるより早くだ。 それはつまり、限りなく死者に近い状態の今のヴィラルでも交渉のためのカードになり得ることを示している。 間違いない。アンチ=スパイラルは確かに螺旋力を恐れている。1パーセントの誤差に拘る科学者のように過敏に、鋭敏にだ。 「どうした。悪い条件ではないと思うが?」 脈ありと見てルルーシュは畳み掛ける。 目と思われる器官は確認できるが相手は全身黒一色のぼうっとした存在だ。表情を読むこともままならないのがもどかしい。 相手の出方を見、一つ一つの行動から思考を読み取ろうと具に観察する。 あの目にギアスは通じるのだろうかと、益体もないことを思った。 『無意味だ』 返答は一言だった。機械処理された音声のような多少の違和感はあったが、深みのある低音は予想外に聞き取り易かった。 まさか直球の否定が返ってくるとは思わず、ルルーシュは僅かに鼻白む。 「無意味……?何が無意味だと言うのだ」 焦るには早い。単純な否定のニュアンスに込められた意図を読み取ろうと言葉を重ねる。 返答は尚も淡々としていた。 『そのままの意味だよ。我々はもはや、君の言う天元突破者を脅威とは認識していない』 ゴクリという大きな音はどうやら自分の喉から発せられたもののようだった。 鼓膜の震えを脳が認識し、その内容を理解するまでにしばしの空白が生まれる。 なに、と渇いた音を洩らした。 次の瞬間、ルルーシュの思考を遮るように背後の無個性な扉が荒々しい音を立てて開いた。 「ふむ。いらぬ手間をかけさせおって」 突如現れた英雄王の深紅の瞳は、ひどくつまらなさそうな色をしていた。 蓄積されているはずの疲労など微塵も感じさせぬ王気にルルーシュは苦々しさを隠しきれない。 所詮シトマンドラ程度の小物に足留めが適う相手ではなかったのだ。降って湧いた災厄に虫唾が走る。 しかし、ギルガメッシュはルルーシュなどまるで無視するようにずけずけと歩を進めると、さも当然とばかりに交渉の席上に割って入った。 「答えよ。これが螺旋王の恐れた外敵か?」 ルルーシュの方を見もしない。一方的な質問だった。 声音に感情の色はない。 「……その通りだ。どこまでお見通しかは知らないが目の前にいるこの存在こそがアンチ=スパイラルだよ、ギルガメッシュ」 威圧感が肌を刺し汗を滲ませる。この感覚に、良い思い出などまるでない。 支離滅裂なようでいてギルガメッシュの行動パターンは明快かつ単純。傲岸不遜な振る舞いへの対処は多少の心得もある。 理由はどうあれこちらと直接敵対する気もないようだ。あとは余計な刺激を与えなければ問題ない。 そのはずだ。 ギルガメッシュはふむと一声呟き。 「つまらぬ茶番を考えたものよな」 そう言ったときだけ蔑むような視線をちらりと寄越してきた。 ルルーシュはただ押し黙るしかない。感情に任せて下らぬ口論などをしている場合ではなかった。 『一度は解き放たれた二重螺旋の鎖に再び囚われる古の王か。憐れだな。この世全ての悪とはよく言ったものだよ』 アンチ=スパイラルは気分を害した風もなく速やかに対話を続ける。 言葉通りの憐憫とも、挑発ともとれる言葉にギルガメッシュはただ愉快そうに笑った。 「我を憐れむだと?貴様のような醜悪な存在がか? ククク……滑稽も度を過ぎれば悲劇よな。ならば問おう、貴様は一体何だというのだ?」 さもおかしいと言うように手で顔を覆い、もう片方の指をアンチ=スパイラルに突き付ける。 気紛れな暴君が何をきっかけに爆発するか、ルルーシュは気が気ではなかった。 割って入る、というのも上手くない。 『螺旋の本能に抗えぬ者達を統制しこの宇宙をスパイラル・ネメシスから守るのが我々の役目さ。君が醜悪と言ったこの姿こそ、我々の覚悟の表れだよ』 肉体の成長は螺旋力を増大させる、映像資料の中にも似たような文言はあった。 そのことを頭の隅で思い出しつつ、ルルーシュはアンチ=スパイラルが初めて垣間見せた感情のようなものを脳裏に刻み込んだ。 汗に濡れた手が、力強く握られていた。 「ほう、貴様も守護者を気取るか。スパイラル・ネメシスとは何だ?」 アンチ=スパイラルから感情を引き出したことなど、ギルガメッシュにとってはどうでも良いことのようだった。 ルルーシュの苦慮をよそに、問答は続けられる。 『行き過ぎた螺旋力の果てに待つものがスパイラル・ネメシスだよ。 留まるところを知らぬ欲望は肥大化し、やがて宇宙そのものをも飲み込んでしまう。銀河の終焉だ。 何なら見てみるかね過剰に進化した螺旋力の行き着く先を?』 誘惑するようにアンチ=スパイラルが手を伸ばした。 いらん、とギルガメッシュはにべもなく切り捨てる。 下らぬ、と。 そして言った。 「分からんなぁ。真に『世界』とやらを滅ぼす程の力、なぜ我が手に納めようとせぬ?」 それは、この世の全てを手に入れた王の、心の底からの疑問だった。 「脆きものはより強大な力によって滅ぼされるが世の必定よ。惰弱な世界などに構わず好きに使えば良いではないか。 力こそ、王として君臨する者の象徴なのだぞ?それを振りかざすでもなく誇るでもなく、よりにもよって後生大事に抱え込もうとは。 ハッ!まったく女々しいことよな。 そもそも、そんな程度の力で滅びる世界なら、とっとと滅ぼしてしまえば良いのだ!我が治める世界には無用の長物よ。 疾く滅び行き、せめて一瞬でも輝いて見せるが王に対する礼儀であろう」 晩御飯はハンバーグって言ったのにどうしてスパゲティが出てくるのと怒る子供のような、どうしようもない自分本位の怒りだった。 あまりの身勝手な振る舞いにルルーシュの息が止まる。やめろと叫びたい気持ちを必死になってこらえた。 人類最古の我が儘をぶつけられアンチ=スパイラルは果たしてどうするのか。 ルルーシュの杞憂をよそにアンチ=スパイラルは何も言わなかった。平坦な表情は能面のようにこちらの心象を写しとるだけで、中に潜む感情はもう見えない。 まさか、呆気にとられて何も言えない、という訳でもないだろうが。 「此度の宴、裏を覗けば所詮は負け犬と臆病者の見るにも耐えぬじゃれあいであったか。 なるほどな、底が知れたのと同時に興も失せたわ。小僧、後は好きにして良いぞ」 ギルガメッシュはルルーシュに向けてそれだけ言うとぷいとそっぽを向き、手近な壁にもたれかかると、腕を組み目を閉じた。 それきり、ぴくりとも動かない。本当に、一切の興味を失くしたらしかった。 『最古の王、か。正に螺旋の本能の権化のような存在だよ君は。ギルガメッシュ』 もう耳を貸す価値もないと言うのか、アンチ=スパイラルの正負の感情入り交じった声にもギルガメッシュは眠るように無反応である。 本当に寝ているのかも知れない。 真実は知れないが、数秒程の間を空けてぱちりと開かれた目は、ひどく気だるだった。 「貴様らも寄り道は程ほどにせよ。後の始末が滞っては幕引きもままならぬ」 「あいにくこっちはアンタ程手際が良くないんでな、ギルガメッシュ」 言葉は明らかにルルーシュに対してのものではなく、そのことを認識すると同時に活動を再開した思考が警鐘を鳴らす。 ルルーシュはそのときになって初めて自分が呼吸を忘れていたことに気付いた。 浮かんだ汗を拭う暇もない。 「よぉ、死んだり生きたり忙しいな。お前は本物か?ルルーシュ・ランペルージ」 振り向いた先では、四人分の瞳が思い思いの感情を浮かべてルルーシュを見つめていた。 ◇ (ちぃ……所詮は妄執に囚われた役立たずに過ぎなかったか、ウルフウッド……!) スパイク・スピーゲル。 菫川ねねね。 鴇羽舞衣。 小早川ゆたか。 会場を脱出した者達は誰一人欠けておらず、かと言って試練が成功したようにも見えない。 「さて……こいつはどういう状況だ?」 ルルーシュと、足元で未だ眠りこけるヴィラルと、その奥にゆらゆらと佇むアンチ=スパイラルとを大体順番に見渡しながら、スパイクが言った。 「たわけたことを。事情はあの木偶が語っておったであろうが。宴など、とうの昔に終わっていたのだ」 天元突破に満たない参加者との接触は多元宇宙の移動技術を手に入れてからのつもりだった。 絶対的優位が確立されるか、そうでなければ接触もせずに単身帰還するかだ。既に無意味になったプランだが。 「螺旋王が逃げたってのは……どうやら本当らしいな」 「その通りだ。そして俺は今彼、と言って良いのかは分からんが、アンチ=スパイラルとの交渉中でね。少し静かにしてもらえると助かる」 値踏みするようなスパイクの視線。憎まれようと嫌われようと構わない。 今はとにかく、ルルーシュに対する物理的な危害と、これ以上の交渉への干渉を阻止することが先決だった。 「俺に言いたいことも色々あるだろうが、他の者も同様にして欲しい。 ああ、俺が憎くてたまらないと言うのなら構わない、手に取った銃で俺を撃つが良い。抵抗はしないさ。 但し、その場合は君達だけでこの場を切り抜けてもらう必要があるがな」 最後にスマイルも忘れない。アンチ=スパイラルへの不安げな感情、ルルーシュに対する敵意とも取れる微妙な表情と、他の者も反応は様々だ。 最低だよおまえ、と唸るような憎々しげな声でねねねが言った。 ルルーシュにとって、それはこちらの条件を呑んだということ意外の意味を持たない。 「……もう、騙しはなしで頼む」 スパイクが身を引き、条件は全てクリアされた。 安堵の溜息が出そうになったが何とか押し留める。 複数の聴衆が見つめるなか、ルルーシュは一歩前に進み出た。 「さて、バタバタしてしまってすまない。こちらの事情で時間を取ってしまったことには謝罪しよう」 気を取り直すように首元のホックを外し呼吸を楽にした。 英雄王に掻き乱された頭は既に落ち着きを取り戻している。仕切り直しだった。 依然、問題はない。 舞台の主導権は再びルルーシュの手に戻った。 ◇ 「改めて説明願おう。天元突破者に価値がないとはどういうことだ?」 アンチ=スパイラルは笑った。 いや、真実それが笑みなのかは分からない。ただ、肩をすくめ目を細めたようにも見える形態の変化が、人間が可笑しなときにする動作に似ていたというだけだ。 しかし、少なくともそのときだけは、アンチ=スパイラルがこの会話を楽しんでいるように見えた。 『そもそもの前提が間違っているのだよ。意味を持たない螺旋の戦士たちよ。 お前達は我々が天元突破者を恐れていると考えているようだが、ではその根拠はなんだ?』 聞かれてもとっさに回答が出てこない。 1足す1は何故2なのだと聞かれているようなもので、自明すぎることは反って言葉にし難い。 「根拠だと?自分で言っていただろう。強力過ぎる螺旋力はスパイラル・ネメシスの引き金に成り得ると。お前達はそれを阻止するんじゃなかったのか」 くくく、と。 アンチ=スパイラルは今度こそ確かに声に出して笑った。 『少し回りくどかったかも知れないな。では質問を変えよう。そもそも天元突破者とは一体何だ?』 「それは……表現を変えるなら桁違いに強大な螺旋力とでも言うものだろう。 ロージェノムが渇望し、世界すら創造可能と言われた力だ。もっともどこまで本当かは分からんがな。 それを確かめる意味でもロージェノムは自らが生み出した世界からの脱出を望んでいたんじゃないのか」 現にヴィラルが覚醒を果たした時点で会場内の機能は崩壊を早めた。 その上桃色の光という視覚的にも顕著な違いが見られたためにルルーシュ達は天元突破は成ったと考えたのだ。 天元突破。真なる螺旋力。 ロージェノムの提唱した概念に、新たな名を与えたのはルルーシュだ。 『違うな。間違っているよ』 アンチ=スパイラルが返したのは否定だった。 気のせいか会話の運び方が普段ルルーシュが取っている手法に似ているように思える。 真似をされているようで、少し気分が悪かった。 『螺旋王が求めたものはもう少し条件が限定される。すなわち、我々が干渉不可能な世界を創造可能な螺旋力、だよ。 戦うための力などではない。千年の倦怠に沈んだ男が、そんな前向きな思想を抱くものか。 逃げ、隠れ、息を潜めて生きていくための、かつて名を馳せた螺旋の戦士の発想とも思えぬ卑小な箱庭だ。 そんな都合の良いものなど、ありはしないよ。 いかにあらゆる道理をねじ曲げる螺旋の力と言えど、その根本にあるのはより高みを目指そうとする上昇の力だ。 地に這いつくばり、自ら穴蔵に閉じ籠ろうとするのでは、螺旋力も手を貸しはせんだろうさ』 これだけ言えばもう分かるだろうと、アンチ=スパイラルは最後にそう締め括った。 吐き捨てるような声にほんの僅か含まれていた寂しげな感情さえ、ルルーシュは気付くことができない。 己の手が震えていることを知りながら、対処方を思い出すこともできなくなっていた。 ああ、絶望とはこういうものなのかと今更ながらに思う。 くどくどと説明されるまでもない。ルルーシュにももう分かった。 つまり。 ロージェノムの求めた真なる螺旋力とは。 ルルーシュが目指した天元突破とは。 『考えてみれば実に弱者に都合の良い世界だな。仇敵の脅威に怯えることはなく、それでいて自分達の繁栄は約束されている。 いかにも敗残兵らしい、夢想的で空想に満ちた理想郷だよ』 挫折の海に沈んだ一人の男が抱いた憐れな妄想に過ぎなかったというのか。 (どこまで生き恥をさらすつもりだ、ロージェノムゥゥゥ……!?) 今にして思えばロージェノムの用意した世界は何から何まで滅茶苦茶だ。 パワーバランスを無視して溢れ返る機動兵器、用途などまるで考えちゃいない雑多な至急品の山。 多ければ良かろう、選択肢が増えれば可能性も高まろうという愚かな思考停止が生み出した浅慮の塊だ。 資料に再度あたって気付いたことだが、あの会場はブルーアース号、大怪球フォーグラーといった道具を螺旋力と共に用いれば脱出できるように作られていた。 だが実際はどうだ。規格外の戦力では均衡など生まれるはずもなく、あろうことか会場は力技で崩壊。枷となるべき首輪は自壊する始末だ。 (敢えて言うぞロージェノム、お前の世界は粗悪な模造品に過ぎん……! 貴様は優秀な科学者でも何でもない。妄想にすがり、偶然舞い込んだ『前例』の輝きに目を曇らせた、ただの大馬鹿者だ!) それに踊らされた結果がこれだ。 交渉のためのカードは失効してしまった。そもそもカードですらなかった。 進退窮まったピエロはこうして水際に追い詰められている。 「俺たちは螺旋王の一人相撲に巻き込まれたって訳かよ。冗談にしちゃ気が利きすぎだぜ、まったく」 だらりとした姿勢で腰掛けていたスパイクが誰に言うでもなく呟いた。 虚空に吸い込まれていく言葉にルルーシュも全力で同意したい。 『文句の一つも、とでも言いたげ様子だな。何なら会ってみることもできるが?』 アンチ=スパイラルはそんなことを言った。絶望に沈むルルーシュ達に慈悲でもくれようと言うのか。 今なら何となく表情も読めそう気がした。あれは意地の悪い笑顔、というやつだ。 誰からも答えがなかったにも関わらずアンチ=スパイラルは勝手に話を続けた。どうやら最初から返事など期待していなかったらしい。 『フィナーレに主催が不在では収まりが悪かろう。招いてあるよ。これがかつての螺旋王、ロージェノムの現在の姿だ──』 ◇ 肌を撫ぜる湿っぽい風に生臭さが混じり出したので堪らず口を覆った。 少し吸っただけで背骨の下の方にざわざわとした嫌な感じがする。悪い予感、というようなものではない。単純に衛生環境が悪すぎるのだ。 必要とあらば足を運びもするが、いわゆる貧民窟と呼ばれる悪所の空気はそう簡単に慣れるものではない。 もっともそんな場所に追い込んだのは自分達なのだが、と手でぱたぱたと顔を扇ぎながら遠坂凛は思った。 (……遅いね、凛) (あら、もう待ちくたびれちゃったの?ここは任せてくれって言われたんだもの、邪魔するのは野暮ってものよ) とは言えフェイトが心配するのも分からなくはなかった。今回の追撃の要となった老人が単身ロージェノムの潜む屋根の外れかけた小汚い小屋に入ってからもう大分経つ。 一体一で話がしたいという強固な意志を尊重した形で、二人は二箇所からの見張りに徹しているのだがこうなると最悪の可能性も頭をよぎった。 心身ともに衰弱しきっているだろうロージェノムにどれ程抵抗する気があるかは不明だが、全くの無音というものはそれだけで悪い想像をかき立てる。 あと五分、凛がそう念話を飛ばそうとした瞬間に、見計らったかのようなタイミングで粗末な木の扉が軋みをあげた。 「無事でしたか、良かった……」 「ロージェノムは?」 出てきたのは老人だけだった。落ち着いた足取りに安心しながら凛とフェイトが駆け寄る。 成果を問われた老人は目を細め、小屋の中に目を遣りながら答えた。 「おぉ心配かけちまったか。ロージェノムは……」 老人はそこで言葉を切ると噛み締めるように天を仰いだ。 そうして続けられた声は小屋の中に溶けていくように、あるいはずっと昔に置いてきた何かに語りかけるように聞こえた。 「ロージェノムなんて奴ぁもういなかった。ここにいたのはただの――」 ◇ 見るも無惨な姿だった。それでいて、情けなくなるような貧相さがあった。 「うっ……!」 誰かが嗚咽を洩らした。無理もない。 ルルーシュも一時期より線の細さはましになったとは言え、直視すれば胃のむかつきは抑えらそうになかった。 アンチ=スパイラルが突きだした首だけのロージェノムは、積み重なった絶望を一層一層丁寧に塗り込んだように、醜怪で、陰惨で、そしてとても小さかった。 『もう何度目になるだろうな。己が欲望に溺れる螺旋生命体を、度し難いと感じるのは。 無意味に積み重ねられていく失敗に神経を磨り減らし、少しずつ精神に変調をきたしながら、まるで諦めようとしない。 発見は偶然だったが、思わず目を疑ったよ。かつての隆盛を知るものとしては、尚更ね』 せめて潔く最期を迎えさせてやるのが慈悲と言うものだろう、とアンチ=スパイラルは嘯いた。 どこまで本気か、知れたものではない。逆流しそうになる腹を手で押さえた。 ルルーシュたちの苛立ちと恐怖をよそに、アンチ=スパイラルの弁舌は留まる所を知らない。 次に語られたのは、ルルーシュ達の認識の外で行われ、関与する術もないまま終わってしまった物語だった。 『他にも、どこで嗅ぎ付けたのか我々の手下を標榜する存在もいてね。 それに対抗するような集団まで現れ、果てに両者はここから最も近いあの惑星において全面戦争をするに至った。 場所を提供したのは我々だがね。螺旋生命体の行動サンプルの足しになれば程度の気持ちだったが、結果は両者全滅という酷いものだったよ。 螺旋の輝きなど一切見られなかった。無駄死にだよ。やはり、ロージェノムの実験には何か仕掛けがあったようだな』 それはルルーシュたちとは直接の関わりを持たず、それ故反応のしようもない、アンチ=スパイラルのためだけに語られた少しだけ過去の話である。 言い終えるとアンチ=スパイラルはロージェノムヘッドを無造作にぽいと放り捨てた。 用が済んだのでもういらないと言わんばかりだ。やはり最初から見せるためだけに持ってきたらしい。 首はべしゃりと音を立て、ルルーシュの背後で誰かが震える気配がした。 『戦闘の影響であの星は軸が少々傾いてしまったが、それだけだ。元々住んでいた螺旋生命体にはいささか住みづらくなるだろうがね』 良いだけ喋っていたアンチ=スパイラルはそこでん、とでも言うような仕種で首を傾げた。 どうやら、ようやく自分ばかりが喋っていることに気付いたらしい。 『我々としたことが少しばかり悪趣味が過ぎたようだ。用も済んだことだしそろそろ去るとするよ。 君たちは、まぁ放置しても問題ない程度の無価値な螺旋生命体だ。我々も興味はないので、好きにすると良い。』 今更過ぎる反省の言葉だ。ルルーシュたちのことを歯牙にもかけていないことがありありと伝わってくる。 呻くように言った。沈みきった表情になっているのが自分で分かった。 「……一つだけ聞かせろ。 天元突破者に価値が無いというのなら、何のために俺の前に現れた。 単に絶望を与えるためだけにこんな手の込んだ真似をしたというのなら、お前達は本物の悪趣味だぞ」 こんな、のところでちらりとロージェノムの首に目をやる。かつての威風堂々とした佇まいは、もうそこには見られない。 どれだけの絶望を突きつけられればこんな顔ができるのだろう。 今のような状況でも、まだ足りないと言うのだろうか。 このままでは。帰ることなど。 『もちろんそれだけじゃないさ。そこに眠っている獣人はありがたく頂いていく。 価値は無いと言ったがそれは我々の脅威足り得ないという意味だ。 螺旋力発現の一つのサンプルとして見れば、いくら言葉を尽くしても足りない程に興味深い存在だよ、それは』 ふと見れば足元に転がしてあったヴィラルはいつの間にか居なくなっていた。 視線を上げるとアンチ=スパイラルが肩に担ぐようにしている。そのように人間臭い仕草が必要とも思えないが。 言った通り、本当に持ち帰るつもりらしい。 『実を言えば我々も最初はロージェノムの提唱したような螺旋力が発現したのかと思っていたのだよ。 緑に混じった桃色の輝き、あらゆる多元世界を含めても初めて目にするものでね。発現に至った道程もイレギュラーの塊だ』 去ると言っておきながらアンチ=スパイラルは尚も言葉を重ねた。傍目にも分かる知的興奮に今更ながら人間を感じる。 改造を受けた獣人。 発現するはずのない螺旋力。 人ですらない魔術プログラム。 触媒と思われる『愛』なるおもばゆい感情。 魅力的な素材、ではあるのだろう。 『もっとも我々の仕掛けた多元宇宙迷宮で甘い夢に浸っているようでは、その力も知れているがね。 とは言え穴があっては台無しだ。じっくり観察させてもらうとするよ』 「……多元宇宙迷宮とはなんだ」 『認識すると同時に発生するのが多元宇宙だ。そこに囚われたものにすれば現実と何ら変らない。いや、まさしく現実そのものだよ。 あの金色の魔物も、肉体が先に滅びなければさぞ心地よい世界で暮らせただろうにね』 他にも多元宇宙迷宮とやらを仕掛けた相手がいるような口ぶりだった。 それはともかく、ヴィラルの死にそうで死なない奇妙なしぶとさの理由もこれで分かる。駒は最初から敵の術中にあったのだ。 一方的に弄ばれていたことに今更ながら強烈に実感し、ルルーシュは力なく崩れ落ちる。 言うまでもなく、交渉は失敗だ。相手は遊びにきたような気楽さでしかないのだから、当然だ。 アンチ=スパイラルは嫌味なくらいゆっくりとこの場を立ち去ろうとしている。 肩に担がれた獣人の虚ろな目がルルーシュの視線を空しく照り返していた。 全て仕舞いである。 帰還の目は完全に絶たれた。 「ちょっと待ちなよ、アンタ」 そう思ったルルーシュの背後で、声が上がった。 「さっきから人が黙って聞いてりゃネチネチねちねちと…… 何かに似てると思ったら、あれだ。昔あたしの本に付いた、タチの悪いクレーマー」 ねねねだった。怒りに満ちた表情で、ゆっくりとルルーシュの横を通りすぎる。 ふと見ると、終始我関せずを決め込んでいたギルガメッシュがこの時だけ目を開けていた。 「偉そうに無意味だ無価値だ並べ立てて、アンタがどんだけ凄いかなんて知らないけどさ、何様のつもり?あぁ? ロージェノムとアンタとの関係なんか知らない。やろうとしたことがどれだけ無茶苦茶だったのかも知らない。知りたくもない。でもね」 ギルガメッシュだけではない。スパイク・スピーゲルも鴇羽舞衣も小早川ゆたかも、さっきまで絶望に暮れていた者たちが一様に顔を上げ、ねねねを見ていた。 ルルーシュもまた同じく、握り締められた拳を振り上げる姿に目を奪われる。 「アンタにも、アンタ以外の誰にも、他の連中のやってきたことを否定する権利なんてないっ! あたしたちの話はあたしたちの物なんだから、あいつらの頑張りをなかったことにするなんて許さないっ! あたしがっ、あたしが死んでもそんなこと、絶対にさせない!!」 振り上げられた拳は、眼前まで迫っていたアンチ=スパイラルの顔面目掛けて、泣きたくなる程真っ直ぐに放たれ。 「外野は……とっとと、帰れ!!」 それを巻き込むように姿を消したアンチ=スパイラルによって、虚しく空を切った。 『存外に楽しかったよ。ではな、滅ぼす価値さえ持たない、異形の螺旋の戦士たちよ』 その言葉が、置き土産だった。 ◇ 「うっ……くぅ……!」 空振った拳を痛むように抱えながら、静かにねねねは倒れ込んだ。 必死の抵抗だったのだろう。手を付き、堪えようにも堪えきれない嗚咽を漏らしている。 肩が、小刻みに揺れていた。 「これで終わり、なの……?」 「……そうらしいな」 舞衣の震えた声、スパイクの平坦過ぎる声が聞こえる。 完敗だった。 「私たちって無意味、なんですか……」 価値はない、意味はない、害にしかならない。 あの存在はルルーシュ達をそのように散々に評した。まるで害虫を潰して苦しむのを楽しむように、じわじわと、露悪的にだ。 螺旋王が恐れたのもうなずける。奴らは徹底的で、そして容赦がない。 何より的確に人間を苦しめる方法を知っている。 「そんな訳ないでしょうがよ……」 ねねねの言葉にも、もう力はなかった。形だけの抵抗であるのは明らかだ。 じくじくと湿った針で心臓を刺される思いだった。 親友の早すぎる死も。妹の元に帰るという願いも。 ルルーシュが頼りとしたものは、全て否定された。 (俺のしてきたことが……スザクは無駄死にだと言うのか……!) この戦いにおいてだけではない。ルルーシュの人生全てが否定されたのと、それは同義だ。 帰還は叶わず、ルルーシュたちはこのまま朽ちていくしかないのだろう。あるいは殺戮の続きを演じでもするかだ。 しかし、ルルーシュの為したことに敵意を感じる程に余裕のある者もいない。 環境の激変したであろう惑星に降り立ち細々と暮らすという目もあった。 知り合いの居ない世界で、穴倉に閉じこもった生活。 まさに螺旋王そのものではないか。惨めだ。あまりに惨めで笑えてくる。 そんなものは生きているとは言わない。ブリタニアに人質として売られ、妹と共に日本に渡った頃の生活と一緒ではないか。 助けてくれるものなど誰も居ない。 ならばどうする。あのとき自分は何をした。 (そんなことがあってたまるかっ……!! 俺とスザクの人生を踏みにじっておきながら、それを無価値と断ずるなど! あぁそうだ。あの女の言うことは正しい。言ってくれたなアンチ=スパイラル。よりにもよって俺のやろうとしたことを否定するとは! ナナリーが静かに暮らせる世界を作ることに意味がないと言うとは……!! そんな発言の存在は……断じて許されてはならないッ!!) 妹のために。 そう。 反逆を誓ったのだ。 「違うなぁ!!間違っているぞ、アンチ=スパイラルゥ!!」 絶望が深ければ深いほど、反発しようとする力も大きくなる。 人間とは確かに度しがたい存在だった。 ◇ 気が付くとルルーシュは叫んでいた。全身全霊の限りを振り絞って、聞くものがいるかすら分からない虚空に向けて叫んだ。 「貴様が俺たちを捨て置くというのなら、俺はこの場にいる全員を殺害し、自殺する!!」 まともに相手にされる可能性など無いに等しい。 それでも言わずにはいられなかった。 「貴様はヴィラルが覚醒した能力を観察によって見定めると言ったな!!99%脅威とは成り得ないことを知りながら、敢えてだ! 矛盾じゃないのか?何故俺達に対してはそれをしない!? 何故俺たちに1%の脅威もないと、貴様らは知っているんだ?どこでその情報を得た?また多元宇宙とでも言うつもりか? 違うな。貴様が自ら執り行った実験とやらは失敗したのだろう?つまり貴様らは俺たちのようなサンプルについての知識はないということだ。 ならば俺たちが無価値であることもまた、貴様らはまだ断言することはできんはずだ!!たとえその可能性がどれだけ小さくてもなぁ!! 分からないとは言わせん!!少し話しただけで理解できたぞ、貴様らの神経質なまでの慎重さをなぁ!!」 もしかしたら、言い掛かりに等しいのかも知れない。ルルーシュの認識が見当外れの方向を向いている可能性もあった。 賭けにすら、なっていないのかも知れない。 だが、今は突くしかなかった。 奴が僅かに垣間見せた、頑迷な研究者としての側面を。 「貴様には俺たちを長期的、かつ特殊な刺激の少ない場所に移す義務がある!! もしこのまま俺たちに死なれたら、困るのはお前だ!! それとも、未だに俺たちがどれだけ貴重か理解できんか?ならば教えてやろう。 ……手がかりは貴様の言った言葉の中にある。言っていただろう?『螺旋の輝きを見せるものはいなかった』とな。 そう、あらゆる者にその可能性があると言われる螺旋力と言っても、それに目覚めぬ世界が大多数を占めている。 だが俺たちはどうだ。螺旋王の仕掛けだろうがなんだろうが、ぽんぽんと螺旋力に覚醒した。 『これだけ言えばもう分かる』だろう?この違いはなんだ?知る必要はないのか? 怖いんだろう、螺旋力が? 万が一、俺たちが巨大な螺旋力の温床となっていたらどうする?貴様を滅ぼすものの萌芽が既に生まれていたとしたらどうする? 俺たちが居なくなれば、今後生まれるかも知れんその可能性を摘み取ることもできなくなるぞ? 今お前が見せた怠慢が、めぐり巡ってお前達をまたしても打ち滅ぼすかも知れん。手痛い敗北だな。 だがそれも仕方ないな。何せ、俺たちくらい特殊なサンプルは!滅多に手に入らないんだからなぁ!?」 既に、全員の視線がルルーシュに注がれていた。 戦火の中、激しい意志とともに螺旋力を掴んだ者。 戦いに拠らず、昂る精神からその力に目覚めた者。 幾多の修羅場をくぐり抜け、未だ発現に至らぬ者。 そもそも発現の可能性すら疑わしい者。 それら全てが、ここにいる。 「答えろぉ!!アンチ=スパイラルゥゥ!?」 ルルーシュの左目に宿るギアスの刻印が、眩い光を放って輝いた。 ◇ 男は言った。マタタビを殺したのはお前か、と。 俺は肯定した。ニアという少女にギアスをかけ、間接的にマタタビが死ぬように仕向けた。 女は言った。何故清麿を殺した、と。 言い訳する気はない。生きて帰りたかっただけだ。俺がそう言うと女は辛そうに顔を背けた。 それが、二人から聞いた最後の言葉だ。 俺は一人きりになり、誰もいなくなった場所でただ天を見上げている。 脱出の鍵となった英雄王は無言のままその姿を消した。 誰より早く螺旋の輝きを身に付けた少女は自らその意識を手放し。 あろうことかギアスを自力で打ち破った女もそれに続いた。 俺はほうと深い溜め息を付く。 ひどく、疲れた。 だがまだ最後の仕上げが残っている。 そう言えばまだ自分にギアスをかけたことはなかったなと、俺はふとそんなことを思った。 走馬灯のように、これまでのことが思い返される。 スザク、C.C.、カレン、シャーリー。 顔触れは多い。だが、最後に浮かぶのはたった一人だ。 ナナリー。 俺はとんとんと肩を叩かれた。 「あの、ねねね先生達かんかんです。いつまで休憩してるんだって」 俺の心地良い回想を邪魔したのは、眠り足りないのか目に隈を残し、えらく怖い顔になった鴇羽舞衣だった。 苦笑を洩らし、俺は歩き出す。 「すまない、すぐ戻る……とは言え俺はろくに睡眠もとらせてもらってないんだがな」 やれやれ、人使いの荒いことだ。 ああそうだ。 俺は、アンチ=スパイラルを説き伏せた。 時系列順に読む Back HAPPY END(19) Next HAPPY END(21) 投下順に読む Back HAPPY END(19) Next HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ヴィラル 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) シャマル 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 菫川ねねね 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ジン 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) カミナ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 東方不敗 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) チミルフ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 不動のグアーム 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(21) 285 HAPPY END(19) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(21) 外伝 螺旋の国 -Spiral straggler- ロージェノム 285 HAPPY END(21) 284 始まりは終わりの始まり(後編) アンチ=スパイラル 285 HAPPY END(21)
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皆さん今晩は今回はPPLゲームの紹介したいと思います 今回は人気がある劇パワを紹介したいと思います ■ 大まかな説明 ・ チームを登録して6日間のリーグ戦を行います。もちろん途中参加もOKです。 ・ 登録できるチームは最大で180チームです。 ・ 日付は毎日0時に変更されます。 ・ リーグ戦では最大140試合まで行えます。 ・ チーム自体は15試合以上していれば、そのまま次のリーグ戦に進むことができます。 ・ ただし、リーグ期間中1度も試合を行わず20日以上経過すると削除されます(リーグ更新後は特に注意)。 ・ 試合は3分ごとに行えます。ただし、「シーズン終了3日前(4日目)でチームの試合数が50未満」「シーズン終了2日前(5日目)でチームの試合数が100未満」,「最終日」は1分ごとに行えます。 ・ 試合に登録するときは、選手の打順を変更できます。 ・ 投手の打順については、先発投手を15に、中継ぎ投手を20~23に、抑え投手を24にしてください。 ・ 対戦相手は連勝中のチームです。試合に勝ったチームがそのまま連勝中のチームになります。 ・ ただし、最終日のみ対戦相手はランダムです。 ・ 連勝中は投手は15~19番の間でローテーションします。 ・ 各種データランキングがあります。ランキング上位を目指して、いろんな選手を作ってください♪ ・ 毎シーズン終了するたびに、各選手に年俸を支払います。 ・ 毎シーズン終了するたびに、施設の維持費を支払います。 ・ 選手の人気が高いほど観客は多く集まります。 ・ チームの順位は「勝ち数」、同数なら→「負け数」、同数なら→「得点率-防御率」で決まります。 ■ 禁則事項 ・ チームの複数登録 ・ 当て馬行為 ・ 選手の譲渡行為。またはそれに準ずる価格での選手の取引 ・ 資金の譲渡行為。個人間での借金 ・ パワカの譲渡。またはそれに準ずる価格でのパワカの取引 (ただし、個人で行うイベントの賞品として他球団に譲渡する行為のみ認める。イベントを行う際は、BBSに一報伝えること) ・ パワカ・選手等の転売して利益を得る行為 ・ 他人のなりすまし行為 ・ 他人への暴言、またはそれに準ずる行為 ・ 詐欺行為 ・ PawaPle League・αの運営を妨げる行為、迷惑行為。 ・ PawaPle League・αの不具合を利用して利益を得る行為 PPL引退時の選手等の配布行為も禁止です。選手を獲得した球団も取り締まります。 ■ メジャーリーグの賞金・ポイント等について ・ チーム数:30チーム ・ 70勝未満のチームがマイナーリーグ降格。 ・ 勝ち数 × 700万円、負け数 × 300万円の賞金 ・ 1位⇒5億円、2位⇒4億円、3位~5位⇒3.5億円、6位~10位⇒3億円の賞金 ・ 1位⇒10pt、2位⇒8pt、3位⇒6pt、4位⇒5pt、5位⇒3pt、6位~10位⇒1ptのチームポイント進呈 ・ 各タイトル賞金1.5億円、チームポイント3pt進呈 ■ マイナーリーグの賞金・ポイント等について ・ チーム数:150チーム ・ 借金していない球団の内、順位が高いチームからメジャーから降格してくるチーム数メジャーリーグ昇格。 ・ 勝ち数 × 500万円、負け数 × 400万円の賞金 ・ 1位⇒3億円、2位・3位⇒2.5億円、4位・5位⇒2億円、6位~10位⇒1億円の賞金 ・ 1位⇒5pt、2位⇒4pt、3位~5位⇒3pt、6位~10位⇒1ptのチームポイント進呈 ・ 各タイトル賞金1億円、チームポイント2pt進呈 ・ 同一チームとの対戦回数は15試合まで。 ■ チームポイントについて ・ チームポイントを使って、いろんなことができます。 ・ 15P…球団資金+5億円。 ■ チームポイントの貯め方 ・ シーズン終了時、成績によりポイント獲得 ・ 選手の個人表彰によりポイント獲得 ■ 試合の流れについて ・ 試合の流れは各選手の能力の判定で進んでいきます。 ・ 基本は投手が投げて、打者が打ち、打球に応じて守備が動くという、実際の野球に近い形です。 ・ 勝つために大切なのは、自分がどんなチームを作りたいのかということを考えてやることです。 ・ このようなことも視野に入れてどのようなチームにしたいか考えてみてください。 ・ 先発ピッチャーはスタミナが+50されて登板します。 ・ 風…打者にとって向かい風だとHR・長打が出にくく投手の球速が上がります。逆に追い風だとHR・長打が出やすくなり投手の球速が下がります。 風向きは打球の方向にも影響します。なお風向きに関係なく風が強いと投手の制球が乱れます。 ・ 天気…四死球・エラー・内野安打に影響します。 晴れ…内野安打率↓、くもり…特に影響なし、雨…四死球↑・エラー↑・内野安打↑、大雨…四死球↑↑・エラー↑↑,内野安打↑↑↑、雪…四死球↑↑↑・エラー↑↑↑,内野安打↑ ・ 気温…気温が高いとスタミナの消耗が激しくなります。 ■ 球場について ・ 試合開始前に試合会場をどこにするか決定することができます。 ・ 自チームの入場者数にあった球場を選ぶことをお勧めします。 ・ 中堅、両翼が広いとHRが出にくくなり長打が増えます。 ・ ケガ⇒(多)土=人工芝>天然芝(少) ・ エラー⇒(多)土>天然芝>人工芝(少) ・ 借金中は河川敷球場・パワ★プル球場しか選べません。 ・ 両チームとも入場料金の収入を得ます。 球場名 中堅 両翼 フェンス 内野 外野 最大入場者数 貸出金額 備考 河川敷球場 90m 80m 1m 土 土 10000人 10万円 パワ★プル球場 125m 110m 2m 土 人工芝 25000人 50万円 千葉マリンスタジアム 122m 99m 4m 人工芝 人工芝 30000人 120万円 風強い 西武ドーム 122m 100m 3.5m 人工芝 人工芝 35000人 170万円 阪神甲子園球場 120m 96m 3m 土 天然芝 45000人 200万円 東京ドーム 122m 100m 4m 人工芝 人工芝 45000人 200万円 パワフルタウンドーム 130m 120m 3m 天然芝 天然芝 100000人 400万円 ■ 『パワプルカード』について ・ パワプルカードとは、球団経営に欠かせないアイテムです。略称は『パワカ』です。 ・ パワプルカードは各段NO.001~NO.100までの100種類カードがあります。 ・ レア度は高い方から順に、SS・S・A・B・C・Dの6段階です。 ・ レア度が高いほど出現率は低いです。 ・ カードによって効果対象が違うのでよく見ましょう。 ・ パワカで変化球を取得するとき、もしその変化球と同じ方向の変化球を持っていたら、前の変化球は消去されLv1の新しい変化球を取得します。 ・ パワカを100種類全て集めても特に商品は今のところありませんが、集めてみるのも1つの楽しみです。 ・ パワカは『カードトレードセンター』で売買できます。 ・ コメント欄にはカードの説明を書いてあげると、購入してもらいやすいです。 ・ 各段NO.55~NO.60のパワカは、使用しても失敗することがあります。なお、Lvが高いほど失敗しやすいです。 ■ 施設について ・ 施設のLvは1~10までの10段階です。 ・ 施設のLvは『アイテム購入』にて上げることができます。 ・ 施設のLvが高いとその施設に関係した練習のLvが高くなります。 ・ 施設のレベルが高いと維持費が高くなります。Lv1の時、維持費はかかりません。 ・ 医療施設…怪我の回復量に影響。 ・ ブルペン…投げ込み・的当て・変化球練習に影響。 ・ 練習用球場…全ての練習に影響。 ・ 400mトラック…ダッシュ・走り込みに影響。 ・ ウエイトマシン…筋トレ・遠投に影響。 ・ バッティングマシン…ティーバッティング・フリーバッティングに影響。 ・ ランニングマシン…ダッシュ・走り込みに影響。 ・ ノックマシン…ノックに影響。 ・ ストラックアウト…的当てに影響。 ・ バッティグゲージ…ティーバッティング・フリーバッティングに影響。 ・ チューブ…遠投・投げ込み・的当て・変化球練習に影響。 ・ 照明…全ての練習に影響。 ■ 選手について ・ 年俸はその選手の能力を考慮したうえで、シーズンの成績によって決定されます。 ・ 選手名は練習設定と一緒に変更できます。 ・ 特能は『パワプルカード』にて増やすことができます。 ■ 練習について ・ 練習による経験値の増加量は、成長期によって変わります。 ・ 練習のLvが高いと得られる経験値の量は多くなります。 ・ 能力は一定の量の経験値が貯まると上がります。 ・ 経験値の状況は、『詳細』ボタンを押すと見られます。 ・ 2軍は1軍より経験値を得る量が若干ですが多いです。 練習について(野手) 練習/効果 PW MT 走力 守備 肩力 バランス + + + + + 筋トレ ++++ + ティーバッティング + ++++ フリーバッティング ++ +++ ダッシュ +++++ 遠投 + ++++ ノック + ++ ++ 各ポジ練習 ++++ + 調整 疲労回復/調子が上がりやすい ■ 秋季キャンプについて ・ 全試合を消化すると1回だけ秋季キャンプを行うことができます。 ・ 各選手練習の度合いを決定することができます。 ・ 練習⇒ふつうに練習。 ・ 半々⇒練習の効果が50%、疲労度が各キャンプ地に設定されている値の50%回復。 ・ 休養⇒練習の効果が0%、疲労度が各キャンプ地に設定されている値の100%回復。 ・ キャンプの練習によって疲労度が溜まることはありません。 ・ キャンプ地が地元の場合は0万円でキャンプを行えます。(三重県は近畿地方に分類されます。) ・ 成長期が練習効果に影響します。 ・ 1軍と2軍の練習量は同じです。 キャンプ地と練習量について(空白は効果なし) キャンプ地名 必要資金 PW MT 走力 肩力 守備 球速 変化 制球 スタミナ 疲労度 北海道・東北地方 10000万円 C E E D C 30 関東地方 10000万円 E E D D D D 30 中部地方 10000万円 C C C E 30 近畿地方 10000万円 D D E E E E E E 30 中国地方 10000万円 D D C C 30 四国地方 10000万円 D D D C E 30 九州・沖縄地方 10000万円 E D E E E D D 30 グアム 30000万円 E E E C C C C 40 台湾 30000万円 E D D D D D E E D 40 南アフリカ 100000万円 C D E D C C C C 60 オーストラリア 100000万円 E E C C C B D D 60 ブラジル 100000万円 C D C D C E C C 60 エジプト 100000万円 D D B D D D B 60 ドミニカ 300000万円 E C B D A B E B E 100 フロリダ 300000万円 B D D D A B D B 100 ■ 疲労度について ・ 疲労度はシーズンを通して溜まっていきます。 ・ 疲労度は野手と投手で溜まり方が全然違います。 ・ 疲労度は高年齢だと若干溜まりやすく、低年齢だと若干溜まりにくくなっています。 ・ 野手⇒【増加:練習、試合に出場】【減少:調整、試合に出場しない】 スタメンで出場するのと代打で出場するのではスタメンで出場する方が若干増加しやすいです。 平均すると1試合1ぐらい溜まります。(練習・スタメン) ・ 投手⇒【増加:練習、試合に出場】【減少:調整、試合に出場しない】 投球回に応じて疲労度が溜まります。 5イニングでだいたい8増加します。 試合に出場しなかったら回復力に応じて疲労度が減少します。 ・ 2軍⇒ 練習をたくさんするので1軍より練習での疲労度は溜まりやすいです。 2軍は怪我をしません。 ・ 怪我⇒ 疲労度が30未満の選手は怪我○、×に関わらず怪我をしません。 怪我○は疲労度-10、怪我×は疲労度+10の補正がかかります。 ・ シーズンが終了すると疲労度が30減少します。 ■ 変化球について 変化球はパワカなどで取得させてから、練習させてください。 左 左下 下 右下 右 スライダー Hスライダー カットボール ・カーブ スローカーブ 超スローカーブ カミソリカーブ Sスライダー ・フォーク Vスライダー SFF ナックル サークルチェンジ パーム チェンジアップ ・シンカー(スクリュー) Hシンカー(Hスクリュー) シュート ■ 選手の能力について 選手には成長型が7種類あります(新規登録時に決定)。主に影響するのは毎試合練習での能力アップです。 大成長期 > 中成長期 > 小成長期 > 維持期 > 衰退期 ~野手~ パワー・・・振り回すイメージ。長打や四死球になりやすいが、三振が多くなる。 ミート・・・コツコツ当てるイメージ。安打になりやすい。 走力・・・かき回すイメージ。長打、安打にもなりやすい。外野の守備範囲に影響大。 肩力・・・盗塁を阻止したり、走者の進塁を防ぐ。外野の守備に影響大。 守備・・・主にエラーするかどうかに影響する。内野の守備にも影響大。 選球眼・・・能力が高いと四球が多くなり三振が減る。パワカのみで能力が上がる。 長打技術・・・影響はパワーほど大きくないが衰えにくい。パワカのみで能力が上がる。 走塁技術・・・影響は走力ほど大きくないが衰えにくい。パワカのみで能力が上がる。 盗塁技術・・・盗塁の成功率に影響。衰えにくい。パワカのみで能力が上がる。 対チャンス・・・隠しパラメータ。各選手のチャンスの場面での相性。この能力が高くてもデメリットがない。パラは(1~10)である。 バント・・・バントを試みる頻度。(1←少ない←5→多い→10) 盗 塁・・・盗塁を試みる頻度。基本的に走力次第。(1←少ない←5→多い→10) ~投手~ 球速・・・力で押すイメージ。三振を取りやすくなる。四死球も増える。 カーブ・・・・・・・・・・・・内ゴロ、内フライ スローカーブ ・・・・・・内ゴロ、内フライ(速球が遅い方が効果大) 超スローカーブ ・・・・・・内ゴロ、内フライ(速球がものすごく遅い方が効果大) カミソリカーブ ・・・・・・内ゴロ、内フライ(カーブの中で1番変化が大きい)球速ダウン Sスライダー・・・・・・・内ゴロ、内フライ スライダー・・・・・・・・外フライ Hスライダー ・・・・・・外フライ(速球が速い方が効果大) カットボール・・・・・・・内ゴロ、内フライ フォーク ・・・・・・・・・三振 Vスライダー ・・・・・・内ゴロ、内フライ SFF・・・・・・・・・・・・・内ゴロ、内フライ(速球が速い方が効果大) チェンジアップ・・・・・内ゴロ、内フライ パーム ・・・・・・・・・・三振 ナックル ・・・・・・・・・外フライ サークルチェンジ ・・・・・・・・・内ゴロ、内フライ(落ちる系の中で1番変化が大きい変化球です)。制球ダウン シンカー(スクリュー)・・三振 Hシンカー ・・・・・・・・・・三振(速球が速い方が効果大) シュート・・・・・・・・・・・内ゴロ、内フライ 制球・・・コントロール。長打にもなりにくい。 スタミナ・・・回を重ねるたびに減少する。長打、得点などでも減少する。投手の能力全体に影響する。先発投手のスタミナは+50 キレ・・・全ての変化球に影響。変化球の切れのよさを表す。パワカのみで能力が上がる。 球質・・・能力が高いと長打、本塁打が減る。パワカのみで能力が上がる。 セット(セットポジション)・・・能力が高いとランナーがいる場面で力を発揮しやすい。盗塁にも影響する。パワカのみで能力が上がる。 回復・・・疲労度の回復のしやすさを表す。パワカのみで能力が上がる。 対ピンチ・・・隠しパラメータ。各選手のピンチの場面での相性。この能力が高くてもデメリットがない。パラは(1~10)である。 スタミナ配分・・・そのまんま。低いと疲労度が溜まりにくかったりします。(1←温存←5→全力→10) 配球・・・ボールをどこに向かって投げるか。高いと四球・三振が増え、安打が減る。(1←真ん中←5→隅→10) 球種・・・直球と変化球の使用頻度。変化球主体だと四球が増える。(1←直球主体←5→変化球主体→10) ~共通~ 調子・・・チャンスやピンチ時の能力やスタミナにも影響。 年齢・・・1シーズンに1歳ずつ歳をとっていく。 人気・・・その選手の人気度をあらわす。高いほど試合のときに観客が集まりやすい。 成長率・・・隠しパラメータ。各選手の成長のしやすさを表したもの。高いほど成長しやすく、低いほど成長しにくい。 対左投手(打者)・・・隠しパラメータ。各選手の対左の相性。対左が得意なほど、対右は苦手。対左が苦手なほど、対右は得意である。パラは(1~10)である。 疲労度・・・試合に出場したり練習をすると増えていく。試合に出場しなかったり調整をしていると下がる。疲労度が高いと怪我がしやすくなる。(目安:30⇒0%、50⇒6%、70⇒20%) 限界能力・・・隠しパラメータ。各選手各能力に限界があります。その限界に達するとその能力の育成スピードが遅くなります。 怪我・・・怪我をしていると試合に出場できません。1~8・15~23番の選手がケガをしていると試合が出来ません。2軍の選手は怪我をしません。 パラ変換表 (速球は120~160km、変化球は1~7) パワー、制球 スタミナ 走力、肩力 ミート 選球眼、長技、走技 盗技、キレ、球質 セット、回復 S 255 15 100 A 220~ 13~ 90~ B 180~ 11~ 75~ C 140~ 9~ 60~ D 100~ 7~ 45~ E 60~ 5~ 30~ F 20~ 3~ 15~ G 0~ 1~ 1~ 打法の効果 PW MT 走力 ノーマル クラウチング ++ -- 一本足 ++ -- 神主 ++++ -- -- 振り子 ---- ++ ++ こんにゃく ++ -- てんびん -- ++ すり足 --- +++ ぐちゃぐちゃ 毎打席ランダムで PW+20~-10,MT+2~-1,走+2~-1 投法の効果 球速 変化 制球 スタミナ 守備 オーバー ++ ---- ++ スリー ++ -- サイド -- ++ アンダー ++ -- トルネード ++++ -- -- マサカリ ++ ---- ++ 成長型 成長タイプ/歳 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38~ 超早熟 大 大 大 大 中 中 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 早熟 中 大 大 大 中 小 小 維 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 普通早 小 中 大 大 中 小 小 維 維 維 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 普通 維 小 小 中 大 中 小 小 維 維 維 維 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 普通遅 維 維 維 小 小 中 大 中 小 小 維 維 維 維 衰 衰 衰 衰 衰 衰 衰 晩成 維 維 維 維 小 小 中 大 中 小 維 維 維 維 維 維 衰 衰 衰 衰 衰 超晩成 維 維 維 維 維 維 維 小 中 大 中 小 維 維 維 維 維 維 衰 衰 衰 特殊A 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 維 中 中 小 衰 特殊B 維 維 小 小 中 中 小 維 衰 衰 衰 衰 衰 中 大 中 中 衰 衰 衰 衰 特殊能力について(赤文字は悪い特殊能力、青文字は超特殊能力) 同じ種類の特殊能力は1つまで(バント×とバント○とバント◎はどれか1つ) 超特殊能力は1つまで。 悪い特殊能力は、削除するか同じ種類の良い特殊能力を獲得すると消える。(バント×あり - バント◎獲得 - バント×消滅、バント◎ゲット) 年齢、成績などにより自動的に消滅したり、獲得したりすることは無い。 各選手超特、特能合わせて最大5個所持可能 ■ 野手 1 バント×、バント○、バント◎・・・バントの成功率、試みに影響する。 2 チャンス×、チャンス○、チャンス◎・・・チャンス(ランナー2塁以上)の時に影響する。 3 対左投手×、対左投手○、対左投手◎・・・対左投手時に影響する。 4 盗塁×、盗塁○・・・盗塁の成功率、試み数に影響する。 5 タイムリーエラー、守備職人・・・エラー率に影響する。 6 パワーヒッター・・・ホームラン、長打(2塁打以上)に影響する。 7 アベレージヒッター・・・単打(シングルヒット)、長打(2塁打以上)に影響する。 8 逆境○・・・7回以降、負け時に影響する。 9 満塁男・・・満塁時に影響する。 10 内野安打・・・内野安打に影響する。 11 固め打ち・・・試合で1安打以上打っている時に影響する。 12 チャンスメーカー・・・ランナーなし時に影響する。 13 サヨナラ男・・・サヨナラの場面に影響する。 14 送球○・・・肩力に影響する。 15 威圧感・・・相手の能力をダウンさせる。 16 安定感、空回り・・・調子が「悪い」、「最悪」の時のダウンが少ない。(調子が「好調」、「絶好調」の時能力ダウン。) 17 ムラッ気・・・調子の変動が大きい。 18 三振男・・・三振になりやすい。 19 センス×、センス○・・・練習時の能力アップに影響する。 20 怪我×、怪我○・・・怪我のしやすさに影響する。 21 ヘッドスライディング・・・長打・盗塁に影響する。 22 走塁×、走塁○・・・長打に影響する。 23 代打男・・・代打時に能力アップ。 24 連打・・・前の打者がヒットだと能力アップ。 25 初打席○・・・初打席時に能力アップ。 26 ムードメーカー・・・打撃成績によってチームメイトの能力が変化。 27 レーザービーム・・・外野からレーザービームのような送球をする。 28 ゲッツー崩し・・・自分がランナーのときゲッツーを防ぐ。 29 キャッチャー○、キャッチャー◎・・・キャッチャーの時、ピッチャーの能力が(とても)上がる。 30 体当たり・・・ホームのクロスプレイで、セーフになりやすい。 31 犠牲フライ○・・・無死3塁または1死3塁の時犠牲フライになりやすい 32 アーチ野郎・・・ホームランと外野方向への打球、三振になりやすい 33 青い稲妻・・・ランナーの時走力、盗塁技術、走塁技術アップ 34 脅威の打撃・・・調子が好調または絶好調でランナーがいるとき能力アップ 35 上位○・・・15位以上のチームに強くなる 36 先頭バッター○・・・イニングの先頭バッターの時能力アップ 37 2アウト○・・・2アウトの時迫ヘアップ 38 ファインプレー・・・ヒット性の当たりを阻止しやすくなる 39 若手キラー、ベテランキラー・・・対戦相手が20歳以下(30歳以上)の時能力アップ 40 固い壁・・・同点又は逆転打を打たれた時能力アップ 41 挫けぬ心・・・3・4・5番打者が三者凡退の時能力アップ 42 ダイジョーブ博士・・・試合中突然能力がアップしたりダウンする 43 風○・・・風速3m以上の向かい風が吹いている時能力アップ 44 お祭り男・・・オールスターの時能力アップ 45 初回○・・・イニングが1回の時能力アップ 46 晴れ男、雨男・・・晴天時(雨天時)能力アップ 47 バント阻止・・・捕・一・三を守備時バントを阻止しやすくなる 48 エラーメーカー・・・打席時相手はエラーをしやすくなる 49 一日一歩・・・5試合以上連続安打を打っているとき能力アップ 50 バスター打法・・・無死一塁または無死一二塁時ヒットが多くなる 51 天性の感・・・打法がぐちゃぐちゃ打法の時能力アップ 52 憎悪・・・四死球数が2以上の時能力アップ 53 持続・・・疲労度が溜まりにくくなる 54 あきらめムード・・・大差で負けているとき能力ダウン 55 1・2番コンビ・・・1番打者が走者で2番打者が打者の時両者能力アップ。(1・2番両方所持していないと発動しない) 56 ジェット風船・・・7回時モチベーションアップ 57 人気者・・・試合の入場者数が増える 58 豪力・・・ホームラン、長打(2塁打以上)がとても増える。 59 神速・・・盗塁の成功率、試み数がとても増える。 60 闘気・・・相手投手の能力を大きくダウンさせる。 61 奪力・・・相手投手のスタミナを大きく消費させる。 62 緊縛・・・相手投手の変化の効果を大きくダウンさせる。 ■ 投手 1 ノビ×、ノビ○・・・奪三振数に影響する。 2 キレ×、キレ○・・・それぞれの変化球の効果に影響する。 3 ピンチ×、ピンチ○・・・ピンチ(ランナー2塁以上)の時に影響する。 4 対左打者×、対左打者○・・・対左打者時に影響する。 5 クイック×、クイック○・・・ランナーの走力に影響する。 6 負け運、勝ち運・・・7回以降の勝ち時に影響する(7回以降の負け時に影響する)。 7 打たれ弱い、打たれ強い・・・連打をされにくくなる。 8 一発病、逃げ球・・・HRを打たれやすくなる(打たれにくくなる)。 9 軽い球、重い球・・・ホームラン、長打に影響する。 10 尻上がり、(超尻上がり)・・・5回以降徐々に能力(が格段)アップ。効果があるのは先発投手のみ。 11 威圧感・・・相手の能力をダウンさせる。 12 打球反応○・・・ピッチャー返しを取りやすい。投エラーが減る。 13 安定感、空回り・・・調子が「悪い」、「最悪」の時のダウンが少ない。(調子が「好調」、「絶好調」の時能力ダウン。) 14 ムラッ気・・・調子の変動が大きい。 15 四球男・・・四球が多くなる。 16 スロースターター、ハイスターター・・・3OUTとるまで能力ダウン(アップ)。 17 センス×、センス○・・・練習時の能力アップに影響する。 18 怪我×、怪我○・・・怪我のしやすさに影響する。 19 寸前×・・・最終回で勝っていると能力ダウン。 20 奪三振・・・三振をとりやすくなる。 21 低め○・・・制球アップし内野ゴロになりやすくなる 22 ジャイロボーラー・・・三振をとりやすくなる 23 回復○、回復×・・・疲労度の回復量アップ(ダウン) 24 連敗ストッパー・・・3試合以上連続して負けているとき能力アップ 25 上位○・・・15位以上のチームに強くなる 26 クロスファイヤー・・・左投VS左打または右投VS右打の時能力アップ 27 2アウト○・・・2アウトの時能力アップ 28 角度○・・・球速アップ 29 連続被弾・・・連続してHRを打たれやすい 30 若手キラー、ベテランキラー・・・対戦相手が20歳以下(30歳以上)の時能力アップ 31 主砲破壊・・・対戦打者が4番の時能力アップ 32 不屈の闘志・・・先制・逆転・勝ち越し打を打たれてランナーがいるとき能力アップ 33 ダイジョーブ博士・・・試合中突然能力がアップしたりダウンする 34 キャンドルサービス・・・1イニングに3塁打またはHRを2本以上打たれた時連打を受けやすくなる 35 お祭り男・・・オールスターの時能力アップ 36 初回○・・・イニングが1回の時能力アップ 37 晴れ男、雨男・・・晴天時(雨天時)能力アップ 38 サヨナラ防止・・・サヨナラの場面で能力アップ 39 完封○・・・先発で7回以降、失点0の時能力アップ 40 持続・・・疲労度が溜まりにくくなる 41 ど根性・・・多少スタミナが切れても能力が下がらない 42 人気者・・・試合の入場者数が増える 21 鉄腕・・・奪三振数が大きくアップ。 22 剛球・・・相手打者のパワー大きくダウン。 23 絶倫・・・スタミナの消費が少なくなる。 24 呪縛・・・相手打者の走力大きくダウン。 25 気迫・・・連打をとてもされにくくなる。 ■ 新人オークションについて ・ 新人オークションで若くて伸び盛りな選手を獲得することができます。 ・ 最も高額で入札した球団が獲得します。入札額が同じ場合入札時間が早い球団が獲得します。 ・ 入札額を変更したい場合は、同じように新しい入札額を決めて入札してください。 ・ 入札額を取り消したい場合は、入札額を0万円にして入札してください。 ・ 入札状況は非公開です。 ・ テストの結果は、見られるテストと見られないテストがあります。これは球団によって違います。 ・ 見られるテストの結果は、毎シーズン変わります。 ・ オークションはシーズンが終了すると同時に終了し、落札チームの2軍に追加されます。 ■ ロト6について ・ シーズンの2日目・4日目・6日目が抽選日です。 ・ 普通のロト6とルールはほとんど同じです。 ・ 番号は1~25の25個。 ・ 当選金は定額。 ・ 一口300万円で10枚まで購入可能。 ・ 借金中のみ3枚まで購入可能。 ・ 還元率は102.3% ・ 実はいろいろと法則性がある!? 当選金について 等級 条件 本数 確率 賞金 1等 本数字6個と全て一致 1本 0.000565% 300000万円 2等 本数字5個と一致し、更にボーナス数字1個と一致 6本 0.003388% 100000万円 3等 本数字5個と一致 108本 0.06% 60000万円 4等 本数字4個と一致 2565本 1.44% 10000万円 5等 本数字3個と一致 19380本 10.94% 1100万円 はずれ 上記以外 155040本 87.54% 0万円 ■ 個人表彰について(2008/04/27追加) 記録達成以後も、()内の数値ずつ増した数を達成するごとに撫イされる。 撫イされた選手が所属しているチームには副賞としてチームPが1pt進呈される。 ・ 本塁打 150(+50) ・ 安打 1000(+500) ・ 打点 500(+250) ・ 盗塁 200(+50) ・ 勝利 100(+50) ・ セーブ 100(+50) ・ 奪三振 1000(+500) ■ MVP、新人王、ベストナインについて ・ MVP…そのシーズンで活躍した投手、野手1人ずつ受賞されます。 なおMVPはベストナインの中から選ばれます。チームポイント+2(ベストナインを含めて+3) ・ 新人王…5年目以下でシーズン開始時に50打席(30イニング)以下の選手が対象です。 対象選手には○年目の横に★マークが付いています。チームポイント+3 ・ ベストナイン…そのシーズンに活躍した選手各ポジション1人ずつ受賞されます。 対象は各々のポジションに71試合以上出場している選手です。チームポイント+1 ■ コマンドについて ・ 「打順変更」 ログイン画面で選手の打順・守備位置を設定し、「打順変更」ボタンを押すと打順を変更することができます。 ・ 「練習設定」 選手の練習を設定できます。選手の登録名変更もここで行えます。 140試合消化すると練習設定ができなくなります。 ・ 「作戦会議室」 各選手の作戦を変更できます。 ・ 「対戦チーム成績」 各チームとの対戦成績が確認できます。 自チームとの相性を知り、作戦を立てるのにお役立てください。 ・ 「ジャンク屋」 パワカを購入したり、練習設備のLvをあげることができます。 ・ 「闇市場」 必要のないパワカを1枚100万円で買い取ってくれます。 ・ 「新人オークション」 新人選手を入札できます。詳しくは「新人オークションについて」をご覧ください。 ・ 「2軍」 2軍にいる選手の能力などが見られます。2軍の練習設定は「2軍」ボタンを押してから「練習設定」ボタンを押してください。 なお、2軍の選手を解雇する場合は、「解雇」ボタンを押すと解雇画面に切り替わります。そこから解雇する選手を選択してください。 ・ 「一・二軍選手入れ替え」 一軍と二軍の選手を入れ替えることができます。 ・ 「2軍野手放出」 2軍の野手を放出できます。放出条件はチーム創立4年目以降かつ選手の総合力がD以上であることです。 獲得するには放出球団の試合消化数より多く消化している必要があります。 ※新シーズンになると放出された選手は初期化されます。ご注意ください。 ・ 「2軍投手放出」 2軍の投手を放出できます。放出条件はチーム創立4年目以降かつ選手の総合力がD以上であることです。 獲得するには放出球団の試合消化数より多く消化している必要があります。 ※新シーズンになると放出された選手は初期化されます。ご注意ください。 ・ 「放出野手獲得」 放出された野手を購入することができます。購入すると2軍に追加されます。 ・ 「放出投手獲得」 放出された投手を購入することができます。購入すると2軍に追加されます。 ・ 「パワカ第○段リスト」 自分が持っているパワカを見ることができます。パワカを使用するのもここで行えます。 ・ 「カードトレードセンター」 パワカの売買がおこなわれている場所です。パワカなどを売り出したいときはここで行えます。 ・ 「チームポイント使用」 貯めたチームポイントを使用できます。 ・ 「チームコメント設定」 チームコメントを設定できます。文字数制限は300文字までで、タグは使えません。 改行は/br/を使用してください。詳細は「チームコメントについて」をご覧ください。 ・ 「メール」 他球団の監督にメールを送ることができます。 ・ 「暗黒の間」 パスワードを入力すると何かがもらえます。 定期的にパスワード配布イベントを行います。 ■ 処分内容 複数登録 無期限凍結 選手/資金/パワカ譲渡行為(譲渡側) 無期限凍結 選手/資金/パワカ譲渡行為(受取側) 凍結1日、罰金100,000万円 選手/パワカの転売 凍結1日、罰金50,000万円 なりすまし行為 凍結1日、罰金50,000万円 暴言 凍結1日、罰金30,000万円 詐欺行為 凍結1日、罰金50,000万円 運営を妨げる行為、迷惑行為 アク禁、チーム削除 不具合を利用して利益を得る行為 凍結1日、罰金30,000万円 疑わしいものは一度凍結し事情を聴取します。 2度目以降の処分は、今までの処分内容に上乗せして処分を下します。 これはPPLも同じ内容ですご注意下さい 最後に新規登録者を募集して居ます PPLは新規登録者は集まり過ぎて居ます PPLαはまだ余裕が残って居ます 各登録アドレスはこちらです PPLはhttp //dsjoho.net/ppl/gekipawaframe.cgiです PPLαはhttp //keibaj.com/ppla/gekipawaframe.cgiです 其れでは失礼します。
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8bit・16bit機-所有ソフト TOP SNES(北米版スーパーファミコン)AERO THE ACRO・BAT★日本未発売ALIEN VS PREDATORANIMANIACSBOXING LEGENDS OF THE RINGBS THE LEGEND OF ZELDA(◆ディスク版リメイク・サテラビュー版・非売品◆)BULLS VS BLAZERS AND THE NBA PLAYOFFS★日本未発売CHAMPIONS WORLD CLASS SOCCERCLUE★日本未発売COOL WORLD★日本未発売DAFFY DUCK THE MARVIN MISSIONS★日本未発売DEMOLITION MAN★日本未発売FACEBALL 2000★日本未発売FIFA 96 SOCCER★日本未発売F-ZEROHYPER ZONEJIM POWRE THE LOST DIMENSION IN 3D★日本未発売JURASSIC PARKJUSTICE LEAGUE-TASK FORCEKILLER INSTINCT★日本未発売LETHAL WEAPON★日本未発売MAUI MALLARD IN COLD SHADOWMETAL WARRIORS★日本未発売MICHAEL JORDAN CHAOS IN THE WINDY CITY★日本未発売MORTAL KOMBATMORTAL KOMBAT 3★日本未発売MTV’S BEAVIS AND BUTT-HEAD★日本未発売NBA JAMNCAA BASKETBALLNFL QUARTERBACK CLUB ’96★日本未発売NIGHTMARE BUSTERS(◆新作SUPER FIGHTER TEAM版◆)★日本未発売NIGHTMARE BUSTERS(◆ニチブツPAL版・非売品◆)NINDO-WAY OF THE NINJAPAC-MAN2PAPERBOY 2★日本未発売PHANTOM 2040★日本未発売PIECESPRIMAL RAGE★日本未発売Relm★日本未発売RENDERRING RANGER R2(PAL版)RUN SABER★日本未発売SIM CITYSPAWN THE VIDEO GAME★日本未発売SPIDER-MAN X-MEN ARCADE’S REVENGE★日本未発売STARFOXSTARFOX 2(◆発売中止になった幻のソフト・サンプル版・非売品◆)STREET FIGHTER ⅡSUNSET RIDERS★日本未発売SUPER BASES LOADED★日本未発売SUPER BLACK BASSSUPER MARIO WORLDSUPER NES SUPER SCORP 6SUPER PROBOTECTOR-ALIEN REBELS(欧州版コントラ キャラがロボット)SUPER SMASH T.V.SUPER TENNISSUPER TURRICAN 2★日本未発売TETRIS 2★日本未発売THE ITCHY & SCRATCHY GAME★日本未発売THE JUNGLE BOOKTIMESLIP★日本未発売(コントラ風ガンアクション)TRUE LIESWAYNE’S WORLD★日本未発売WING COMMANDERWING COMMANDER-THE SECRET MISSION★日本未発売WWF SUPER WRESTLEMANIAX-MEN MUTANT APOCALYPSE TOP
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HAPPY END(21)◆ANI2to4ndE ◇ 「すっげぇ音したよな。お前、まだ痛むんじゃないのか?」 「うるさい、黙っていろ。気が散る」 ねねねは何も言わなかった。その代わり強かにルルーシュの頬を叩いた。 まだ赤みが退かないのを揶揄してくるスパイクが鬱陶しい。 監視役のつもりか何か知らないがあまり広いとは言えない機内だ。腹の読めない相手と二人というのは良い気分ではなかった。 (もっとも、こちらが何もしなければ身の安全は保証されているも同然だ。連中の甘さには感謝、だな) 手探りで操縦システムの解析を続けながら思う。ほぼ確実な帰還方法が手に入った以上、ルルーシュとしてもこれ以上ことを荒立てる気はない。 まさかギアスが効いた訳でもないだろうが、最初のときと同じくアンチ=スパイラルがふらりと戻ってきた。 そして置いていったのが翼竜を模した奇抜なデザインの、ルルーシュの常識に照らし合わせて言うなら飛行機械だ。 元々は偶然舞い込んだ未来の技術らしく、螺旋王が改修改造の後、多元宇宙を渡る術としていたのだという。 『自らモルモットの道を選ぶとはね。期待はしないが、せいぜい長い目で見させてもらうことにするよ』 アンチ=スパイラルの言だ。未知の技術を説明もなしに置いていったのは観察対象に余計な刺激を与えないようにという配慮だろうか。 嫌がらせの可能性も高い。 多元宇宙の移動だけならカテドラル・テラの転移システムも使えるのかも知れないが、会場に直結されたシステムはかなりのダメージが蓄積されており、使う気にはなれなかった。 使用には複数の螺旋力が必要、しかし複数人の移動に耐えられるとは思えないジレンマだ。人間離れした精緻な技術を持っているのでもなければ使おうとは思わないだろう。 「ま、せっかく拾った命だ。せいぜい大事にするさ。誰かさんのお陰で監視付きだがな」 「ふん。あれだけ規格外の存在だ。どうせすぐ意識もしなくなる。むしろ神様が見てるとでも思えば、その軽薄な態度も少しはましになるんじゃないのか?」 違いない、とかわされる。柳に風だ。 やはり、この手のタイプは好きになれない。 作業が一段落したのでルルーシュはふぅと息をはいた。 「使えそうなのか?そうじゃなきゃ困るが」 「使われている技術は全く理解できんがユーザビリティの高さは異常だ。殆どがブラックボックスの状態になるが、既に登録されている世界への移動程度なら問題ないだろう」 十分僥倖と言うべきだろう。今思えば可能性としてはヴィラルと同じ道を辿る方が高かった。 現実を知らず、甘い夢に溺れ瓶詰めのモルモットとして余生を送る皮肉な愛の戦士。スザクを殺した報いとしては上々だろう。 ともかく、これでナナリーの元に帰る目処はついた。今度こそ本当に、条件はクリアだ。戻れば戻ったでまた忙しくなる。 「……ああそうだ。一個言い忘れてたことがある」 そのとき、背中越しのスパイクが、さも今思い出したという調子で言った。 「ニアがな、山小屋の一件、庇ってくれてありがとうだってよ」 既に、帰還後のプランに考えを巡らせていた俺に。 悪夢はもう過去のものとして切り捨てようとしていた俺に。 淡い水色をした少女の言葉は、確かにさくりと突き刺さった。 「……ま、なるようになったな」 もう一度言おう。 (俺は、この男が嫌いだ) 【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ―――――――――――生還】 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ―――生還】 ◇ 「ゆたかがいきなり倒れたりするから皆びっくりしたわよ」 「ご、ごめん舞衣ちゃん。何か安心したら急に……」 「もう、本当に死んじゃったかと思ったんだから」 言いながら心中で舌を出す。 緊張の糸が切れた途端気絶するように眠ってしまったのは舞衣も一緒だ。 「それにしてもここ、宇宙だったんだってね。正確に言うと月面」 「凄すぎて全然実感湧かない……」 「あはは、それを言うなら別の世界だってことの方が」 舞衣とゆたかはけらけらと、年相応に笑った。 玉座の間は広大な空間であり、透けた天井からは綺麗に光る宇宙が見えた。 二人はカグツチの肩で寄り添うようにして座り、できるだけ空に近い場所から、時が止まりそうなくらい穏やかな気持ちで外を見ている。 数々の暴力を振るった神代の竜も、今だけは二人を見守ろうと言うのか最低限の炎だけでふわりと空中に静止していた。 どこかへ遊びに行こう。二人だけで交わした約束。 ちょっとした星間旅行だった。 「……あの子の、フリードのお弔いも、してあげないとね」 「……うん」 クロスミラージュが告げた名前があの小竜のものであると、教えてくれたのはストラーダだ。 小さくて勇敢だった白い竜は、本来の主をこの戦いで失っていたのだと言う。 恐らくは、主もまた誰かのためにその命を散らしたのだろうと、無口な従者はそれだけを言った。 幾度舞衣を助けてくれたか知れない寡黙な魔槍は、どこか誇らしげに降り注ぐ光に照らされていた。 フリードや、ストラーダだけではない。 二人がこうしていられるのは数えきれないくらい沢山の人達のお蔭だ。 Dボゥイ。相羽タカヤ。重ねられた掌から同じ人を想っていることが伝わってくる。 「そうだ」 思い出さなければいつまでもこうしているところだった。 舞衣は荷物の中からごそごそと事前に用意していたものを取り出す。 「ゆたか、はいこれ」 手渡したのは一対になっていた原色に美しく煌めくクリスタルの片方だった。 小さな手のひらに収まりきらないそれは、見ようによっては人間のようにも見える。 「きれい……でもどうしたのこれ」 見え方が変わるのを楽しむようにクリスタルを空にかざすゆたかに、物語を言って聞かせるように説明する。 「ねねね先生に聞いたんだけどね。 このクリスタル、Dボゥイとか相羽シンヤって人とかが、その、変身するのに使うとっても大事なものなんだって」 現実感の薄い単語に雰囲気を壊されそうになる。けれど直ぐに笑った。 自分も似たようなものか。 「って言っても今は全然危険とかはなくって、単なる綺麗な水晶らしいんだけど。 どうかな。どっちがどっちのかまでは分からないけど、あたし達の思い出に」 待っていればそこに持ち主が現れると信じているみたいにクリスタルをぼうっと見つめるゆたかにウインクを一つ。 そっと、力の抜けた小さな手にクリスタルを握り込ませる。 「……うん!」 ゆたかはそう言って満開の花のように朗らかに笑った。 打ち鳴らされた水晶が、チンと優しい音を立てた。 【小早川ゆたか@らき☆すた―――――――――――――――生還】 【鴇羽舞衣@舞-HIME―――――――――――――――――生還】 ◇ 首尾よく天の鎖の回収を済ませたギルガメッシュはざくざくと遠慮のない足取りで廃墟と化した会場跡地を歩いていた。 戦いの舞台となった場所は王都テッペリンの中の一区画を占拠する形で存在している。 会場世界を覆っていた結界や殻はロージェノムの螺旋力が生み出したもの。だが中のものまで全てがそうという訳ではない。 既に在るものを持ち込んで済ませた、というものも多い。 ギルガメッシュの周囲に散乱している、瓦礫と化した大怪球フォーグラーなどもその一つだ。 「……む」 足が止まる。瓦礫の荒野に人影があった。 「え……?何だ、アンタか……」 どれだけあるかすら知れないがらくたの山を掘り返していたのはねねねだった。 一瞬何かを期待するような目をしたが、そこにいたのがギルガメッシュだと気付くと露骨に落胆の色を見せる。 「随分だな綴り手よ。何をしている」 「……別に、何でもない。ちょっとした時間潰し」 はぐらかそうとしても無駄だ。大方死んだ者の形見でも探しているのだろう。 この大怪球は、そのものが王ドロボウの墓標である。 「……雑種の考えることは分からんな。まぁ良い、我も貴様を探しておったところだ」 「アンタがあたしを……?一体なんで」 手を止め初めて訝しげにするねねねに、ギルガメッシュは持っていたものを掲げて見せる。 『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』と題された、それは一篇の小説だ。 意外な物を見たと言うように、ねねねの目が細まった。 「読んだが中々に楽しむことができた。急造の感は否めぬが貫かれた揺るがぬ意志は我が認めよう。 よりにもよって聖杯なぞのために書かれた稀代の珍品、我が材に加える価値は十分にあろうよ」 「あ、いや、何か誉められてるのかどうか良く分かんないけど……まぁ、楽しんでもらえたなら良かったよ」 自作が舞い戻ってきたのが意外なのかそれともギルガメッシュの好評を受け止めきれないのか。 多少しどろもどろになりながらねねねが眼鏡の縁を直す。 「……何ならサインでもしようか?」 整理が付いたのか冗談めかして言ってきた。 ギルガメッシュは即答する。 「うむ。ならば署名を許す」 「うぇ!?」 今度こそ予想だにしていなかったようなこんがらがった反応が返ってきた。 無礼千万である。しかし、ギルガメッシュは眉を寄せるのではなく口を上げることでそれに答えた。 「どうした?まさか我が冗談も解さぬ朴念仁だとでも思ったか?」 「あぁほんとそう……あ~いや……何でもない」 はぐらかされた先は寛大な心で聞かなかったことにし、ギルガメッシュは質の悪い紙に記された原稿を手渡す。 ついぞ見せたことのないその素直な動作がまた意外だったのか、慣れた手付きでペンを走らせながらもその目はどこか違うところを見ていた。 「英雄王サマがあたしの読者、とはね……」 困惑混じりの呟きは、どこか楽しんでいるようでもあった。 【ギルガメッシュ@Fate/stay night―――――――――――――――生還】 【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)――――――――――――――――生還】 ◇ 再び無為な作業に戻ったねねねをよそに、ギルガメッシュは風がその身をなぜるに任せる。 度重なる戦闘の結果、気流が発生しているのだろう。頬をくすぐる生暖かさは不快ではなかった。 此度の戦い、王の余興とするにはあまりにその器は小さかった。 王が得たものは何もなく。 失ったものもまた何一つない。 それでも、輝くものならあったか。 いずれ、ギルガメッシュの在り方は何も変わらない。生者も死者もその全てを受け止め、この世の中心たる英雄は生きていく。 『King』 すっかり手に馴染んだデバイスが合成音を鳴らす。 ギルガメッシュも同じタイミングで気付いた。遮るもののない荒野であるはずが、不思議と今になるまでそれを認識していなかった。 ねねねも気付いたようで、作業を止め近づく。 そして、それが何であるか理解すると同時に、ばたりと崩れ落ちた。 「あ……あぁ……」 一体の、粗末なつくりのかかしだった。 折れた木材や奇怪に曲がった鉄骨。このような場所では今まで顧みる者もいなかっただろう。 有り合わせの材料で作られたと一目で知れるそれは、人の形と判断するのも困難なでき損ないである。 が、それを風雨から守るように着せられた一着の衣服は、紛れもなく人間のもの。 「信じらんない、夢でも見てるみたい……ほんとアイツは……」 風に揺らればたばたとはためく薄汚れた黄色いコートは見慣れた、不敵な少年の愛用品。 胸元に垂れ下がった木のプレートには、王ドロボウの精神を具現化したような派手な色使いでデザイン化された人間の顔が、歯を剥き出しにして笑っていた。 「生きてるんなら生きてるって言えばいいのにさ……ジン」 まなじりをこするねねね。土に汚れた顔は歓喜に歪んでいた。 しかし、ギルガメッシュの真眼を誤魔化すことはできない。 コートの下半分を染め上げるように撒かれた血は尋常な量ではなかった。 仮にあの爆発を生きおおせたとしても、その後生きていられる道理はないのだ。 何よりもギルガメッシュが死んだと判断した。王の決定を覆すことなど、何者にもできはしない。 所詮、末期の一時を手に入れた王ドロボウの、最後の悪ふざけに過ぎない。 「現実逃避も大概にせよ。奴が生きているはずなど……」 ふと、違和感が襲った。 「ん?」 英雄王とも思えぬ疑問の表情で胸元を探る。 黄金の鎧を模した装束の中に、何かがある。 これまで何も感じなかったのが不思議だった。差し込んだ手をごそごそと動かす。 一枚の紙切れが出てきた。 「領収書」と銘打たれた紙面には、次のような文言が簡潔に記されていた。 『威張りくさった"王の財宝"頂きます。 HO! HO! HO! 起きぬけの王ドロボウ』 ギルガメッシュの世界が、ぴしりと音を立てて止まった。 ──じゃあその前にあんたの財宝を盗んで、目の前からオサラバさせてもらおうかな。 そう、奴は最初から言っていたではないか。 「ククク……クはははははは……!」 鍵剣はなくなっていた。 王ドロボウが一度返した物を二度と盗まないと何故言える。 恭しく鏡を差し出してみせたその裏で、悪戯の舌を出していたのではないか。 慢心さえも盗んで見せた男が、英雄王の目を盗めないなどということがあろうか。 「………………………………………………………………………………ククククク。 ふふふはははははは……………………フハハハハハハハハハハ………………… アーッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハ!!! 王ドロボウめ、我の宝物庫を丸ごと盗みおった!! クックク……見事だ。見事という他あるまい。あそこにはこの世の全てが詰まっておるのだぞ? クク、貴様などに扱いきれぬ程のありとあらゆる財宝がなぁ。まったく、貴様は一体どこまで我を虚仮にすれば気が済むのだ? この我を出し抜いてよもやただで済むとは思っておるまいなぁ? 本来なら、貴様がどこまで逃げようとこの我が直々にその小癪な頭蓋を叩き潰してくれるところだ。 だが良かろう!!敢えてこの我が許そうではないか!! かの聖杯を引っくり返したところで、貴様のような大馬鹿者は一人とておらんだろうよ! 領収書は王の名において確かに受け取った。宝物庫の一つや二つ、持っていくが良い!! ハーハッハッハハッハッハハッハッハッハッハッハッハッ………………………………!」 哄笑。 ぴたりと、一時の静止。 そして。 「…………………………なぁどと言うと思ったかあぁっ!!!?」 ギルガメッシュは激怒した。 【ジン@王ドロボウJING――――――――――――HO! HO! HO!】 ◇ 長いようで短かった一日が終わりを告げた。 安らかに眠る娘の寝顔にふっと頬を緩ませて、ヴィラルはずれた毛布をかけなおす。 昼間はあれだけやんちゃをしていたのに、寝てしまえば大人しいものだ。 ヴィラルは自室に戻ると、樫で作られた上質な安楽椅子にゆったりと身を任せる。 開け放たれた窓の外は夜の帳にすっぽりと覆われていた。風が運ぶリナリアの香りが心地好い。 季節が巡れば耳を楽しませてくれる虫たちも姿を見せるだろう。 その前に夏がくる。照れ臭いので口に出したことはないが、少し先の小川で蛍が無数に飛び交う幻想的な光景が、ヴィラルは好きだった。 時間はゆっくりと流れていく。焦ることはない、戦いは終わったのだから。 「ん……何を言ってるんだ、俺は」 戦いに明け暮れた闘争の日々はとうの昔に終わっている。もう正確な年月も分からない、遠い昔だ。 なのに何故、まるでたった今まで戦い続けていたような気になっているのだろう。 そういえば、自分たち家族はいつ頃からここに住み始めたのだったか。 そもそも、ここはどこなのだろう。 ――ヴィラルさん、起きてるんですか? 扉越しに聞こえたシャマルの声がヴィラルのはっと意識を取り戻した。 「あ、ああ……シャマルか。そろそろ寝ようと思っていたところだ」 ――そうですか。風邪を引かないようにしてくださいね。 愛しい妻の声にヴィラルはあいまいに気遣いを返す。 気付けば、妙な気分はすっかりどこかへ消えてしまっていた。 悪い夢、のようなものだったのだろう。 ――おやすみなさい。ヴィラルさん。ずっと一緒にいましょうね。 おやすみと、言った声には明瞭さが取り戻されていた。 遠ざかっていくシャマルの気配に、ヴィラルは初夏の風にも似た爽やかな幸福を得る。 「俺は今、幸せだ」 この世界の誰よりも。 敢えて声に出してそう言った。 柔らかな毛布に身を沈め、ゆっくりと目を閉じる。 明日も、その先も、ずっとこんな穏やかな日々が続いていくのだろう。 ひどく満ち足りた気持ちになった。 眠りに落ちるさなか、ヴィラルは何か大きな存在に笑いかけられたような気がした。 【ヴィラル@天元突破グレンラガン――――――――――――――HAPPY END】 ◇ 【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師――――――――――――――――――――――――――――死亡】 【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!―――――――――――――――――――――――――死亡】 【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム――――――――――――――――――――――――死亡】 【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS―――――――――――――――――――――――死亡】 【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム――――――――――――――――――――――――――――死亡】 【カミナ@天元突破グレンラガン―――――――――――――――――――――――――――――死亡】 【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン――――――――――――――――――――――――死亡】 【チミルフ@天元突破グレンラガン――――――――――――――――――――――――――――死亡】 【不動のグアーム@天元突破グレンラガン―――――――――――――――――――――――――死亡】 【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン――――――――――――――――――――――――死亡】 【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン―――――――――――――――――――――――死亡】 【螺旋王ロージェノム@天元突破グレンラガン―――――――――――――――――――――――死亡】 【フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS―――――――――――――――――――――死亡】 【クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS feauturing 天元突破グレンラガン――死亡】 ◇ 【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd―――――――――――――完】 時系列順に読む Back HAPPY END(20) Next 「紙は我らの天にあり。なべてこの世は事も無し」 投下順に読む Back HAPPY END(20) Next 「紙は我らの天にあり。なべてこの世は事も無し」 285 HAPPY END(20) ヴィラル 289 メビウスの輪から抜け出せなくて 285 HAPPY END(20) シャマル 285 HAPPY END(20) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(20) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(20) 菫川ねねね 286 「紙は我らの天にあり。なべてこの世は事も無し」 285 HAPPY END(20) スパイク・スピーゲル 287 ソング・フォー・スウィミング・バード 285 HAPPY END(20) 鴇羽舞衣 292 未定 285 HAPPY END(20) 小早川ゆたか 292 未定 285 HAPPY END(20) ジン 285 HAPPY END(20) ギルガメッシュ 288 それが我の名だ~actress again 285 HAPPY END(20) カミナ 285 HAPPY END(20) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(20) 東方不敗 285 HAPPY END(20) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(20) ルルーシュ・ランペルージ 293 LAST CODE ~ゼロの魔王~ 285 HAPPY END(20) チミルフ 285 HAPPY END(20) 不動のグアーム 285 HAPPY END(20) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(20) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(20) 螺旋王ロージェノム 285 HAPPY END(20) アンチ=スパイラル
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HAPPY END(8)◆ANI2to4ndE ◇ チミルフが何かが違う、と思い始めたのは戦いが始まってから数分が経過してからだった。 「グ――!?」 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」 燐光を放つビームを掻い潜りながら、灼熱の巨龍が炎の弾丸を口蓋から吐き出した。 大きさは直径二メートル程度。 普通の人間ならば、一発でも食らえばすぐさまその身を焼き尽くされてしまうだろう。 ビャコウの強化装甲に関しても過信は出来ない。 一発は大地を駆け抜けることで躱し、一発は十字槍で切り裂く。 そして最後の一発に対して回避運動を―― 「ちぃいいっ!!」 鴇羽舞衣の使役するチャイルド、カグツチの放った大火球がビャコウの左の腕部に直撃したのである。 チミルフは堪らず、コクピットの中で苦悶の表情を浮かべる。 これで、カグツチの攻撃を被弾するのは三回目だった。 左腕、胴体、そして再度左腕。 大して錬度の高い炎ではないため、一発で装甲が融解し爆発するまでとはいかないが、 あと一撃でも直撃した場合は、おそらくこちら側は切り離す必要があるだろう。 「コンデムブレイズッ!」 十字槍からビームを発射し、遥か上空を飛翔するカグツチに向けて発射する。 だが、未だにチミルフの攻撃は一発も命中していなかった。 紅蓮の翼で大空を翔け回るカグツチの機動性が非常に高いという点を考慮しても、これは異常な事態だ。 戦闘開始直後はこちらが握っていたはずの勢いも完全に向こうの手中。 確かに、本来の実力を発揮すればカグツチは単体での大気圏突入を可能とするような図抜けた能力を持つ相手だ。 だが、まさかここまでいいようにやられるとはチミルフ自身は思っていなかったのである。 「ッ……ぐぁあぁっ!!」 レーザー状の熱線にビャコウの左のショルダーアーマーが切断される。 収束度を増した強力な一撃である。運用自体に問題はないが、これでビャコウは相当に情けない風貌になってしまった。 天秤の傾き具合はすっかり変わってしまっていた。 つまりチミルフが苦しくなったということはその逆、舞衣達が楽になったという事実に繋がる訳だ。 火球ではなく、ブレスと呼ぶ方が相応しいだろうか。 牽制の意味合いではなく、確固たる意志を持って敵はチミルフを仕留めに掛かっていた。 ――どうなって、いる? チミルフがビャコウを駆り、この空間で行った戦闘はこれで二戦目である。 一回目はパニッシャーを装備したニコラス・D・ウルフウッドとの戦いだ。 そう、彼が「何故か」ロージェノムを主君であると認識していた時期の出来事である。 しかし、あの時出来たはずの動作が今の彼には出来なくなっていた。 具体的に言うならば、戦士としての直感に起因する槍捌きや身のこなしについてだ。 ビャコウを今の彼は百パーセントの力で操ることが出来ているはずだった。それなのに、である。 そうだ、今こそが完全な姿なのだ。 なぜなら、チミルフはルルーシュという真の〝王〟との再会を果たし、真の忠義を誓った。 「武人」とは仕えるべきたった一人の主君のためならば、容易く己を捨て去ることの出来る気高き闘士なのだから。 では、何だというのだろうか。 まさか、体調が本調子ではないとでも? 機体の整備に不備が? もしくは、慣れない夜間の戦闘が影響しているのだろうか。 操縦桿を握り締めるチミルフの剛毛と分厚い筋肉に覆われた腕が震えた。 身体の奥深く、深遠の淵から押し寄せる衝動にチミルフは焼かれ、己を鼓舞する。 「俺は……絶対に負ける訳にはいかんのだ……!」 空と陸。 大空の覇者と翼を持たぬ者。 両者の間にはどう足掻いたとしても埋めることの出来ない空白が広がっている。 ここは起死回生の一手が必要だ。 このまま、手を拱いてコンデムブレイズによる牽制を続けても全く埒が明かない。 が、手はある――アルカイドグレイヴだ。 ビームを発生させた十字槍を突き刺し攻撃するビャコウの奥の手である。 遠距離からの攻撃が当たらないのならば、接近して仕留めるまで。 だが、問題は大空を舞うカグツチにインファイトを挑むことは非常に困難であるという点だ。 一度、こちらに相手の注意を惹き付ける必要がある。 ルルーシュにヴィラルとシャマル、そしてグレンラガンの回収を命じられたチミルフはこんな場所で躓いている訳にはならない。 ましてや、敗北することなどあってはならないのである。 何か、打開策は―― 「む……ッ!?」 耳触りなノイズがコクピットのレーダーから響いた。 すぐさま反応の原因を調べると、どうやら周囲に他のニンゲンが潜んでいる気配を感知したらしい。 廃ビルを襲撃した時点では、何人生き残りがいるのか定かではなかった。 最大で十人の参加者が周囲でこちら側の戦力と交戦しているとも考えられたのだ。 今回レーダーがその存在を確認したのは三人。 周囲の地図の縮尺を操作すると、紅の光点が三つ、多少離れてはいるが丘陵地帯に燈っている。 廃ビルとの位置関係から察するに、襲撃から逃げ果せた他の参加者と見て間違いないだろう。 その時、チミルフの脳裏にふと一つ妙案とも呼べる作戦が思い浮かんだ。 つまり、これは使えるのではないか、と。 このニンゲン達を先に確保し、人質とすればおそらくカグツチは―― 「な――お、俺は……!?」 ピタリとビャコウを操っていたチミルフの動作が静止した。 瞬間、彼の身体を駆け巡るのは酷い不快感を伴った驚愕の感情だった。 息を呑み、機体が駆動する音だけが彼の中へと浸透していく。 夜の闇と月の光に照らされ、孤独を噛み締める男は大きく眼を見開き、天を仰いだ。 ――それは、訪れるべくして訪れた衝撃だ。 目的を達成するために、人質を取るというプランは確かに非常に効果的かもしれない。 そもそもルルーシュ本人が脅迫や恫喝のカードとして、拉致や拘束を行うことを忌避しない人物である。 故にルルーシュからギアスを掛けられたチミルフが、その流儀や信念に勝手に影響を受けてしまう可能性は十分に考えられた訳だ。 主君の願いを遵守し、意志を叶えるべく行動することこそを武人の誇りと考える彼にとって、 「ルルーシュ・ランペルージ」という人物が好んで用いる戦略こそがある種の理想とも成りえるからだ。 カグツチに勝てないのならば、勝機を見出すために他の要因に縋るのは実に合理的だ。 相手はいかに強大な力を有していたとしても、あくまで少女。 付け入る隙は簡単に見つけられるだろう。闇雲に射撃を行いエネルギーを消耗するよりも余程マシだ。 だが、 「俺は……何を、考え――うがぁああああああああっ!! ッ……ガッ、グゥウウウウウ!!!」 本来の彼は――決して、そのような卑劣な真似に手を染めることなどない高潔な獣人なのだ。 巨龍の吐き出す紅蓮の輝きにも似た色へとチミルフの瞳が染まった。 チミルフの中で二つの意志が鬩ぎ合っていた。 ギアスの力に捉われたものは決してその力に抗うことは出来ない。 むしろ、こうして自身の行動に疑問を持っている――その一点においてでさえ賛美に値するのだ。 「グッ……俺の仕えるべき……主君は……グ――」 頭を抱え、チミルフは激しく身体を捩った。 荒々しく吐き出される息と上下する肩。更に震えを増す豪腕にミシミシと操縦機器が悲鳴を上げる。 何が間違っているのかなど、彼には分からなかった。 彼が目指したものは一体どこに繋がっているのか。 何かが違う。 だが、これは自分が越えてはならぬ一線だ――そんな風に思ったりもする。 「ガァアアアアアアアアアアア!」 そして、チミルフは――吼えた。 彼はケモノであり、そしてニンゲンでもある獣人という曖昧な存在だ。 この一瞬だけは、その雄叫びは「理性」という〝知〟を司る分野から乖離した野生の毛色を帯びていた。 結果として、チミルフは一瞬であったとしても、 武人としての流儀に真っ向から反する考えを浮かべてしまった己に強い羞恥心を覚えた。 そう、ニンゲンを人質に取り、不利な状況を覆そうという発想こそが忌むべきモノだ。 勝利のために誇りをも捨て、恥や外聞を投げ捨てて外道に走るなど、武人として在り得ない行動だ。 そして、湧き上がる自身への失望。 人質などに頼らなくてはならない程、「怒涛」の二つ名を持った戦士はちっぽけな存在だったのか。 そのような形で戦士としての矜持を散らしてもいいのか。 結果として起こるのは二つの意志の衝突だった。 ギアスの力によってルルーシュの傀儡と化した男と、武人として死ぬまで忠義を貫き通す漢。 相反するそれらの二つの理性がチミルフの中には在り、この瞬間――真っ向からぶつかり合った。 「はぁっ…………はぁっ……っ!!」 疲労困憊といった様子で、チミルフはただただ息を吐き出した。 滲み出した汗が身体を濡らし、モニター越しでも光を失わない月が輝きを増す。 必死に、必死に、チミルフは心を落ち着かせようとした。 息を吐いて、吸って、また吐いて。 深呼吸を繰り返し、自分自身という存在をもう一度確認しなおそうとした。 だが――もはやそのような行為を〝戦闘中〟に行った時点で、 彼は戦士として、正しい道から足を踏み外してしまっていたのだ。 「な――――っ!?」 ◇ 「舞衣ちゃんっ!」 ゆたかはキュッ、と舞衣の衣服の端を掴む手に力を込めた。 返ってくるのは暖かい鼓動と、胸の奥からとろけてしまいそうになる不思議な衝動だった。 心に溜まっていた想いを全てぶちまけたおかげだろうか。 二人の間には何も障害なんてないようにゆたかは感じていた。 「分かってるわ、ゆたかっ!」 ゆたかを抱き抱えた舞衣がカグツチの頭を蹴って音もなく、飛翔した。 戦いに関する勘や知識などがゆたかにはまるで存在しない。 故に彼女の側から舞衣へ何かをアドバイスしたりといった具体的な支援は出来ないはずだった。 しかし、今、この瞬間、二人の少女の心は完全に通じ合っていた。 だから、分かるのだ。相手が何を考え、今何を言おうとしているのかも全部! 橙色の鎧のようなバリアジャケットを展開した舞衣が、高度数百メートルの地点から大地を見下ろしているカグツチから少しだけ距離を取った。 舞衣の持つ環状のエレメントには強力な防御能力が存在するが、それも過度の期待は禁物である。 これから発射される最強の砲撃の余波がどの程度のモノか、二人にも予測は出来なかった。 「さぁ行くわよ……カグツチ」 「頑張って、カグツチっ!」 「――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」 二人の主にその名を呼ばれ、カグツチが猛々しい雄叫びを上げた。 それは明日の未来を掴み取るための輝かしい希望に満ちた咆哮だ。 ゆたかの、舞衣の願いがカグツチの中で揺らめく天壌の劫火へと姿を変える。 炎の色は、龍の放つ光の色は、思わず息を呑んでしまうような黄金だ。 憎しみと絶望の螺旋に囚われ、負の感情を爆発させてしまった時とは違う。 カグツチの肺の奥から強大なエネルギーが紅蓮の煌きとなってゆっくりと食管を通り、上昇していく。 そしてその輝きに伴い、舞衣の身体の周囲に紅の光が満ちる。 帯状の鮮火、飛び散る火の粉、血潮のように噴出すプロミネンス。 「カグツチの身体が……っ!」 ゆたかは感嘆の吐露を漏らした。 特別な力など何も持たないゆたかにさえ、目の前の龍の身体に凄まじい力が集められていることを悟ったのだ。 カグツチが見据える敵は眼下の白い機体。 そう、先ほどまで二人を苦しめていた相手――猛将・チミルフの駆るビャコウ。 しかし、迫り来るビームの嵐は止み、ビャコウは今や完全に立ち止まってしまっている。 ロボットがどこか故障してしまったのだろうか。 だとしたらソレは致命傷だ。 戦っている最中に足を止めてしまうなんて、攻撃して下さいと言っているようなモノなのだから。 ゆたかの胸の奥にはグルグルと渦を巻く激しい感覚が眠っていた。 それは「絶対に負けたくない」という強い強い想いだ。 『螺旋力』という力が、実際どれだけゆたか自身に影響を及ぼしているのかはよく分からない。 それでも、そんな「人間」という種族としての力ではなくて、 〝小早川ゆたか〟という一つの存在としての力が遥か未来へと繋がる萌芽になっているような気がしていた。 「ゆたか、しっかり掴まっていて!」 「う、うん」 集中力を高めた舞衣がゆたかに強い口調で言った。 ゆたかは舞衣の首の後ろに両手を回して、もっともっと身体を密着させる。 薄い布を通して伝わって来る温もりがじんわりと広がっていく。 耳の奥、後頭部の辺りに疼きにも似た不思議な感覚が芽生える。 そして――浸透。 触れ合う舞衣の感触だけがゆたかの中へと流れ込んでくる。 舞衣とゆたかは別の人間なのに、脈打つ鼓動は一つだけ。 二人の心は完全に一緒になっていた。 ……あったかい。 「いくよ、ゆたか」 「……うん」 投げ掛けられる優しい声。 「ね。全部、終わったらさ。どこかに二人で遊びに行かない?」 「あ……それ凄く楽しそうです」 「でしょ」 世界の歯車がゆっくりと回り始める。 「……あ、ま、舞衣ちゃん」 「え?」 「身体、震えてる」 思わず、ゆたかは舞衣の首に回した腕にギュッと力を込めた。 二つの心臓が触れ合う。 トクン、トクンという音のテンポが次第に一つのはっきりとした鼓動へと変わる。 ドクン、ドクン、と。 力強く、だけど優しく。 ゆたかは眼を閉じて舞衣を抱き締めた。 この一撃が、きっと相手の命を奪ってしまう――きっと舞衣はそう考えている。 全て振り切ったように見せていたとしても、それは演技に決まっている。 人を一人殺す度に心も一緒に死んで行くのだ。 綺麗事や正義を振り翳すつもりはない。 全ての罪を意識して生きて行く。 前に進むためには、いくつもの屍を越えて行かなければならない。 だから、二人で戦うと決めた時から、 その苦しみはゆたかと舞衣、二人で背負わなければならないと悟っていた。 「大丈夫だよ」 「……ゆたか」 「大丈夫、だから」 「……うん」 こくり、と舞衣が頷いた。 舞衣の震えがピタリ、と止まった。全ての準備は整った。 そして、スゥッと息を吸い込み、二人の少女は――叫んだ。 「「カグツチィィイイイイイイイイッ!!!」」 終末の色は紅。煌々と燃える紅蓮に、夜空が赤く染まる。 その時、ようやく動きを止めていたビャコウに反応があった。 まるで何かに憑り付かれていたかのように、緩慢な動きで白い機体が天を見上げた。 男の視界に映ったモノは何だったのだろうか。 己の終焉を悟った諦めか、それとも最後まで抗う線香花火のような輝きか。 迫るは太古の龍王の口から吐き出される超高温のレーザーの如き波動。 そして――カグツチの放った〝天壌の劫火〟がビャコウに直撃した。 ◇ 「ギガ……ドォリル……ブレイクウウウウゥゥゥ!!」 右腕を振り上げドリルとなし、その身までも一本の巨大な螺旋となるほどのエネルギーを集めグレンラガンが必殺の突撃を行う。 牽制として放ったのは決まれば絶対の束縛となるグレンブーメランだ。 グレンラガンの胸部にサングラスを思わせる形で収められていたそれが鋭利な刃物となってアルティメットガンダムに迫る。 「ならばこちらも!超級!覇王!電影だぁぁぁぁぁぁぁん!!」 必殺の一撃を座して受けるドモンではない。対とするように同じく全身をフル回転させ竜巻のように膨大な突進力を得る。 生身でさえグレンラガンの猛攻を阻んだ奥義が比べ物にならない程の巨体によって生み出され、巻き起こされた爆風が壁となりブーメランを弾き飛ばした。 輝ける二つの光が相競うよう突撃し――意固地なまでに真正面からぶつかりあった。 「く、ぐおおおおおおおお!!」 「ぬ、がああああああああ!!」 火花散り紫電舞い飛ぶ力比べもほんの数瞬。 僅かにずれた切っ先を決起に両者の激突は交錯に変わり纏っていたエネルギーが霧散する。 互いに傷をつけることは叶わず、一瞬遅れて周囲に無数の爆発だけが巻き起こった。 「埒があかんか……!」 「ならばっ!」 同時に大地を踏み締め、同時に双方の健在を知った二人は全く同じタイミングで確信する。 今こそ、決着のとき。 「一気に決めるぞシャマル!」 「はい!」 「あれで行く……気合いをいれろおおおおおおお!!」 「私達の、全力全開!!」 再び、グレンラガンがドリルを展開する。 だが、その力強さ、雄々しく聳え立つドリルの勇ましい輝きは無効に終わった先の一撃の比ではない。 溢れんばかりの緑青の光を支えるように桃色の光がそっと寄り添い高みへと、遥かな高みへと導いていく。 その力はまさしく天元突破。 恒星の如く悠久の時を越えて煌めく、至高の感情の結晶である。 「見事な力だ……惚れ惚れしそうなくらいにな……だがな!」 創世の光を前に一歩たりとも退かぬのはキングオブハート。 最強の技を迎え撃つべく不敵に笑い、力強く右手を構える。 「俺のこの手が光って唸るのさぁっ!レインが!シュバルツが!師匠が!仲間達が教えてくれた勝利を掴めってなぁっ!!」 数えきれぬ戦いを潜り抜けた黄金の指の裏でシャッフルの紋章が光を放つ。 アルティメットガンダムもまた同じ金の輝きにその身を染め上げ、放たれた裂帛の気合いが砂塵の大地を叩き割った。 勝負は一撃。 「行くぞぉ!!」 「行くぞぉ!!」 「ギガァァァァァァァァァァァアアアア!!」 「流派!東方不敗は王者の風ぇぇぇ……!!」 「ラァァァァァァァアアアアブラブゥゥ!!」 「フゥルパワァァァァァアアアアアアア!!」 「ドリル!!ブレイクゥゥゥウウウッッ!!」 「石破!!天驚けぇぇぇええええんッッ!!」 激突が、宇宙を揺らした。 ◇ 「何だよこいつは……」 崩壊した建物の残骸を更に根底から抉りとる程の衝撃と、直視するだけで視覚を焼き切られる程の極光の中でそれでも踏ん張る男がいた。 カミナである。 「こいつぁ……」 息をすれば肺が焦げる気さえする熱波を吹き付けられようとも、カミナが後退を選ぶことはない。 風に舞い為すすべもなく鉄の壁に叩きつけられようと、這ってずって、また立ち上がる。 「こいつぁよぉ……!」 退けぬ訳があった。 意地と威勢だけで生き延びてきた男を繋ぎ止めるだけの何かがあった。 死んでも最後を見届けたいと思える戦いが、そこにあった。 「すげぇじゃねか!」 見開かれた両目が見るものは、何か。 ◇ 限界をとうに越えた運用にグレンの搭乗席で小規模な爆発が起こった。 「きゃあ!」 「くっ!こらえろシャマル!あと少しだあああああああ!!」 退くことも避けることも知らぬ戦いはいつ果てるとも知れない。 だが、終焉は確実に近づきつつあった。 「ぐぅ……なんというパワーだ!!」 アルティメットガンダムの装甲が捲り上がり、融解していく。再生力を越える痛みにドモンが歯を食い縛る。 勝利は我にありと、ヴィラルが確信を強め尚も力を加えようと喉を裂く。 「当然だ!!これは俺とシャマルの愛の力っ!!例えお前といえども、いいや誰であろうと!! 止めることなどできんのだああああああああああああああああああああああああああああ!!」 更に膨れ上がるグレンラガンの力に、緑の光はまたたく間に金色の巨体を飲み込むかに思われた。 しかし、愛を知るのは獣人の戦士ばかりではない。 「俺の……」 グレンラガンが押し戻される。 「何っ!?」 「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!『幸せ掴め』と轟き叫ぶぅ!今爆熱するのは、レインとこの俺ぇっ!!」 輝きを取り戻した黄金の力が再び均衡状態を形作った。 獣人の目が驚愕に見開かれ、対するドモンは言葉を放つ。 絶対に曲げられぬ意志を込めて。 「言ったはずだぞヴィラル……俺は、レインが好きだとなあああああああああ!!」 「ほざけえええええええええ!!」 『おおおおおおおおおおおおおおおおおお おおおおおおおおおおおおおおおおおお おおおおおおおおおおおおおおお!!!』 ぶつかり合う意志の中央で一際大きい爆発が起こり、そして勝負が決した。 ◇ 「終わった、のかな」 「多分……そうだと思います」 カグツチから降りた舞衣はずっと抱き抱えたままだったゆたかをそっと地面へと下ろした。 腕に掛かっていた微かな重量と彼女の体温が離れていく感覚が少しだけ寂しかった。 「……舞衣ちゃん? どうかしたの」 「う、ううん! な、なんでもないっ」 首を傾げたゆたかに舞衣は慌ててその場を取り繕った。 そしてああ、そんな気分になるのがおかしいのだ、と上気した頬を掌で軽く扇ぐ。 暗闇と瓦礫の世界の中で、煌々と燃えていく白い機体だけがクッキリとその輪郭を露にしていた。 舞衣はキョロキョロと辺りを見回しながら、ホッと胸を撫で下ろした。 ――確かに、ビャコウにはカグツチのブレスが直撃したはずだ。 地面に降りて確認してみた所、どう見てもビャコウは大破している。 火球で爆破した肩の鎧などだけでなく、二つある顔(ビャコウは胴体にも顔が付いているロボットだった)はどちらも完全にその形を失っていた。 「……あっ……、ま、舞衣ちゃん!」 「どうしたの、ゆた――っ!?」 ゆたかが指差した方向に眼を向けた舞衣は思わず身構えた。 「グゥッ……ッ!」 燃え盛る炎の向こうから現れたのは――未だ健在のチミルフだった。 だが、もちろん無傷という訳ではない。 身体に纏っていたであろう鎧は所々が焼け焦げ、特に肩部から完全に炭化している左腕は「悲惨」の一言である。 肉の焼ける焦げ臭い匂いを漂わせながら幽鬼のような足取りでチミルフはよろめいた。 爆炎を背負い苦悶の表情を浮かべつつも、右手に握り締めた鉄槌が彼の戦意が朽ち果てていないことを示していた。 だが同時に囚人の足鉄球のように引き摺る鉄と地面が擦れ合う音こそが、彼の満身創痍を証明している、と考えることも出来るだろう。 「ゆたか。下がっていて」 「……舞衣ちゃん」 「大丈夫。絶対に……大丈夫だから」 不安げな眼差しで見上げるゆたかの頭を軽く撫でつつ、舞衣は気丈に言い放った。 そして一度消滅させたエレメントを再び具現化させる。 両手首・両手足の周囲に惑星のリングのように展開される金環が音もなく回転を始めた。 ギリィッ、と舞衣は下唇を噛み締めた。 そうだ、相手はわざわざ殺し合いの途中から参戦してくるような人物だ。 こちらが一筋縄で圧倒出来るなんて、あまりに楽観的な見通しだったのだ。 「ッ……」 隣のゆたかがごくり、と息を呑む音が聞こえたような気がした。 その表情に浮かび上がった色は〝驚愕〟と〝怯え〟だ。 舞衣にもその心情は痛いほどよく分かる。そもそも――チミルフは人ではなかったのだから。 螺旋王は確かに部下を途中から舞台に上げると言った。 だが、まさかこのような〝獣〟の姿をしたモノが殺し合いに加わっているとは夢にも思わなかった。 ロボットを操っているから、人語を話すから。 そんな理由で舞衣はてっきり相手はロージェノムと同じ人間だと思っていたのだ。 二メートル近い巨体。隆々とした筋肉と全身を覆う剛毛。 低く豚のような鼻に豪快な足音。 そして――ルビーのように煌々と光る赤い瞳。 「来て、カグツ――」 「……待て。鴇羽……舞衣……」 「え?」 チミルフの口から吐き出された静止の言葉に舞衣は思わず言い淀んだ。 「もう、終わりだ……ッ……」 「お、わり?」 「そうだ、グッ…………!」 言葉と共にチミルフの膝が折れた。ガクッと片膝を付き、息を荒げる。 終わり……もう、限界ということか? 確かに、チミルフの身体には相当なダメージが蓄積しているようだ。 完全に燃え尽きた左腕などその最たる例だろう。 「完敗だ……ッ、だが……貴様らのような子供を前に膝を付くことになろうとは……な」 自嘲気味にチミルフが呟いた。 鉄槌を右手に持ったままなので、戦意が喪失した訳ではないなのだろう。 単純に身体がその意志に付いて行かない、だけなのかもしれない。 「……どうして、ですか」 「な、に?」 その時、舞衣の背後のゆたかが小さな声でチミルフに問い掛けた。 「なんで……戦いの最中に立ち止まったりしたんですか……?」 「ソレは……ッ!」 チミルフの苦虫を噛み潰したような顔付きが更に歪んだ。 触れられたくない部分だったのだろうか。 だが、ゆたかの覚えた疑問は同様に舞衣も感じたモノだ。 戦闘の主導権をこちら側が握った直後、ビャコウが突如動きを停止したのだから。普通では考えられない行動だ。 「わたしには……戦いのことはよく分かりません。 でもチミルフさんは〝武人〟だって……聞きました。だから、その、凄く変だと思ったんです。 本気で戦っていないとか、手を抜いている……とは違った……妙な感じがずっとあって……」 たどたどしい口調でゆたかが続ける。 「チミルフさんは……どうして……戦うんですか? わたし達を襲って来たってことは、ロージェノムさんの命令だと思うんですが……でも」 確かにチミルフの行動には不可解な点が数多く見られた。 それは、言ってしまえばある種の二面性だ。 ある時は強くて、ある時は弱い。 ある時は熱くて、ある時は冷たい。 ある時は心の込められた戦い方をするのに、またある時は極めて無機質で。 彼の中に二人の彼がいて、それが交互に顔を出しているような不思議な感覚だった。 舞衣の中にも〝ソレ〟と似たような記憶があった。 一面の炎と、涙と、怨恨。 もちろん、曖昧で根拠のない想いではあるのだけど。 「くくくくくく……ハハハハハハッハハハ!」 言葉を切ったゆたかを見据えたチミルフが突如、凄まじい大声で嗤った。 舞衣達は飛び上がってしまいたくなる衝動を必死に抑える。 身体が大きいだけあって、その声量も圧倒的だった。 「小娘共よ。最後に、一つだけ……聞こう」 チミルフが小さく、言葉を切った。そして、 「――俺は、手強い相手と言えたか?」 「え……っ!」 「俺は……貴様達を存分に沸き立たせるだけの戦いが出来たか? 貴様達は何を……感じた? 何を思った……? そこに武人としての生き様は……あったか?」 舞衣とゆたかは、チミルフの言葉に思わず顔を見合わせた。 二人とも、胸に過ぎった感想は同じだった。 相手が本気だから、鬼気迫るような迫力が伝わって来るからこそ、辛いのだ。 何かに一生懸命になっている相手を無碍に扱っても、お互いが傷つくだけなのだから。 それが、チミルフにとって残酷な宣告になると確信していた。 悟ってしまっていた。だが、 「言えっ!! 貴様達はどう感じたのだ……ッ!?」 「う……」 そんな甘えを目前の猛将は決して許さなかった。 評価しろ、と。 感じたことを言ってみろ、と。 二人の少女に強要――いや、懇願したのだ。 そこに、戦士としての誇りが在ったかどうかを確かめるために。 ゆっくりと、舞衣が口を開く。 「…………正直、やられちゃう……とは一度も思わなかったわ。少なくとも、負ける気はしなかった」 「……そうか」 チミルフはそう呟くと、膝を付いたまま天を見上げ、遠い眼で空の彼方を見つめた。 でも、どうしていきなり立ち止まったりなんか…… ハッキリ言ってしまえば舞衣はチミルフに負ける訳がない、と感じていた。 そしてソレは単純な慢心や自己の実力の過剰などではなく、半ば感覚的なモノとして嚥下出来る感想だった。 大きな理由の一つとして、ゆたかが「一緒に戦う」と言ってくれたことが大きかった。 舞衣は、自身の〝叫び〟をその胸の内に押し隠してしまう少女だった。 彼女には巧海という、心の底から大事に思っている弟がいた。 彼は少しばかり身体が弱くて、病院に通い詰めだ。 そして舞衣はそんな弟のことをずっとずっと気に掛けていた。 ――私は、お姉ちゃんだから。 そんな意識をずっと抱えていた気がする。 本当は誰かに頼りたくて頼りたくて堪らないのに。 不安で、心配事で潰れてしまいそうなのに、無理ばかりしてしまう。 苦しいことを心の奥底にある棚の中へと押し込んで蓋をして、自分だけの問題にしては外の顔ばかりを取り繕っていた。 だからこそ、ゆたかが「自分を頼ってもいい」と言ってくれた時に、舞衣は本当の気持ちで笑えたのだ。 一人一人ではちっぽけな存在かもしれないけれど、舞衣の側にはゆたかがいてくれた。 二人、だ。 一人じゃない。頼れる相手がいる。 全部心の中に抱え込む必要はないのだ。 だから――無敵だ。 絶対に負けるはずがないと思った。 舞衣もゆたかも胸を張って、全力で目の前の障害に立ち向かうことが出来たのだから。 若干の沈黙に舞衣は心の底から居た堪れない気持ちになった。 望まれてやったことだとしても、相手の感情がこうしてモロに伝わって来るとなると話は別だ。 覚悟を剣に、使命感を刃に、決意を炎に変えて戦っていた数分前とは状況が全く異なってしまっている。 怪物にしか見えなかったチミルフが、 何故かこうしていると本物の人間と変わらないように見えてくるから不思議だった。 星空へと食い入るように視線を寄せるチミルフの眼が輝いて見えた。 いつの間にか――チミルフの瞳から紅色が消えていた。 「ルルーシュの力に取り込まれた時……既に〝怒涛〟と呼ばれた武人は死んでいたのかもしれんな」 「え……今なんて――」 ニィッ、とチミルフが一瞬だけ豪放な笑みを浮かべたような気がした。 棒切れのようにピクリともしなかった彼の右腕が動いた。 大槌を天を突き破らんばかりに持ち上げ、そして、 「螺旋王ッ!! 忠義を失った哀れな部下にせめて獣人らしい最期を!!」 振り下ろした鉄槌を――チミルフ自身の頭蓋へと叩き付けた。 「え…………」 赤色の血潮が辺り一面に噴水のように降り注いだ。 支える力を失った鉄槌が地面へと落下して鈍い音を立てる。 万力によってひしゃげた男の骨は粉々に砕かれ、血流からサラサラと粉末のように流れ落ちる。 黄身を帯びた白いペースト状の物体が道路にぶちまけられた。 そしてドサッ、という小さな音と共に、チミルフの身体がコンクリートの上に倒れ込んだ。 「きゃああああああっ!」 「ゆ、ゆたかっ! 見ちゃダメ……!」 あまりに凄惨な光景にゆたかが悲鳴と共に顔を覆う。 だが、彼女を庇おうとした舞衣の顔面も引き攣り何が起こったのかを理解出来ずにいた。 「な、なんで……」 呻りのような言葉しか出て来なかった。 誇りを否定されたことが、 武人として満足行く戦いが出来なかったことが、それほど彼には苦痛だったのだろうか。 もしくはもっと他の理由が……あったのだろうか。 舞衣は戦いの中に己を全て埋没させている訳ではない。 彼女を構成する要素はいくつもあって、HiMEとしての側面はその中の一部に過ぎないのだ。 誇りも、 忠義も、 武人としての生き様も、 ソレが自身の命を絶つに相応しい理由なのか、舞衣には分からなかった。 ただ一つ、漠然とした結末だけが転がっていて。 それだけが彼女の理解出来るハッキリとした事実で。 パチパチと燃え続ける街。溶けたコンクリートに抉れた大地。 星と月だけが埋め尽くす宇宙の瞬きに包まれて――男は逝った。 ◇ もう一歩意地を通していたら流石に死んでいたかもしれない。 カミナの目の前には巨大なクレーターが広がっていた。円は綺麗にカミナの鼻先から始まっていたが、対岸が見えないためその全貌を窺い知ることはできない。 派手な喧嘩に相応しい置き土産と言ったところか。ともかく戦いは終わったらしい。 「へへっ、あの馬鹿野郎ども見せつけてくれんじゃねぇか」 スポーツで名勝負を観戦した後のようにさっぱりと笑い、体にこびりついた土砂を払う。 さすがに身が持たなかったのか最後の瞬間の記憶はなかった。そのため勝負の行方がどうなったかは分からない。 だがそんなことは些細な問題だ。 カミナはクレーターの中に降り立った。 この先に進み、立っていたものが勝者だという根拠のない確信に突き動かされ足を動かす。グレンラガンやクロスミラージュのこともあったが、不思議とそれほど不安はなかった。 底に近付くにつれて水が溜まっていた。どうやら穴は水辺と繋がってしまっているらしい。 クレーターの中心に居るのは激戦を潜り抜けた一体のロボットである。やはりというか、もう片方は影も形も見えない。 声の届く距離まで一気に駆け寄って、カミナは勝者へと声を張り上げた。 「おう!見せてもらったぜぇ……ドモン!」 「カミナ……か?お前まだこんなところに……」 立っていたのはアルティメットガンダムだった。 生物的だった外観のそこかしこから機械が剥き出しになり、あれ程活発だった再生も殆ど進んでいないが、それでも最後に立っていたのはドモン・カッシュだったのである。 「言われっぱなしで逃げたんじゃあグレン団の名が廃るってもんだ!……おかけで久しぶりに良いケンカを見せてもらったぜ」 「ふ……お前という奴は」 アルティメットガンダムの損傷具合と同様、スピーカーを通して聞こえるドモンの声も限界寸前という様子だったがカミナへの不快感は感じられない。 ただの野次馬とはまた違う表情を見せるカミナに何かを感じたのかも知れなかった。 「ヴィラルの野郎はどうしたぁ?派手にぶっ飛んじまったか?」 「そのようだ……死んではいないだろうが確かに手応えがあった。もう戦闘はできまい」 「クロミラは?」 「無事……のはずだ」 つまりは万々歳という訳だ。敵は倒れ、味方は皆健在である。 もっとも俺もこいつもボロボロだがな、とドモンは笑った。そこに自嘲的な感情はなく、代わりにやり遂げた男だけが持つ誇りが感じられた。 「なら今度こそクロミラを取り返しに行くとしようじゃねぇか。まさか歩く力もねぇなんて言わねぇだろうな?」 「ああ……どのみちこいつはここで眠らせてやった方が良さそうだ」 何かを惜しむような、懐かしむような響きがあった。そう思った理由まではカミナには分からなかったが。 「仲間とも合流しなくてはな……ぐぅお!?」 ハッチが開かれる寸前、上空から降り注いだ何かがアルティメットガンダムの周囲で爆発し、その巨体を揺らした。生じた突風にカミナの体も宙を舞う。 「あでぇ!何だぁ!?」 訳も分からず顎から強かに地面に打ち付けられ、カエルが潰れたときのような妙な音を立てた。 世界が反転していたのも一瞬、持ち前の頑丈さで素早く身を起こすとカミナはきっ、と眼前を睨み付ける。 黒い巨体がそこにあった。一瞬にして現れ、崩壊寸前のアルティメットガンダムに攻撃を加えた新たな敵である。 「てめぇは……!」 漆黒に赤を差した禍々しき機体。ネオホンコン代表マスターガンダム。 それを支える真白きモビルホース。操るは愛馬風雲再起。 「ふん。見事だ。見事であったぞドモンよ」 流派東方不敗開祖。東方不敗マスターアジアその人である。 時系列順に読む Back HAPPY END(7) Next HAPPY END(9) 投下順に読む Back HAPPY END(7) Next HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) ヴィラル 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) シャマル 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) 菫川ねねね 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) ジン 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) カミナ 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) 東方不敗 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) チミルフ 285 HAPPY END(9) 285 HAPPY END(7) 不動のグアーム 285 HAPPY END(9)